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第7話 ヴァイシルト伯爵家

 その後、シルヴィアに紹介されたことで、なんとかご両親からの信用を得た俺は、お礼として夕食をご馳走になる運びとなった。


「――うまっ! なにこれうまっ!」

 

 いかにも高級そうな長いダイニングテーブルの上には、数々の皿が並べられていた。

 しかし、思っていたよりは庶民向けっぽい料理が多かった。高級レストランのフルコースのような豪勢な感じを想像していたけれど、まあ、腹に入れば同じだ。腹ペコな俺は、出されたものをかたっぱしから貪り食う。

 

「はは……よく食べるね」


 同席しているナイスミドルな人物は、俺のあまりにもの食べっぷりに若干引き気味のようだ。この人は『エドワルド・ヴァイシルト』さん。言わずもがな、シルヴィアの父親であり、この街含む、辺り一帯を治める領主様だ。


「ふふ、弟の小さい頃を思い出すわ。男の子はこれぐらい食べなくちゃね。ささ、どんどん召し上がれ」


 溢れる母性で俺を甘やかしてくれるこのおっとり美人マダムは、『カトリーヌ・ヴァイシルト』さん。シルヴィアの母親とは思えないほどに若く見える。実年齢を聞いてみたいが怖くて聞けないな。


「ケイタさんに喜んでいただけたようでなによりです」


 シルヴィアも俺の食べっぷりを見てにっこりと微笑み、特に無作法を咎める様子はない。きっと性格は母親似でおっとり系なのだろう。

 さっきまでの気まずさも抜けきったようで、自然に接してくれているように感じる。……よかった。デリカシーのないことして嫌われてたらどうしようかと思ってたけど、許してくれたみたいだ。


 これで遠慮なく飯を食えるってもんだ。


 おっ、これも美味い。



 ――そして、食事を終え一息つき、団欒の時間となった。


「――私が人質に取られてしまって、そのせいでクロードも捕らえられてしまったの。もうだめかと思っていたら、ケイタさんがその身を挺して助けてくれたんです」

「そうかそうか。クロードになら任せて大丈夫かと思っていたのだが、私の判断が間違っていたようだ。サガミ殿、改めて礼を言うぞ」

「あ、いえ。偶然そういう流れになっただけなので……」

「あらあら、そんな謙遜しちゃって。あなたの勇気は素晴らしいわ」


 話は自然と事件の経緯を語るものとなっていた。そんななか、シルヴィアは俺のことをやたらと褒めてくる。

 彼女が言うほどたいしたことをした自覚もないので、俺は気恥ずかしくなって別の話題を振った。


「というか……シルヴィアはなんで誘拐されてしまったんですか?」


 俺の問いに場の空気が一気に凍りつく。

 あ、やっべ。聞いちゃ不味かったかな。きっと政治とかに関わることだろうから、俺なんかに話すことじゃないよな。


 不用意な発言を後悔するも、一度口に出した言葉が戻ることはない。誰もが口をつぐむなか、エドワルドさんが重い口を開いた。


「……話してもよいが、これを聞いてしまったらサガミ殿もこの件の部外者ではいられなくなる。その覚悟が君にあるのかね?」


 そんなことを言われたら、恐ろしくてこの先は聞けない。今回はたまたま俺のスキルが噛み合って、うまいこと立ち回れたから良かったものの、能力値クソザコのうえ戦闘スキル無しの俺が何かの助けになれるとも思わない。

 魔法でも覚られるなら話は別なんだろうけど、そもそも他のスキルを覚える手段を知らないのだ。

 なので厄介ごとに巻き込まれぬよう、俺は慌てて発言を引っ込めた。


「あ、いえ……すみません。言わなくて大丈夫です。俺が軽率でした」

「うむ、それが賢明だろう。我らとて貴殿を当家のいざこざに巻き込みたくはない。……さ、今日はもう遅い。この屋敷の部屋をひとつ貸すので、今日はゆっくりと休んでいかれるといい」


 お金も、行く宛もないので、エドワルドさんの申し出は非常にありがたかった。

 俺のせいで重い雰囲気になった食卓を離れ、クロードさんに案内してもらい部屋の前へと到着する。


 別れ際にクロードさんからこう告げられた。


「サガミ様。今回の件、感謝はしておりますが私には腑に落ちない点があります。魔物の蔓延る地域に武装もせずたったひとりでいたことや、この国のものとは思えぬ奇妙な服装をしていること。……お嬢様はあなたを信用しているようですが、正直な話、私にはどうもあなたの存在が胡散臭く感じられてしまうのです。当家は今、大変な問題を抱えています。不穏な芽は摘んでおかねばなりません。もし当家に仇なす存在なのであれば――――容赦はしませんよ」


 その鋭い瞳に気圧され、冷や汗が俺の頬を伝う。

 どうやらクロードさんにはあまり信用されていないようだ。シルヴィアの両親も親切にはしてくれてたけど、もしかしたら同じような心持ちだったのかもしれない。

 自分で言うのもなんだが、俺もクロードさんと同じ立場だったら相当に怪しんだ思う。

 

 しかし、弁明しようにも『異世界から来ました』なんて正直に言う勇気もない。

 俺は苦笑いでお茶を濁しながら、逃げるようにそそくさと部屋へと逃げ込んだ。

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