第66話 ガベージマウンテン
「ふぁ~あ。――あいたた、やっぱ床で寝ると疲れが取れた感じしないな」
あのあとすぐ眠りについた次の日の朝、目覚めた俺は欠伸をしながら体を伸ばす。
寝床が用意されていなかったので、俺は固い床で寝ていたために体の節々が痛む。
ひとつしかないベッドはリンが使っていて、こちらもひとつしかないソファーはカティアが使っていた。なので必然的に俺が床で寝ることになったのだ。
「長い間気絶していたこともあってか、そこまで疲れは溜まってなかったからまだよかったけど、せめて枕ぐらいは欲しかったな……」
「おっ、起こそうと思ったんだが……目が覚めたか」
既に目を覚ましていたカティアが、ふらりと現れた。俺とは違い、長時間の移動で疲れているだろうに、ずいぶんとタフなんだな。
「おはよう、カティア」
「……おはようさん。朝飯作ったから先に座ってな。オレはリンを起こしてくるからよ。ちゃんと全員揃うまで食うんじゃねぇぞ?」
「ああ、わかってる。朝飯まで用意してもらって悪いな」
「なぁに、今オレにできることはこのぐらいだからな」
それだけ言い残すと、カティアはリンを起こしに行ってしまった。
一人取り残された俺は立ち上がり、寝起きでよろよろとした足取りで食卓へと向かう。
食卓にはパンに目玉焼き、あとは野菜スティックに塩気の効いた具なしスープと、質素に見えるが朝食としては十分だと言える。
「日本では朝飯はシリアル一択だったな……ん?」
ドタドタと、誰かが走ってくる足音が耳に入る。
「ケーくーんっ!」
「どわっ! リン、どうしたんだ!?」
足音の主はリンだった。リンは走ってきた勢いそのままに俺へと飛びついてきたが、それをなんとか受け止める。
「へへー。朝起きたらケーくんがいて、ほんとうにリンのところへ来てくれたんだなって嬉しくなっちゃって」
リンは俺へと頬擦りをしながら嬉しそうに目を細める。
……なんだこの可愛い生き物は。なでなでしちゃおう。
「ほらリン、こいつは逃げも隠れもしねぇよ。冷める前に飯を食え」
むんずと両脇を抱え、俺に張り付いていたリンをカティアが引き剥がし椅子に座らせる。
「わーい、ごはん!」
席に着くやいなや朝食を食べ始めるリンを見て、俺とカティアも慌てて席に着き食事を始める。
なぜ時間がないのにこれほど悠長にしているかというと、現状イマジナリークラフターはリンにしか作動させられないと聞いたからだ。
なのでリンが起きるのを待ち、その後作業を開始するため昨日は寝ることにしたのだった。
「ごちそーさま!」
朝食をきれいさっぱり食べたリンは、俺の元へと駆け寄り、服の裾を引っ張る。
「ねえねえ、今日はケーくんも一緒に遊ぶんだよね?」
「ああ、そうだよ」
事情を考えれば『遊び』だなんて言ってはいられないが、リンは俺とカティアが何を企んでいるのかは知らない。
俺なんかが想像できないぐらいきっと心に深い傷を負っているはずだ。リンに両親のことを思い出させないよう細心の注意を払う必要がある。
「よーし、じゃあ今日はなにして遊ぶんだ?」
「えーとね、朝はいっつもガベージマウンテンに行ってるよ」
「がべーじまうんてん?」
てっきり昨日と同じでイマジナリークラフターを使うのかと思っていたが、予想が外れた。
ガベージマウンテンってのがなんなのかは知らないけど、あまり他のことに時間をかけてはいられないんだけどなあ……。
「ガベージマウンテンってのは上から棄てられた廃棄物が積もり積もってできた山のことさ。まあこれも必要なことだ、ワリィが付き合ってやってくれ」
「――? わ、わかった」
ポカンとしていた俺にカティアが説明を入れてくれた。
要するにゴミ捨て場ってことか。なんだってそんなところに行くんだ……?
まあカティアが必要だと言うのだから、俺はそれを信じよう。
「オレも行く。食べ終えたらすぐに支度を済ませな」
食事のあと、支度を整えた俺たち三人は、ガベージマウンテンへと向かうことに。
◇
「……あの、カティア? この外套はいったい……?」
廃棄山へと向かう道中、俺は恥ずかしさのあまり顔が熱くなってしまっていた。
その理由は渡された外套にある。
「あ? 言っただろう? この国は入出国が制限されているって。獣人じゃねぇヤツが辺りをうろついていたら目立つんだよ」
「だからってこんなの着なくても……」
確かに道行く人々は漏れなく獣人だ。
俺みたいなのがうろちょろしてたら、必ずGODSに感付かれるだろう。不法入国がバレないようにカモフラージュは必須だ。
しかし肝心のカモフラージュの方法が問題だった。
渡された外套のフードには、楕円形の獣耳……いわゆるクマ耳型のでっぱりが付いており、尻にあたる部分には団子のような丸い尻尾までもが付いていた。
「いい年した男がクマのコスプレとか恥ずかしすぎるだろ……!」
「ハハハッ、いいじゃねぇか。似合ってるぜ」
「ケーくんカッコいいー!」
くっ、こいつら他人事だと思ってからに!
まあおかげであまり注目を集めてはいないようだけど、外見が隠れれば普通の外套で良かったんじゃないかと思わざるを得ない。
――などと羞恥に悶えていると、いつの間にやら目的の場所へとたどり着いたようだ。カティアは歩みを止め、前方を指差して到着を告げた。
「ほら、文句は後だ。目的地へ着いたぞ」
「おお、これがガベージマウンテンか……!」
眼前に広がる光景、そこには様々な大きさの廃棄物が積もりに積もって、山の形を成していた。
と言っても山は大きな窪地の中央にあり、遠目からはそこまで目立った大きさではなかった。
しかし底が見えないほど廃棄物で埋め尽くされているので、実際の高さまでは把握しきれない。
「あの天井にある穴からゴミが棄てられるのか」
見上げると、山の直上には大きな穴が空いていた。
カティアが言っていたように、地上の工場で発生した廃棄物を全部ここへ落としているのだろう。
「ああ。……お、そろそろ朝イチの分が来るぞ」
「わくわく! わくわく!」
ゴゴゴ……
大きな振動と共に、天井の穴から無数の廃棄物がガベージマウンテンへと降り注ぐ。
十数秒ほどで振動は止んだ。廃棄山はその標高を僅かに増し、なおもそびえ立っている。
「ほら、行くぞケイタ。こっからは早いもん勝ちだぜ」
「きたーっ! れっつごー!」
そう言うと二人は迷いなく窪地へと飛び込んだ。
「ちょ!? 結構な高さだぞ!?」
俺たちがいたのは窪地の端っこだ。山になっている部分は見上げるほど高いが、端から底へ降りるとなると十メートルぐらいの高さがある。
当然、貧弱な人間であるこの俺が飛び降りれば高確率で死ぬだろう。
リンとカティアの二人は、そんな高さをものともせずに華麗に着地し、こちらを見上げた。
「おい! なにやってんだ、早く来いよ!」
「ケーくんもはやくーー!」
「いや無理だって! この高さは無理!」
カティアはともかく、リンまで平気で飛び降りたのには驚いた。
獣人ってのは身体能力に長けているんだろうか。……いや、俺がショボすぎるだけかもしれないけど。
「あー……そうか。おいケイタ! その辺に梯子が掛かってる場所があるからそっから降りてこい。オレとリンは先に行ってるぞ!」
「ごめーん、すぐ行く!」
俺は二人の背中を見送ったあと、梯子を見つけ足を踏み外さないよう慎重に降りた。
俺は安定しない足場を探るようにして歩きながら、慎重に二人の後を追った。




