第75話 楽しもう
「……ん? どうしたんだカティア、もっと喜ぼうぜ!」
カティアがなにやら考え込んでいる様子だったので、俺はこの喜びを分かち合おうと声をかけた。
「……あ、いや……喜ばしいことではあるんだがよ。気を付けたほうがいいぜケイタ。こんな力、GODSの連中に知れたら絶対ろくなことにならねぇ。なんせ実質無限に魔動人形を生産できるだなんて、それこそこの世界を支配できるレベルだぞ?」
「――っ」
確かに、魔動人形は圧倒的な戦力、そして資金源にもなり得る。それをいくらでも生産できるとなったら、いずれ世界征服も夢ではないだろう。
もちろん俺に世界征服なんて大それたことをする度胸なんてないし、その理由もない。
でもカティアが言うように、現状この国の支配者たるGODSがそんな力を見逃すとも思えない。
少なくともこの国にいる間は、調子に乗って魔動人形をやたらと量産したりしないよう、なるべく慎重に動くべきだろう。
「そうだな……ありがとうカティア。俺のこと心配してくれたんだな」
「う、うるせぇな! 別にお前の心配なんてしてねぇよ! オレはGODSの奴らがこれ以上力を増すのが嫌なだけだっての……」
カティアは恥ずかしさからか、背を向けてしまう。
「――あーもう、まずはメシだメシ! 話しはそれからだ!」
「わーい、ごはんごはん!」
◇
「――んで、ケイタ。そのパテとかっていうヤツを生み出す聞いたこともないようなスキル。それが使えるお前は、いったい何者なんだ?」
「――むご?」
食事中、食卓につきながら最後の一口を口に入れたその瞬間、カティアが話しかけてきた。
未知のスキルを持つ俺の存在を、怪しんでいるのだろう。しかし、そう言われても俺だって気が付いたらこのスキルを持っていたわけだし、説明のしようがない。
っていうかそもそもスキルってどうやって習得するんだろうか。こっちの世界に来てから一個も新しくスキル覚えてないぞ俺。
「うーん……何者と言われてもなぁ。領地を与えられたりとかで領主の真似事はしてるけど、元々はただの一般市民だよ。ただ珍しいスキルを持ってるってだけだ」
「一般市民ってお前なぁ…………ああ、もういい。誰にだって言えないことの一つや二つあるだろうしな。ケイタに悪意がねぇこともわかってるし」
これ以上問いただしても無意味だと判断したのか、カティアは割とすぐに引き下がってくれた。
「……んで、次の選考はどうするんだ? それだけ素材があればいくらでも武装なりなんなり作れんだろ?」
「あー……それなんだけどさ、魔動人形の等級ってどうやって判断してるんだ?」
コンペティションの参加条件のひとつに、搭乗する魔動人形が般等級であることが義務付けられている。
そこでひとつの疑問があった。前回、サイクロプスは腕部のみ自作パーツに換装したけど、仮に他のパーツも自作のものに換装してしまうとどうなるのだろう。
それこそ殆ど原型がなくなってしまった場合、等級は変化しないのだろうか?
もし等級が変わってしまえば参加条件を満たせなくなり、参加ができなくなってしまうのではと考えたのだ。
「あ? あー……確か魔力核の種類で判断してるんじゃなかったか?」
「魔力核の種類? 機体によって種類があるのか?」
「いやオレは技師でもなんでもねぇから、詳しくは知らねぇよ。ケイタの方が詳しいはずだろ」
「いや、アークライト王国ではその辺は全然解明されてなくてさ……」
前にアークライト王国で本を読み漁っていたころ、当然魔動人形関連の書物にも目を通していたのだが、どれもこれも基本的な情報しか載っていなかった。
技師でもないカティアが等級の判断方法を知っているあたり、プラセリアとアークライトの技術力に大きな差があることがはっきりとしているな。
「そうなのか? ……まぁGODSは情報の規制もしている。特に技術的な事に関しては秘匿しているから、外部には漏れないんだろう。それにしたってこんな基本的なことすら知らねぇとはな……そんなんでアークライト王国の技師は大丈夫なのか?」
「いや……はは、面目ない」
昔の決闘相手、ザコブが使っていた時のシルバライザーは、子供が初めてプラモデル作ったのかってぐらい酷い出来だったしな。
研究施設も王宮内にしか存在しないってフラムから聞いたし、他と比べてかなり遅れてるだろうとは思っていたがここまでとは思わなかった。
「――しかし魔力核が基準か。となると、胴体さえ残しておけば他は全部新しく作っても問題なさそうだな」
魔動人形の動力源である魔力を生成する装置、『魔力核』は、殆どの場合胸部に存在する。……というか、搭乗した時にいる空間が魔力核の中なのだ。
でも、仮にイマジナリークラフターを使って胴体パーツを作ったところで、魔力核の機能が付与されるのかが不明だ。
スラスターなんかは見た目でわかりやすいので俺でも付けられたけど、魔力核はあくまで外からは見えない内部機構なので、どう作ればいいのか見当もつかない。
「まぁそうだな。他のカンパニーも、原型がわからなくなるぐらい改造してるし、問題ないと思うぜ」
「それなら胴体以外は全部新しく作るのもいいな……今日一日あれば両腕両足ぐらいは作れるだろうし」
「――まあその辺はオレは専門外だからケイタに任せる。んじゃ、リンをよろしくな」
カティアはどこかへ出かけるようで、おもむろに席を立った。いったいどこへ行くのだろう。
「あれ? どこか行くのか?」
「ああ……ちょっと野暮用でな。安心しな、昼飯時には戻るからよ」
「あ、うん……そうか。行ってらっしゃい」
食事の心配をしたわけではなかったのだが、どうやらはぐらかされたようだ。
まあカティアにもプライベートな時間は必要だろう。余計な詮索はしないておこう。
「リン、ケイタと仲良くするんだぞ」
「もぐもぐ……はーい! いってらっしゃい!」
いまだ食事を続けていたリンは、いったん食事を中断し、元気よく返事をした。
リンもあまり気にしている様子はないので、カティアが出かけるのも日常茶飯事なのだろう。
(さて……改造プランを練らないと。次はチーム戦って話だったけど、仲間の機体がどんなものかわからない以上、連携を取るのは難しそうだな)
まずありえないとは思うが、仮にチーム全員が盾役だったりしたら絶対に勝てない。事前に仲間の機体の武装や特徴がわかっていれば、チームのバランスが取れるように、サイクロプスを調整することもできたのだが、チームメイト情報が一切ないからどうしようもない。
ある程度万能にこなせる機体にするか、一芸に秀でた機体にするか、迷いどころだ。
「……難しく考えても仕方ないか。立ち回りはその場で考えるしかないし、現状考え得る最良の機体を仕上げるとしよう」
「ケーくん、リンもかんがえるよ!」
「ありがとうリン。じゃあ一緒に『遊び』を楽しもうな」
「うんっ!」
あまり気負っても良いアイデアは浮かばないだろう。
自分の好きなようにプラモデルを作れる。それは俺にとって最高の『遊び』だ。
それを存分に楽しむために、俺とリンは心を弾ませながらイマジナリークラフターを起動させるのだった。




