第71話 出る杭は打ち返す
どうやら派手にぶっ飛ばしすぎていたようで、悪目立ちしてしまったようだ。
他の参加者すべてのヘイトがこちらへ向いているのを感じる。……出る杭は打たれるとはよく言ったものだ。
俺を放置すれば勝ち目はないと判断したのだろう。言葉も交わさずに、俺以外の残り八機が結託してジリジリとこちらへの距離を詰めてくる。
「……おいおい、寄ってたかっていじめようってのか?」
幸いなことに、警戒してすぐには仕掛けてはこなかったおかげで、消費した魔力は回復した。
だが、正直この数を連続で相手にしていたら、どこかで魔力が尽きるだろう。サイクロプスは一般等級なので魔力容量が低く、継戦能力が心許ないのだ。
「――お、まとめて倒すいい手を思い付いたぞ」
魔力消費を抑えたハンドガンタイプの射撃武装は通用しないとわかっているのだろう。各々が近接武器を構えながらこちらへと近づいてくる。
「もっとだ……もっと引き付けろ……! ――ここだっ!」
もう少しで間合に入ろうかといったとき、やや後退しながら左肩部に装着した武装、『つぶねばでーる君』を撃つ。
つぶねばでーる君から放たれた散り散りに飛ぶ無数の弾丸が、固まって迫り来る敵機を漏れなく捉えた。
だがこの武装に攻撃力はない。すべての敵に当たったところで一網打尽とはいかないのだ。
しかし狙いは時間稼ぎと、機動力を奪うことなので問題ない。
「な、なんだこりゃあ!? 動きが鈍るぞ!?」
おそらく初めて経験するであろう攻撃に、敵は戸惑いを隠しきれていない。今の状況を確認するのに精一杯の様子だ。
「よし……これなら! 武装解除!」
まずは少しでも動きやすくするため、両肩の武装を解除する。これらすべては使えるのが一回きりなので問題は無い。
そして、サイクロプスに搭載した最後の武装、『のびーるブレード』を手に取る。
通常の状態だと、サイクロプスの肘から先ぐらいの短い剣だ。だが、これもリンが作った武装だ、なにも仕掛けが無いわけがない。
のびーるブレードを両手持ちし、ハンマー投げの要領でサイクロプスをグルグルと回転させる。
「……? な、なにをしてるんだ?」
俺の行動を奇行と受け取った参加者のひとりが、たまらず俺へと声をかけてくる。
「いやね、こうしないと絶対に振れないんだわ」
「……はあ?」
「まあ見てなって……限界突破!!」
回転により十分な遠心力が得られたことを確信し、一度きりの大技、限界突破を起動させる。
本来なら魔力を使い尽くすまで止まらない最後の切り札であり、魔力を使いきると命の危険があるのだが、この一撃で決着がつくなら問題ないと判断した。
これによりサイクロプスは金色のオーラに包まれ、俺自身の魔力を触媒に、圧倒的な魔力の容量と出力を得ることができる。
そして溢れ出る魔力をのびーるブレードへと全力で送り込む。
この、のびーるブレードは、魔力を込めれば込めるほど長さと切れ味が増す特性を持つのだ。魔力消費がバカでかいのと、長くしすぎると自重で持つことすらできなくなるのが欠点ではあるが、今、この瞬間だけはすべての欠点を克服している。
「――っらぁ!!」
限界突破で得た爆発的な魔力がびーるブレードに注がれる。その結果、刀身は一瞬で長さを増す。
その長さは会場の半径とほぼ同じ。普通であれば剣を振るどころか、持つことすら困難であるが、遠心力によって勢いがつけられていたので、一太刀であれば振るうことができる。
伸びた刀身が、サイクロプスを取り囲んでいた敵集団をひと薙ぎにする。
「うおっとっと!」
勢い余って伸ばしすぎた剣が地面に突き刺さると、回転が維持できなくなり機体がバランスを崩して仰向けに倒れてしまった。
「はは……締まらないな。補助機能オンにしておけばよかったか? まあでも、勝ちは勝ち……だよな?」
俺がそう言い終えると同時に、敵の魔動人形は爆散し、粒子となって消えていく。
この場に残るのはサイクロプスのみ。俺の勝ちだ。
(やったぜ、リン、カティア)
倒れた状態で腕を天に掲げ、心の中で二人に勝利の報告をする。
こうして俺は、バトルロイヤルで全員から狙われるという、波乱の初戦をなんとか突破したのだった。
◇
バトルロイヤルで見事勝利を収めた俺は、機嫌良く会場の外へと出る。
限界突破を使ったけど、数秒で戦闘が終了したおかげで、魔力が尽きずにまだまだ元気なのだ。
「いやー、かなりうまくいったな。リンとカティアも喜んでくれるといいな。――おわっ!?」
突然腰のあたりに衝撃を受ける。
何事かと思ったが、見るとリンが飛びついてきていたのだった。
「ケーくんおめでとー!」
「ははっ、ありがとうリン。見ててくれたのか?」
「うん! ケーくんすっごくカッコよかったよ! ピカーってなって、ズバーって!」
「はは、リンの作ってくれたパーツのおかげだよ」
実際、あの武装がなければ勝てなかったかもしれない。
リンの自由な発想から生まれた武装は、誰も予想できなかったからこそ油断を誘えたのだ。
そういう意味ではリンの貢献度は高いと言えるだろう。
「えへへー、ほめられちゃった!」
あまり褒められ慣れてないたのだろうか、リンは恥ずかしそうに微笑んでいた。
「よっ、やるじゃねぇかケイタ。一人で全員倒しちまうとはな。ありゃ爽快だったぜ」
リンの後ろからカティアが現れる。
そして手の平を顔の高さまで上げ、こちらへと近づいてきた。
……お、これはアレかな。
パンッ!
俺も手の平を出し、お互い叩き合う。やっぱ勝利のあとはハイタッチに限りますな。
「まあこれぐらいはやってみせないとな」
「はっ、よく言うぜ。……まあしかし実際すげぇよアンタは。オレの期待以上だ、これなら本当に目的を果たせるかもしれねぇな」
カティアの目的であるGODSへの潜入が現実的になってきたからか、明るかった表情に一瞬影が落ちる。
「カーちゃんどうしたの? おなか痛い……?」
リンはその変化に目ざとく気付き、心配そうにカティアを見上げた。
「……いや、大丈夫だよリン。せっかく勝ったことだし、今夜は美味いもんでも食おうか」
「うまいもん! たべるー! いこっ、カーちゃん、ケーくん!」
晩ごはんの魅力に惑わされたリンは、にぱっと笑い俺とカティアの手を引っ張りながら駆け出した。
「おいおい、リン……まだ晩飯には早いだろ」
「いいの! おうちかえろっ!」
◇
この日はそのままキャッツシーカーへと帰り、ちょっとだけ豪華な食事をとった。
次の競技会は二日後だとカティアに聞き、俺は前日の長時間作業と、今日の試合の疲れがあってか、いつの間にか眠りに落ちてしまうのだった。




