13 心の中は♡
静まり返る講堂は、たった今起こった事が本当の事なのか、実はどっきりなのか?と判断できず、皆動けないでいた。
再び佇むルクレツィアはやはり女神のように美しくて、今見たことは幻ではないのかと思い始めている生徒が大多数である。
淑女の鑑のような存在だと疑いもしなかった女性が、先程留学生に言った言葉の数々は、衝撃が強すぎたのだ。
皆が大口を開けてポカーンとしているところ、ルクレツィアが自嘲気味に話す。
「バレちゃったな・・。親父の賭けにも負けたしフィギューレ王国への留学もなしかー!! くそっ」
その心の中で、もう一つの想いが語られた。
(それに、こんな口が悪けりゃ王子と結婚なんて、誰が許すのさ? やっぱ王子妃なんて優雅で清楚がいいに決まっているしな!!)
スッキリとした口調なのは、既に諦めているのだろう。
ルクレツィアが諦めても、諦められないレナートは我慢出来ずに、ルクレツィアの手を取り、顔を近付けて瞳を逸らさず話しだした。
「ルクレツィア、君がフィギューレ王国に留学したいと本気で望むならば、私がアンサルディ侯爵に頼んで、行かせよう。だが、その前に私との事を、もう一度考えて欲しい。君が優雅でも勇ましくても、淑女でも、野蛮でも、そのままの君がずーっと好きなのだ!だから・・私と結婚して欲しい!!」
レナートが握る手の強さで、本気な事も、ルクレツィアを離す気がないのも分かった。
(でも、こんな口の悪い王妃なんて、王子だって恥ずかしいだろう?)
「恥ずかしいなんて思わない。むしろ新鮮で楽しい」
(王子が良くても国民が反対するよ?)
「全てが敵に回っても、私は君の味方だ。それに、君の魅力を知ってもらえば国民だって納得するさ!」
「絶対に守る!」
「私の全身全霊をかけて君だけを愛する!!」
「私の手を取ってくれ!!」
他の生徒達には、ひたすらレナートだけが一人で必死に愛を囁いているように聞こえるが、そうではない。
ルクレツィアの心の声とレナートの押し問答が繰り広げられていたのだ。
だが、これは他から見ればレナートがルクレツィアに愛を囁き続けているようで、生徒全員がキュン死寸前だった。
それでも、まだ躊躇うルクレツィアのために、レナートが講堂にいる人々に質問をした。
「皆が聞いた通り、ルクレツィアは淑女の時もあれば、怒るとあのようにインパクトのある話し方をする。だが、心根は真っ直ぐだ。そんな彼女に心惹かれた。そして私は以前から求婚しているのだが、君達は反対するか?」
ざわざわしていたが、水を打ったように静かになる。
だが、ここでキュンキュンし続けた一人の女子が手を挙げて発言した。
「誰でも人間性って2つ以上持っているもの。それに、ルクレツィア様があの場であの留学生に言ってくれたことで、私はスッキリしましたわ」
そう言うとうんうん、と頷く生徒達!
ここでまた別の生徒が前に出た。
「いいわ! すうーっごっいい! 人形みたいに微笑んでたルクレツィア様は人ならざる者って感じだったけど、強くてハチャメチャで破天荒ぶりは、ギャップ萌えの最高峰よ!」
「最高!!」と感極まって手を叩くと、一斉に他の生徒も手を叩いて賛成してくれた。
特に女子の支持が激アツだった。
「どんなルクレツィアも素敵って事だ」
ウィンクするレナート。
そして、とうとう・・
ルクレツィアが折れた。
「じゃあ、王子妃教育を頑張ってみるか・・」
と、観念。
「やった!! ありがとう、ルクレツィア!! 絶対に後悔はさせないよ!」
抱き上げ、くるくる回る二人に拍手は続く。
◇□ ◇□
数週間後・・
(くっそぉ! 王子妃教育って勉強だけじゃねえのかよ!! 刺繍ってそんなの聞いてねえ!!)
嘆くルクレツィアに、レナートが「それが出来上がったら一番最初のは私に下さいね」
と嬉しそうに苦戦する様子を見守っている。
(ふん。今何を刺繍しているのか当てたら、あげてもいいが分かるわけがねえな・・だって馬じゃなくてどう見てもモンスターだろ)
「じゃあ、これは何を刺繍しているのか分かるの?」
「それは馬だね。しかも私の愛馬だ」
「え? なんで分かった?・・ってそう言えば、講堂で私に話しかけていたけど、私って声に出して話していたっけ? だって、今だって・・あれ?」
訳が分からなくて侍女のカーラをチラッと見る。彼女はルクレツィアとレナートのためにお茶をいれているところだった。
そして、主人が王子といちゃいちゃしているのを微笑ましく思い『にっこり』と目を細めた。
しかし、ルクレツィアはこれを勘違いした。
誰よりも仕事が出来るカーラの事だ。
主人に恥を掻かせないように、刺繍の図案が馬だとレナートに話していたのだろう。
それに、講堂の時だって、自然に声が表に出ていたのかも知れない。と。
(うんうん、そうだ。それに、私がレナートを愛していることにかわりはないのだから・・・)
悶絶するレナート。
「ルクレツィア!! 私も、愛しているよ!!」
「え? なんで分かった? ええー?」
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