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03 誰?


王立ベルリーブ学校は、15歳になった生徒がテストを受けて、優秀な者だけが入学を許される。


王子であるレナートも正規のテストを受けて1年生から入学。

そして、3年生になった今、成績優秀者のレナートは当然生徒会に入り、それなりに充実した学生生活を送っていたのだが・・。


なんと、今までこの学校に通っていなかった幻の姫、ルクレツィア・アンサルディが3年生というこの時期に編入してきたのだ。


勿論テストも受けて、素晴らしい学力と先生達も誇らしげに語っていたから、本当に実力で3年生になったのだろう。


他の生徒達は彼女と1年だけでも学校生活を一緒にできると大騒ぎして喜んでいたが、レナートは彼女の腹の中が真っ黒な令嬢だと知っているのせいで、ただただ気が重い。

できれば距離をおきたいと考えている。


彼女が登校してくる初日、編入の手続きの行き違いで、ルクレツィアは2時限目からの登校になった。


そして、その時間になると彼女を一目見ようと授業中にも拘わらず生徒は窓に集まり、廊下を通りすぎるのを待っていた。

しかも、それを止める立場の教師までも、一緒になってルクレツィアが廊下を通りすぎるのを待っていたのだ。


誰も注意しないとなれば、学校全体の行事のようだ。


そうして待っていると、彼女が学校の制服に身を包み、廊下を歩く。

あれ? この制服ってあんなに優雅だったかしら? 本当に同じ学生服?

女子達は自分との違いを目の当たりにし、ルクレツィアの制服は特別仕様のドレスなんだわと 思い込もうとした。


男子生徒も女子生徒も先生も皆「ほおー・・ぅ」とうっとりと見送る。

時々、我慢できずに「ルクレツィア様!!」と熱狂的なファンが呼び掛けると、美しい口角が上がり、軽く会釈する。


会釈された生徒は失神寸前で、これまた大騒ぎ。


エレクトリ○ルパレードと同じくらいの盛り上がりを見せたが、それも、彼女が教室に入ったことで終了した。


その教室の中にはレナートがいたのだが、レナートは前の左端に座席があり、ルクレツィアの席は一番後ろの右端っこで、レナートのスキルが発動しないように制御できる距離であった。


座席に座るルクレツィアは、博物館に飾っている大理石の像のように神々しく、何時間でも見ていられる程美しい。

周りの生徒や教授までもが、授業そっちのけで涎を垂らさんばかりに口を開けて魅入っている。


ルクレツィアが、困ったなと苦笑して首を傾げた。


その瞬間レナートは、彼女の毒舌も忘れて自分が助けなければと、なぜか思ってしまい、「さあ、みんな早く授業を始めよう」と手を叩いた。


教授もやっとその音で我に返り、教台に立ち授業を始めたのだった。


休み時間になるとその教室は、王子目当ての女子生徒と、ルクレツィア侯爵令嬢目当ての男子生徒が入り乱れ、少しパニックになる。


だが、ルクレツィアからはレナートに近寄ることはない。

そのうち、レナートはルクレツィアの心の声を聞いた恐怖も忘れ、話をしたくて堪らなくなる。


(王子の私を気にしすぎて、近寄れないのだろうか? それならば、こちらから話しに行くべきか?)


人間とは、あれ程恐れおののいたとしても、時間が経てば忘れるものなのだ。

王子の中では、ルクレツィアの美しさで、パーティーでの出来事は聞き間違いだと処理されていた。


たまたま、廊下ですれ違っても、ルクレツィアは美しい微笑でさらりと通りすぎる。

(また・・)

ルクレツィアがスッと足早に通り過ぎるものだから、彼女の心の声が聞こえそうで聞こえない。


その続きが知りたくて、ついルクレツィアを引き留めてしまった。

よせばいいのに・・・。


「ルクレツィア嬢、少し話をいいか?」


「もちろんですわ」

(ああ? 誰こいつ? 知らないんですけどぉ? 知らない奴が私の行く手を塞ぐんじゃねえ!! 限定コロッケパンがなくなったら、おまえが責任とれんのか? 黙ってないで早く言え!! 用事があるなら5秒で言え!)



――ああ! そうだった!!

パーティーでの事は夢ではなかったんだ!と思い出すレナート。

この美しい令嬢の心の声がこんなにも汚いなんて、誰が思うだろう。

蒼白になっているレナートに苛立つルクレツィアだが、表面上は女神級。

だが、心の声は魔王級。


(こいつ・・! まだ待たすのか?

!)


恐ろしい声にレナートは、必死に声を絞り出す。

「いや、用事は今度にするよ」

冷や汗が流れる王子の横を通り過ぎるルクレツィアから、(チッ!)と舌打ちが聞こえた。



どうやって生徒会室までたどり着いたのか分からない。

レナートはギャップがこれほどまでにある人物とはお目にかかったことがなくて、食事も喉を通らない。


数分後、冷静になってくれば、起きた事への反省を考えていた。


「喉元過ぎれば熱さを忘れる。昔の人は良く言ったものだ」

これを二度と忘れないようにしようと心に誓う。


「しかし、私の顔を覚えてなかったんだ・・」

それが一番のショックだった・・。


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