第6話 誰だこいつ
そのあと気まずくなって、シルヴィアとは言葉を交わさなかった。いたたまれない空気のなか、再び馬車が止まった。ようやく目的地であるシルヴィアの住む屋敷へと到着したようだ。
すると、情報がいち早く伝わっていたのだろう。家人と思わしき人たちが勢揃いで待ち構えていた。
「シルヴィア様、よくぞご無事で!」
「おかえりなさいませお嬢様!」
「お待ちしておりました!」
シルヴィアが馬車を降りると、それぞれシルヴィアの帰還を喜ぶ声が上がるなか、俺は馬車の中で固まっていた。
「いや、こんなハッピーな空気の中で、のこのこと俺が出ていったら、絶対に『誰だこいつ』的な雰囲気になるだろ……」
そんなわけで馬車を降りる勇気がなく、所在なく座り込んで床板の木目を数えていると、御者台のクロードさんから声がかかった。
「ケイタ殿、どうされたのですか。目的地に到着しましたよ。まさか、どこか怪我でも?」
「ああ、いえ。すぐ降ります」
いつまでも座り込んでいて、心配をかけるわけにもいかない。俺は覚悟を決めて馬車を降りた。
「はは……どもども」
へこへこしながら現れた俺を見て、案の定『誰だこいつ』的な表情を浮かべる家人たち。うう……わかってた、わかってたさ。
「こちらケイタ・サガミさん。賊に囚われていた私たちを救ってくれた勇敢なお方です」
シルヴィアがそう説明すると、 場の雰囲気が一気に盛り上がる。
「おお! そうなのですね!」
「感謝致します!」
「変わったお召し物……もしかしたらどこかの高名なお方なのかもしれないわね!」
ただの部屋着のジャージです。すみません。
そんな中、勢いよく館の扉が開かれて夫婦と思われる男女が現れた。
家人たちはその姿を見るや否や、ピッと姿勢を正し、頭を下げた。その反応から夫婦はこの家の主、つまりシルヴィアの両親だと推測できる。
「シルヴィア! おお……無事でなによりだ!」
「心配したのですよ? 昨晩は一睡もできませんでしたわ」
「お父様、お母様! 只今戻りました!」
再会を喜び抱き合う3人。うんうん、よかったねぇ。
ひとしきり喜び合って落ち着き、周りが見えるようになったのだろう。一息ついたシルヴィアの両親と俺の目が合った。
その顔は案の定、『誰だこいつ』的な顔をしていた。