第92話 本心の吐露
「――いや、なんでここにいるかなんて……お前たちが心配だからに決まってるじゃないか。そうだ、リンはどうしたんだ? 無事なのか?」
「――――もういい、今すぐ帰れ」
「……え?」
「余計なことに首を突っ込みやがって……これは、オレとリンの問題だ。アンタは関係ないだろ。それに、ここはGODSの本拠地だぞ? こんなところまで来やがって……バカなのか? オレたちのことは放っておいて、今すぐにここを出ていくんだ」
「――っ」
あまりに冷ややかで辛辣な言葉に、俺は一瞬言葉を失ってしまう。だがそのすぐ後に、ふつふつと怒りの感情が沸き上がる。
その感情に任せて、カティアの両肩を掴みこう言った。
「……ふざけるなっ! 今さら他人のような扱いはするなよ。もう俺たちは他人同士じゃないんだよ! そりゃあ俺は頼りないかもしれないけどさ……関係ないだなんて言うなよっ!」
……わかってる。わかってるさ。
カティアは俺を危険に巻き込みたくなくて、わざと突き放すように俺に冷たい言葉を放ったのだろう。心配の裏返しだってことは、わかってる。
俺が怒りを感じたのは、自分自身にだ。俺にはいざというとき頼ってもらえるような力が無い。プラモ作りぐらいしか能がないのだ。そんな自分の無力さが悔しくて苛立ちを覚えたのだ。
「ケイタ……」
「カティア、お前一人で頑張らなくたっていいんだ。もっと他の人間を……俺を頼れよ! 俺はお前たちのことを迷惑だなんて思わないし、頼まれればなんだってするさ!」
「でもオレは……誘拐までして、ケイタには既に目一杯迷惑をかけたんだ。なのに、オレたちのために『命を賭けてくれ』だなんて、そんな傲慢なこと言えるわけねぇだろ……!」
「あぁ!? 迷惑上等だよ。……いいか、もう俺はカティアとリンのことが好きになったんだ。大切な人が危険な目にあっているのに、ただ見ているだけなんて俺にはできない。たとえ近付くなと言われても、俺は二人のことを絶対に放ってはおかないからな」
「オレは……あ、あたしはっ……!」
カティアの肩が小刻みに震えていた。瞳にはうっすらと涙を浮かべ、顔をくしゃくしゃにしている。
「あたしはずっと頑張ってきたんだ! リンを守らなきゃって……リンと二人きりになっちまったとき、周りの大人は誰も助けてくれなかった。だから、あたしが強くならなくちゃいけないって……!」
「ああ」
リンと二人取り残されたとき、彼女は強くあろうと必死だったに違いない。年上の自分がなんとかしなくてはと、試行錯誤を繰り返しただろう。
舐められないようにと一人称を変え、髪も短くし、体も鍛え、強くあろうとしたのだろう。その努力もあって、裕福ではなかったが今まで暮らしてこれたに違いない。
そんな彼女がここまで弱音を吐くほどに、敵は強大なのだ。
「なのに全然足りなかった! それに今回の件はあたしの不甲斐なさが招いたことだったんだ! 余計なことを考えずに、静かに暮らしていればこんなことにはならなかった! 全部、なにもかもあたしの責任だ……!」
「そんなわけないだろ。真実を知ろうとするのは何も悪いことじゃない、当然の権利だ。それに、リンをためを想っての行動だったんだろ?」
「う、うん……リンには、幸せになってほしくて」
「俺も同じ気持ちだ。だから、ひとりで全部しょいこむな。その背中にのしかかる荷物を、俺にも少しわけてくれよ」
俺は、鼻をすすりながら幼い少女のように泣きじゃくるカティアを両手で抱き締める。
すると彼女は気持ちが落ち着いたのだろうか、大声をあげて泣くことはせず、俺の胸に顔をうずめて、小さく肩を震わせ続けていた。




