第58話 安全運転でお願いします
「オラオラ、行くぜぇぇぇっ!」
「うわぁぁぁっ! 速い、怖いぃぃぃ!」
……俺は今、安易な気持ちでついてきたことを絶賛後悔していた。
カティアが乗っていた乗り物は、見た目的に俺の知っている自動二輪車……いわゆる『バイク』そのものだった。
と言っても、よく見ると排気管とかが付いてなかったし、ガワは同じでも実際は同じじゃないのだろう。
なるほどこれなら速いな、なんて楽観視していたのが運の尽き。
冷静に考えれば、この世界にきちんとコンクリで整備された車道があるわけもなく、走れば相当揺れるのはちょっと考えればすぐにわかることだった。
そんなことも考えずに、ただただ興味本位で相乗りした一分前の俺を殴ってやりたい。……いや、せめて街道とかの、比較的平坦な道だったらそうは思わなかっただろう。
それなのになぜ俺がこんなにも後悔しているのかというと、今俺はこのバイクのようなもので、森の中を絶賛爆走中なのだ。
といっても実際運転してるのはカティアで、俺はというと、タンデムシートがないのでカティアの真後ろに座り、腰に手を回して密着している状態なのだが。
「木が! いやぁぁぁ! 当たるぅぅぅっ!」
「るっせぇ! 変な声出さねぇで黙ってろ! あとどさくさに紛れて余計なとこ触るんじゃねぇぞ!」
いくつもの木の幹や枝が猛スピードで視界の右へ左へと流れてゆく。
もちろん、地面は木の根などがあり平坦じゃない。揺れるだけならまだしも、時折車体が浮いたりもする。さらにはちょっとした崖もスピードを維持したまま飛び降りる始末。遊園地のジェットコースターなんて目じゃないレベルのスリルを味わっていた。
「なんで森の中をぉぉぉ!?」
せめて街道とかを通ればこんな危険はないだろうに、なぜこんな獣道を行くのだろうか。
俺の素朴な疑問に対する返答は、至極単純なものだった。
「こっちのが近道なんだよ!」
「これ道じゃないよねぇぇぇっ!?」
確かに近道するとは言ってたけど、せめてちゃんとした道であってほしかった。これってただ最短距離を突っ走ってるだけだよね……?
「おい、黙ってろって言ったよなぁ……?」
俺を睨み付けるため後ろを向くカティア。
双月のような黄金の瞳が、溢れんばかりの怒りを湛えて俺を見据えていた。
怖っ! そんなに怒らなくたってよくない!?
「わ、わかった! わかったから前向いてぇぇぇっ!」
◇
――そんなこんなでやってきました、プラセリアの首都メイクス。
え? あのあとどうなったかって?
そりゃもう一言も喋りませんでしたよ、ええ。一番怖いのが何かわかったからね。
「さ、こっからは歩きだ。降りな」
バイクから降り、改めて街並みを見渡す。
「おお……」
居住区というより、工業地帯と言った方が適切に思える街並みだ。
何かのタンクのような、数メートルはある円筒がいくつも並んでいて、大きいものになると魔動人形を超えるものまである。
建物もそれに負けないぐらいの大きさで、遠目からも見えた煙突が建物一つに複数個付いている。
そこからはもくもくと黒煙が立っており、今この時もせわしく稼働しているのだなと感じた。
「これがプラセリアの首都かぁ、すごいな」
「……ま、ここまで極端なのは首都メイクスだけだ。他は畑を耕してるだけの田舎だよ」
そうなのか。技術大国ってぐらいだから全部こんな感じだと思っていたけど、実際は違うみたいだな。
「んじゃ、早速ウチのカンパニーへ行くとすっか」
「了解。――? どうしたんだ? 行かないのか?」
移動を促したのはカティアなのに、一向に動こうとせずジトッとした目で俺を見ていた。
いや、先導してくれなきゃ道わからないんですけど……。
「――ああいやすまねぇ。今更だがアンタ怒ってないのか……? 無理矢理連れてこられたのに、やけに楽しそうだから気になっちまってな」
……ああ、そういうことね。
「まあ思うところはあるけど……一度プラセリアには来てみたかったんだ。実際力ずくにでもじゃなきゃここまで来るのは難しかったと思うし、カティアに対しては怒るっていうか……むしろ感謝してるよ」
「…………おかしな奴だな」
そう言いながらカティアは俺に背を向け、バイクを手で押しながら歩き始める。
振り向き様に一瞬見えた口元は、俺には笑っているように見えた。




