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10 ご機嫌な令嬢


生徒会室内、表向きは静かだった。

だが、ルクレツィアとジョルジュの心の中が騒がしく、レナートは集中できない。


(あはーん、今日もルクレツィア嬢のご尊顔を拝し、僕の心の中は常に浄化されてクリーン!!)


何を言っているのだ? 浄化されていないから煩悩だらけじゃないか!と突っ込むレナート。

いや、気になっているのは、ジョルジュの心の中ではない。

ルクレツィアの心の声がいつもと全然違うのだ。


いつもならば、細かい作業をしている間中、毒づきが止まらないのに、なぜか今日は鼻唄らしきものが聞こえてきて、とても機嫌がいい。


(フフフ ふんふん ふふ

ふーん・・うふふ)


――なんだ? 何がそんなに嬉しいのだ?

レナートは自分の作業する手を止めてルクレツィアの心の声に全て焦点を合わせ気持ちを集中させる。


(やった! やったわー! 一年待たずしてフィギューレ王国に留学に行けるかもーー!! きゃほーーーいい)


ガバッと顔を上げてルクレツィアを見つめてしまうレナート。

(どういう事だ? この一年頑張って大人しく過ごしてベルリーブ学校を卒業できたら留学するんじゃなかったのか?)

作業の手を止めていることに気がついたルクレツィアが、レナートにやんわりと作業を促す。

やんわりとというのは、もちろん表の声だけだが・・。


「あら? 殿下どうされたのですか? うふふ、作業の手がお・留・守・ですよ!」

人差し指を1本だして、お留守に合わせて左右に振る。


その仕草が可愛くて、ボーッとなりそうだが、ジョルジュの心の声とルクレツィアの闇の声のお陰で冷静でいられた。

(クオー!!、殿下ぁ、見ましたか?エロかわいいじゃないですかぁ・・しぬぅぅ)

(働かざる者食うべからずだ!! 手え動かせやーー!!)


――冷めた。

冷めきった頭で、もう一度留学の話を考えてみる。

交換留学の話など聞いてはいない。ではなぜ? 

自分は知らないだけで、そういった話があるのかもしれない。


用心深くルクレツィアに尋ねた。


「そういえば、前に親書がフィギューレ王国から届いたのだけれど、かの国では王族も武芸に秀でているそうだね」


フィギューレの名前を聞いてルクレツィアの顔がぱーっと明るくなる。


「ええ、現在の国王は若く血気盛んな方で、そのお姉さまであられる王女様も剣の達人とお聞きしてます」


(で、結婚してくれって言って来たんだよね!!アルバートったら気が早いから、子供は5人は欲しいって・・)


「ブフーーーウ!!」


お茶を吹き出すレナート。

そんな醜態を見たことがないジョルジュが大慌てだ。

「どうしたんですか!! 殿下!!」


タオルや氷など走り回って用意しようとするも、それを押し退けてふらふらと生徒会室を出ていってしまった。


「けけけ、、こん」

レナートの脳裏に『結婚』の2文字がのし掛かる。

――どうすればいいのだぁぁぁ。


絶望の淵にたたされているレナートをおいて、生徒会の2人は、書類をせっせとこなしてした。


「レナート殿下は、いったい、どうされたのでしょう?」

首を捻るルクレツィアは自分の心の声が引き起こしたなんて知らず、そう言ったきり気にも留めていない。


「『こんこん』言ってましたけど、狐に取り憑かれていたら嫌だな」

能天気なジョルジュも対して変わらない意見だ。


二人がそんな実のない話をしていた頃、レナートは音楽堂のある広場で一人佇み、自分の置かれている状況を努めて冷静に客観視してみた。


まず、恋する相手には、虫けらのような扱いを受けている。心の中でだが。

つまり、今のところは全く相手にされていない。

そして、彼女はこの国から出ていくことばかり考えていて、その向かう先には結婚相手がいる・・。


「あああ・・もうこれって絶望的じゃないか!!」


頭を抱えるレナートに優しく声をかける者がいた。


「レナート殿下、大丈夫ですか?」

(どうしたのかしら? 辛いことでもあったの?)


表裏が同じ意味の優しい声が嬉しい。と、レナートが顔を上げる。

そこには、ルクレツィアの兄である、グラートがいた。

軍服が凛々しいが心の声はまるで違う。


ルクレツィアに似て美形で、それでいて体格はガッチリしてそうだ。


「今日は学校に何か用事があったのですか?」

レナートが尋ねると、少し動揺して目をそらす。

「妹に読んでもらいたい手紙が届いたので、申し訳ないが学校まで押し掛けた次第です。ですが、学校の許可は取っていますので、ご安心ください」


(だってぇ、フィギューレ王国の、アルバート殿下からの手紙だもの、一緒に読んで欲しいわよね)


「今まで聞いたことのない王国だったのに、こんなにも頻繁に聞かされるなんて、腹立たしい・・・」

小声でぶつぶつ言うレナートは、いつもの冷静な王子の欠片もない。


(あらやだ! この王子ってばこんな病んでる感じで大丈夫なの? ルクレツィアちゃんが心配だわぁ)


ハッとする。

自分はまだルクレツィアに告白すらしていない、まだどこぞの王子に負けたわけではない!!


立ち上がるとグラートに「その手紙をルクレツィア嬢に見せるのはちょっと待ってくれ。せめて、自分の気持ちを伝えてから、手紙を見せて欲しい。私はアルバート王子に負けるわけにはいかないんです!」と頭を下げると、すぐに走り去った。


だから、「ええ? アルバートは王子じゃないわよー!!」と叫ぶが、グラートの声は届いていなかった。



短くてすみません!

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