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第64話 事情

 はあ……なるほどな。こっちに来るときに、わざわざ森を突き抜けていったのは、関所を通らないようにするためだったんだ。

 確かにあの速度で森を抜けられたら追いかけようもないだろうし、有効な手段なのかもしれないな。まあ俺だったら途中で事故る自信があるけど。


 まったくカティアのやつ……近道だからとか嘘つきやがって。いや、実際近かったのかもしれないけども。


「ま、んな細かいこたぁ今はどうだっていいんだよ。問題はな、リンの両親のことなんだ」

「両親? そういえば家にはいないみたいだけど、どこかへ働きに出てるのか?」


 というかキャッツシーカーにはリンとカティア意外の社員が見当たらない。二人だけで運営しているのかな。


「……いいや、二人とも行方不明なんだ」

「えっ!? 行方不明ってどういうことなんだ?」

「ある日出掛けてからずっと帰ってきてねぇのさ。もう八年も前になる」


 出先で事件にでも巻き込まれたのか?

 しかし八年も帰らないとなると、リンの両親はもう……。


「……死んじゃったのか?」

「……わからねぇ。生きていると信じたいが、恐らくは……」


 八年前か……今よりずっと子供だったリンには辛い出来事だっただろう。


「オレは孤児だったんだがな、行く宛もなく彷徨ってたとこをリンの両親に拾われたんだ。あの人らには返しきれねぇ恩がある。血は繋がってねぇけど、リンのことは本当の妹のように想ってる」

「カティア……」

「……オレはな、行方不明の件にはGODSが関わってると睨んでいるんだ」


 カティアは声を抑え、囁くようにそう告げた。

 ここは外だし、実質的な支配者であるるGODSの悪口をどこの誰が聞いているかわからないので、警戒してのことだろう。


「……どういうことだ?」

「GODSがこの国を実質的に支配しているってのはさっき話しただろう? 入出国に制限をかけているその理由は、自分たちが持つ技術を他国へ流出させないためと言ったが……もうひとつ、他のカンパニーに外部の力を取り込ませないようにするためでもある。この国最高峰の技術の独占、そして外部からの干渉を遮断することで、奴らは絶対的な地位を維持し続けている」


 なるほど……技術力なんて数人の人形技師が他国へ渡るだけでも広がってしまうもんな。

 そこを徹底的に独占することで自分たちの地位を確立させたわけか。

 全人類の発展を望むのであれば、その辺は公にするのが好ましいけど、国家規模とはいえやはり営利目的の一企業だ。利益を優先したのだろう。


「でも、それがリンの両親となにかしら関係があるのか?」

「ああ、リンの両親は二人とも天才だった。キャッツシーカーは少ないメンバーで必死で努力を続けて、そしてようやくひとつの革新的なシステムが完成したんだ。されがさっきアンタが見たもの、『イマジナリークラフター』だ」


 イマジナリークラフター……さっきリンが使ってた機械のことだな。

 確かにアーティファクトからしか手に入らない魔動人形用のパーツを作り出せるなんて、革新的としか言いようがない。


「だがGODSの奴らは自分たちの存在が脅かされるような革新的なシステムが生まれるのを嫌う。その芽を摘むためなら、あいつらはなんだってしやがるんだ……!」

「な……まさか!?」

「確証はねぇが……行方不明になったその日、二人はGODS本社に呼び出されて、イマジナリークラフターの試作機を持って出掛けたっきり戻らなかったんだ。僅かに居た社員も引き抜かれ、残ったのはオレとリンだけ。キャッツシーカーは自然消滅……しかけたんだが、リンを社長にすることでなんとか存続することはできた」


 本社でなにかしらがあったと考えるのが普通だよな。

 でも誰もGODSには逆らえず、調査もできない。結局はうやむやにされて終わりってことか。


「当時はオレもまだガキでな……なんの力も無かった。なんにもできない自分が惨めで、悔しくてたまらなかった。でも頭の悪いオレには技術的なことはさっぱりわからねぇ。だったらせめて……と、今まで必死で体を鍛えてきた」


 カティアの立ち振舞いというかオーラというか……どこかクロードさんに似ている部分がある。

 俺が感じていたそれは、武術の達人特有のものなのかもしれないな。


「でもいくら鍛えようともオレ一人でできることはたかが知れてる。証拠を掴もうと今まで何度もGODSの本拠地に侵入を試みたんだが、厳重な警備に阻まれて尻尾巻いて逃げるしかなかったんだ」

「過激なことするんだな」


 いや、拉致やら不法入国やらやってたし今更か。


「オレにとっても両親同然の人だったんだ、それぐらいするさ。――んで、だ。だったら正攻法で堂々と入ってやろうじゃないかと思ったわけだ」

「正攻法? ああ、GODSに籍を移すってことか?」

「バカ、オレがいなくなったらリンはどうするんだよ」

「あ――そうだよな、ごめん」


 考えてみればそれはそうだ。今のキャッツシーカーにはリンとカティアの二人だけしかいない。

 大切な家族を一人置いてはいけないだろう。


「で、その正攻法ってのはなんだ?」

「ああ。この国では、」


「……まあそもそも、GODS本社は幹部のみが足を踏み入れることができる領域なんだ。仮にGODSの社員になれたとしても、幹部になるまでどれだけ時間がかかるのか予想もつかない。だが、誰でも、確実に、時間をかけずに本社へ行くことができる手段が一つだけ存在する」

「それは……?」

「三年に一度、GODSが主催する魔動人形のコンペティションがある。これは全てのカンパニーが参加可能で、そこで最も優秀な成績を残した者は多額の賞金に加え、副賞として本社へと招かれ、社長であるガオウと対面することができる」


 なるほど、それなら直接問いただすこともできるだろうし、潜入もしやすい。

 カティアならある程度懐に切り込めれば、情報の一つや二つ持ち帰ることができそうだ。


「それで俺を連れてきたってことか」

「ああ、各カンパニー同士はライバル関係にあるからな。協力してくれるヤツなんていやしねぇんだ。GODSに噛みつこうってんだから尚更な。……そこで、外部の力を借りることを思い付いたのさ」

「はは……だから色々と無茶苦茶やってたんだな」


 彼女たちの境遇を考えれば、カティアの無謀とも言える行動の数々にも合点がいく。

 俺が連れてこられた理由もはっきりした。

 理由次第では力を貸すのを拒否しようと思っていたけど、今の話を聞いて俺の気持ちは決まった。

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