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第8話 街へとご案内

 一晩明けて朝が来た。


 昨晩はクロードさんに凄まれたので、寝れないかと思っていたけど、疲れていたのだろう。ベッドに寝転がった瞬間、案外サクッと眠りにつけた。


「ふぁーあ」


 あくびをしながら体を伸ばす。この世界で一日過ごしたが、疲れも、身体の痛みとかもなく、特に問題はなさそうだ。

 そして寝て起きたことで、やっぱり今の状況が夢ではなかっかたのだなと改めて感じた。


「目覚めたら日本だった……ってわけにはいかないか。全部夢だったなら、今頃家でプラモデル作ってたんだろうなぁ……」


 異世界生活に憧れもあったが、やはり長年続けてきた趣味が無くなるのも辛い。謎スキル一つだけで先行き不安だし、いっそ夢だったらと願うのも無理はないんじゃなかろうか。

 異世界に来て早一日。さっそくホームシックになってきた。

 

「あー、でもこっちには巨大ロボットがマジで存在してるんだよなぁ。もしかしたら乗れるかもしれないし」


 その一点だけは、日本にいたら絶対叶わなかったと思う。もしかしたら、十年、二十年と経てば実現されるのかもしれないが、仮にそうなったとしても、それに乗れるのは一握りの人間だけだろう。

 そう考えたら、こっちの世界で暮らすのも悪くないかもしれない。


 そんなことを考えていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 こんな朝早くに誰だろうか……?


「あ、はーい。どうぞ」

「失礼します」


 扉を開けて部屋に来たのはシルヴィアだった。

 こんな朝早くに何か用だろうかと思ったら、その手にはパンやらスープやらが乗ったトレーを持っていた。

 ……ああ、朝食を持ってきてくれたんだな。


「ケイタさん、朝食をお持ちしました」

「わざわざ部屋までありがとう、シルヴィア」


 ……うん。持ってきてくれたのはありがたいんだけど、あれだけ使用人がいるのに、令嬢自らがわざわざ運んでくれる必要は無いと思うんだ。

 まあ、なにやら楽しそうだからいいんだけどね。俺も朝から美少女が見れて悪い気はしないから、あんまり気にしないでおこう。


「ささ、どうぞケイタさん」


 ぱぱっと手近にあった丸机にテーブルクロスを敷き、食事の準備を整えたシルヴィアは、俺に着席を促す。俺が椅子に座ると、シルヴィアも対面の椅子に腰を下ろした。

 あれ、いっしょに食べる感じかな?


「じゃあ……いただきます」


 俺はさっそく朝食に手を付けはじめるが、一方でシルヴィアはなにやらニコニコと微笑んでいて、一向に食べはじめる気配がない。


「えーと、シルヴィアは食べないの?」

「はい。私はもう朝食は済ませてますので大丈夫ですよ」


 さいでか。しかし、運ばれてきた食事は明らかに二人前ぐらいはある。てっきり一緒に食べるのかと思っていたのだが、違ったらしい。

 あれか。昨晩の俺のドカ食いを見て普段からめちゃめちゃ食べる人だと思われてるのかな。まあ出されたものは可能な限り食べるけども。

 とはいえ、見られながら食事をするのは気恥ずかしく、なるべく早く食べ終わろうと、残った食事を口のなかに掻き込んだ。


「……ごちそうさま。美味しかったよ」

「はい。それでは参りましょうか」

「え……? どこに?」


 シルヴィアが待っていたのは、俺をどこかへと連れていくためだったようだ。しかしこんな朝一番にどこへ向かうのだろうか。


「もう……ひどいですよケイタさん。魔動人形について教えてくれって、私に頼まれたじゃありませんか」


 頬を膨らませ拗ねた素振りを見せるシルヴィア。怒っているのかもしれないが、ハムスターみたいでとても愛らしい。

 しかし、昨日なんとなくで交わした口約束を律儀に守ってくれるだなんて、真面目な性格なんだな。


「そ、そうだったね。じゃあお願いしようかな」

「はい、じつは魔動人形のことを知るのにうってつけの場所があるんです。そこへご案内しますよ」

「へー、そうなんだ。楽しみだな」


 ……と、言ったのはいいものの、ふと、ひとつの疑問が浮かんだ。


「……ていうか、外出歩いて大丈夫なの? 何か大変な事情があるみたいだけど」


 そういえば、シルヴィアは先日誘拐されたばかりのはずだよな。そんななか、不用意に街へと出向くなど、あのご両親が許すはずもない。

 するとシルヴィアもそこは盲点であったらしく、「あっ」と声を漏らし、そのあとしばらく考えに耽っていた。


「――――だ、大丈夫です! 変装していきますから!」


 うん……まあ昨日の今日だし、変装すれば大丈夫かな?

 俺も街は見てみたいし、黙ってればバレないでしょ。


 変装の準備のため一度自室に戻ったシルヴィアを見送り、玄関口でぼーっとしてること三十分あまり。まだかなあと思っていたら俺のそばへメイドさんがやってきた。

 なんだろう、俺に用事かな?


「お待たせしました、ケイタさん」

「シルヴィア!? どうしたのその格好は!?」

「ふふーん、もちろん変装です!」


 声を聞いて顔をよく見たら一発でわかった。俺の前に現れたのは、ふわっふわなメイド服に身を包んだシルヴィアだった。髪型もポニーテールへと変わっている。

 変装がバッチリ決まっていると自負してるのか、自信満々にドヤ顔を決めていた。


 だが服装と髪型が変わっただけで、特に顔を隠したりはしていない。正直モロバレである。

 ただでさえ端整な顔立ちで目立つので、そこを隠さないのは変装としては下の下じゃなかろうか。そもそも、出会って一日の俺に初見でバレている時点でどうかとも思う。


 まあ、今更着替え直しを要求するのも忍びない。本人も満足そうだし、格好に関して特に物言いはせずに、俺とシルヴィアは街へと繰り出したのだった。

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