第62話 腑に落ちない
「これは……スフィアか?」
スフィアとは、魔動人形のコックピットにある、念じることでイメージ通りに魔動人形を操ることができる装置だ。
しかしここは魔動人形の中じゃない。まさか、未だ謎が多い魔動人形のシステムを、この場に再現したというのか……?
「これをね~、こうやって~」
床に落ちていたVRゴーグルのような装置を頭に装着し、リンはスフィアに触れる。
「えーっと、ここをこうして……ばーん! ずどーん! ちょちょちょいーっと!」
よくわからない擬音を口にしながら、どこか楽しげに何かをしている。
俺の目にはリンがVRゲームをしているようにしか見えないが、一切前情報がないのでとりあえずここは大人しく待つしかないだろう。
◇
――待つこと数分。
作業(?)を終えたリンは、ゴーグルを外し近くにあったスイッチを力一杯に押した。
「できたのだ! どーん!」
スイッチを押すと同時に、近くにあった電子レンジサイズの機械の箱がガタガタと揺れはじめ、蒸気を発している。
……いや大丈夫なのかあれ、爆発するんじゃないだろうな!?
俺の不安は杞憂に終わったようで、何事もなかったかのように機械の箱は静かになった。
その後リンは箱のフタを開け、何かを取り出して俺の元へと駆け寄ってくる。
「ケーくん見て見てー!」
リンから手渡されたのは棒状の物体。両端が丸くなっていて、まるで綿棒のような見た目だ。
「これは……?」
「これはねー、『ビリビリ棒三世』! 触るとビリビリするのだ!」
相変わらず独特なネーミングセンスだが、直感的にどういう機能があるか想像できるな。
多分スタンガンみたいな効果があるのだろう。三世ってことは同じようなのが他に二つあるってことなのかな。
「凄いな……リンの仕事はこういうのを作ることなのか?」
「ん? 違うよ? リンは楽しいからこれで遊んでるだけ!」
「そ、そうなんだ……」
リンが社長のカンパニー、『キャッツシーカー』は魔動人形の武装を作り出す事業で成り立っているのかと思ったが、本人的には遊びの一つらしい。
カティアが遊び相手になってほしいと言ったのは、この装置を使ってリンの手助けをしてほしいってことなのかな。
真意を確認しようと、さっきまでカティアの居た場所を見たのだが、姿が見当たらない。
「あれ、カティア!? どこいったんだ!?」
「おう、終わったのか? 今回は成功したようだな」
どこからともなくカティアが現れた。
今回は……? あ、もしかして失敗すると爆発するのか!?
だからひとりだけ避難したんだな!?
「カティアお前……」
「はは、オレには煤まみれになる趣味はないんでね。ま、爆発しても死にゃあしないからいいだろ」
「そういう問題じゃなくない!?」
「まあそう怒るなって。――――んで、だ。アンタにはリンが『遊び』で作った作品を、実戦で使えるようにしてほしいんだ。うちのカンパニーを救うためと思ってさ、頼むよ」
遊び相手ってのはそういうことか。俺をここまで連れてきた理由もなんとなく理解できた。
でも、腑に落ちない点もある。
一つは、なぜ俺が選ばれたかってこと。
人形技師なんて、この国なら探せばいくらでもいるだろうに、なんで俺が選ばれたかのかがわからない。
もう一つは、他国の領主である俺を拉致してまで頼むようなことなのかということ。
公になれば結構な罪に問われることだと思う。まあ彼女らにはよほどの理由があるのだろう。俺からは訴えたりする気はないんだが、事情も知らないまま安易に協力していいものか判断しかねる。
この二人は悪人ではないと思うが、その辺の筋は通してもらいたいものだ。
「――協力してもいい。けど、詳しい事情を聞かせてくれないか?」
「あー、まあそうだよな……なにも知らないで手を貸すほどお人好しでもないか。話しておくべきだよな」
そう言いながらカティアは意を決した表情で俺に近付き、リンに聞こえないようこっそりと耳打ちをした。
「今夜、リンが寝たあとに話す。わりぃがリンには聞かれたくない話なんだ」
「……わかった」
社長だとはいえ、まだまだ幼さが抜けきらないリンには聞かれたくない大人の事情があるのだろう。
カティアの出した条件に従い、今は待つことにしよう。
「カーちゃんとケーくんなにしてるのー? リンもお話に混ぜてよっ!」
自分をのけ者にして内緒話をしていたのが不満だったのだろう。リンは頬を膨らませながらカティアへと飛びついた。
「おっとと……いや、もう終わったよ」
カティアは宙へと投げ出されたリンの体を、くるっと一回転しながら難なく受け止めると、優しい声色でそっと地面に降ろした。
「――さ、それよりそろそろ腹減っただろ。晩飯の支度すっから、リンは先に風呂入ってきな。きちんと煤を落としてくるんだぞ?」
「ご飯! わかった、お風呂入ってくる!」
はぐらかされたのを感じ取っていたのか、少し不満そうな顔をしていたリンだったが、ご飯と聞くなり目が輝きだした。
コロコロと表情を変化させ、見ていて飽きないな。子供を持った親ってのはこんな気持ちになるのだろうか……。
そんなほっこりとした気持ちで、風呂場へと向かったリンの背中を目で追うのだった。




