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第63話 GODS

 食事を終え、膨れた腹をさすりながら俺は食卓でひと息ついていた。


「いやあ、カティアにこんな家庭的なところがあるだなんて意外だな」


 出された食事は、ヴァイシルト家で食べたものよりは当然ながら質素であったものの、素朴で温かみがあるというかなんというか……ざっくり言うと『お袋の味』を感じる。


 俺がカティアに抱いていたイメージだと、男飯のような大雑把なメニューを作るだろうと思っていたのだが、良い意味で期待を裏切られた結果になった。


「……う、うるせぇな。オレが料理できてなんか文句あんのかよ?」

「いや、むしろ魅力的だと思うよ?」


 ギャップ萌えってやつだな。

 

「ぐぇ!」


 突然隣に座っていたカティアから、鳩尾目掛けて肘鉄が飛んできた。


 いてて……食べたばかりだから吐いちゃう……。


「人のことをそうやってからかうんじゃねぇ! まったく……!」


 そっぽを向くカティアだったが、わずかに見える頬は赤く染まっていた。なるほど……これがツンデレか。


 ――などと戯れていると、向かいの席から寝息が聞こえた。


 お腹が満たされて眠くなってしまったのだろう。気付けばリンが食卓に突っ伏して寝てしまっていた。


「……ふぅ、オレはリンを寝床に運んでくる。リンが話し声で起きるとも限らねぇ、さっきの話の続きは外でしよう。……そうだな、出てすぐのところにベンチがある。そこにでも座っててくれ」

「ああ、わかったよ」


 そう言われ、俺は食卓を立った。


 ふらっと建物の外にでると、辺りは真っ暗になっていた。ここは地下だから当然なのだろうが、来たばかりの頃は外と変わらないほど明るかったので、なんだか違和感がある。


 多分、昼夜の感覚が狂わないように明るさを調節しているんだろう。


 僅かに周りが見える程度の明かりの下、カティアが言っていたであろうベンチを見つけた俺は、そこへ腰掛ける。


「星……は見えないよな」


 なんとなく空を見渡すが、当然ながら星空なんて見えはしない。見えるのは僅かな明かりを反射する冷たい鉄の壁だけだ。

 

「はは、あれぐらいなら手を伸ばしたら届きそうだな」


 反射光を星に見立てて手を伸ばす。

 近いと言っても天井までは二、三十メートルはある。当然届くわけはないのだが、実際の星との距離を考えればよっぽど現実的だ。


「――アンタ、なにしてんだ?」


 ぼんやりとロマンチストじみたことを考えていたら、ふと、カティアが現れた。

 服を着替えたらしく、ヘソが見えるぐらい丈の短いタンクトップにホットパンツと、かなりエロ……ラフな格好になっていた。

 カティアのワイルドな雰囲気にマッチしていて、よく似合っている。礼服よりも、こっちが普段着なんだろうな。


 いやしかし、健全な青少年たる俺には目の毒だ。……な、なるべく凝視しないように気をつけよう。なるべく。


「……カティア。リンはもう寝たのか?」


 なにをしている、と問われても具体的に説明することはさすがに恥ずかしかったので、俺はカティアの問いかけを軽く流した。

 いや、だって「あの星を掴めるような気がしてさ……」なんてキザな台詞言えるわけないじゃんか。


「ああ、様子を見守る必要がねぇぐらいぐっすりとな。アンタが来てかなりはしゃいでたしな」

「そっか。喜んでくれたようでなによりだよ」

「――アンタの決闘の映像はこっちでも流されていてな。それをたまたま見たリンが、アンタのことをいたく気に入った様子でよ。目を爛々とさせていたよ。そのあとこの人に会いたいって言い始めて……なだめるのが大変だったぜ」


 中継っていうと、フラムと戦った時のやつか。

 会場に人が入りきらなくて、外に映像が映し出されてたりしたっけ。


「……それが俺を連れてきた理由?」

「いや、それも理由の一つではあるんだが……本当の理由はオレの個人的なものだ」


 まあそうだろうな。リンのワガママを聞くためとはいえ、ただ会いたいってだけで拉致するほど短絡的ではないだろう。


「……なあアンタ。この国は誰が支配しているか知ってるか?」

「ん……? いや、プラセリアは共和国だし王様はいないんじゃなかったか?」


 王政ではないから、国に関わることは国民に委ねられているんじゃないのか?

 ……ああ、大統領的な人がいるのかな。さすがにまとめる人がいないと国として成り立たないよね。


「知らないようだから説明してやるよ。確かにプラセリアに王はいねぇ……だが似たようなもんだ。この国の支配者はここ二十年間、たった一人の男に支配されている。誰も奴には逆らえねぇんだ」

「一人の男……?」

「ソイツの名は『ガオウ』。この国最大級の規模を誇るカンパニー、『ガオウ・オンリー・ディバインズ・システムズ』……通称GODS(ゴッズ)の社長だ」

「なっ! いち企業の社長が国の支配者だって!?」


 日本ではあり得ない話だ。どれだけ大きい会社の社長だって、国を自由に動かせるような力なんてない。


「GODSは数あるカンパニーの中でも圧倒的な規模だ……今日アンタが見てきた、地上にある施設の九割は奴らが所持するもんだ。そのせいでオレらは住む場所を奪われ、強制地下暮らし。そして地下での生活基盤を築いたのもGODSだ、奴らの機嫌を損ねたらオレたちは生活すらままならねぇんだよ」

「そこまでの力があるのか……でもそれが嫌ならこの国から出ていけばいいんじゃないか?」

「まぁそうなんだがよ……プラセリアでは入出国ですらGODSの許可がいるんだ。技術の漏洩を防ぐって名目でな。不可能ではないけど、大金を納めない限り許可が降りることはない」


 ……どうりでアークライト王国では獣人を見かけないと思った。それにしても気軽に旅行すらできないだなんて、さすがにやりすぎじゃないかと思う。


「――ん? あれ、待てよ。ならカティアはどうやってアークライト王国まで来たんだ? それにこっちに来るときもそれっぽい手続きはしていなかったと思うんだが……」


 お世辞にもキャッツシーカーには資金的な余裕があるようには思えなかった。

 となると考えられる方法はただ一つ。


「あ? そんなもんこっそり出て、こっそりと帰ってきたに決まってんだろ」

「ハハハ、デスヨネー」


 密出国と密入国の不正行為を、さも平然とやってのけるカティアを前に、俺は乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。

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