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第54話 成り上がり

「んー! よし……っと」


 シルバライザーの改造が終わり、あとは塗料の乾燥を待つのみとなった。俺は椅子から立ち上がり、心地よい疲労感と共に伸びをする。

 

 ぐぎゅるるるる~


 立ち上がった瞬間に腹が鳴る。

 これは俺の悪いところだが、プラモデル作りに集中していると食事や睡眠を忘れがちなのだ。

 今回も例に漏れず長時間集中して作業をしていたため、気付かぬうちにかなりお腹が空いていた。


「もうおやつ時じゃないか……うぅ、腹減った……」


 時計を確認すると、現在昼の三時を回ったところ。

 朝は軽く食べたけど、まだ昼飯は食べてない。そりゃあお腹の虫も泣き喚きますわな。


 俺の分の昼飯を用意してくれているはずなので、自室を出て誰かしら居るであろう居間へと向かうことにした。


「ごめん、誰かいる?」


 居間へとたどり着き、扉を開けざまに呼び掛ける。

 すると、間髪を入れずに二人の人物から応答があった。


「「はーい!」」

 

「――あら旦那様、お仕事はもうよろしいので?」


 そう言って俺を迎えたのは、少し前に俺の嫁さんになったフラムローゼ。

 鮮やかな赤髪と、はち切れんばかりのグラマラスボディが魅力的な女性だ。

 今は自宅なので、服装は純白のワンピースだけとわりとラフな格好をしているが、それでもどことなく上品さを感じる。さすが元王族。


「ああ、一区切りついたよ」

「わたくしのために激務を押し付けてしまったようで、申し訳ないですわ……」


 王族であることを捨てて俺に嫁ぎに来た時はどうなることかと思ったけど、今のところは国から圧力がかかったりとか、そういったことは起きていない。

 だが替わりと言ってはなんだが、定期的に俺の作った魔動人形を王国へ納品するよう要請が来たのだ。

 

 断るとどうなるかわからないので保身のため引き受けているが、魔動人形作りは大変ではあるものの、正直な話俺にとってはご褒美のようなものだ。


 アーティファクト自体も定期的に送られてくるので、お金もかからない点が非常によい。手元に残らないのは残念だけど、俺の作った魔動人形がどこかで活躍してると思えば、製作者としては満足だ。


「いや、俺としては苦じゃないよ? フラムローゼのような美人の嫁さんももらえたしね」

「いやですわ旦那様、それほどまでにわたくしを想ってくださってるのですね。……ですが一点、不満がございますわ。わたくしのことは『フラム』と、愛称でお呼びになってくださいな」

「ごめん、そうだったね。――フラム」

「はいっ、旦那様」


 満面の笑みで嬉しそうに応えるフラムは、いつもの凛とした表情とは異なり、年相応の少女のようだった。

 今まで王族としての義務やらに囚われていて、恋愛なんかは二の次だったのだろう。そんなしがらみから解き放たれた彼女の表情は、とても魅力的だった。


 最初はきつい性格かと思っていたが、実際付き合ってみると普通にいい子だったし、このまま特にデメリットがないのであれば、魔動人形作り放題のうえ器量のよい美人の嫁さんを娶った俺は超絶ラッキーなのではなかろうか。


「ケイタさん、お食事温めなおしておきますね」


 のろけた会話をする俺とフラムのあいだを邪魔するかのように、一人の少女が割り込んだ。


「ありがとうシルヴィア、もうお腹ペコペコだよ」


 彼女の名はシルヴィア。俺がこの世界に来て一番最初に出会った女の子だ。

 胸元辺りまで伸びるサラサラの金髪は絹のように美しく、蒼天を想起させる青い瞳には引き込まれるような魅力がある。

 フラムがグラマー美人なら、シルヴィアはスレンダー美人って感じだ。


 そして何故彼女が新婚ホヤホヤの俺とフラムの側にいるのかというと……。


「いえ、ケイタさんの()()()()当然の配慮です!」

 

 ――そう、彼女も俺の嫁なのだ。

 

 フラムと結婚するという運びになったとき、なぜだかシルヴィアが待ったをかけた。

 一人の男が多数の妻を娶る……いわゆる一夫多妻は、この世界では当たり前にあるらしい。

 しかしそれは身分の高い人に限った話で、俺のような異世界から来た身分のはっきりしないような奴には本来縁遠い話だ。そのはずだった。


 だが、カマセーヌ家の失脚によって管理者が不在となっていた土地の領主に俺があてがわれ、あれよあれよという間にそれなりの土地を持つ領主となってしまったのだ。

 ついでにそこそこ大きい新居や、ある程度の資金まで同時に手に入れた。あり得ないレベルの大出世である。


 まぁ何が起きたのか要約すると、俺は領主になって、二人の嫁さんができて、新居で三人仲良く一緒に生活をしているってわけだ。


「――ちょっとシルヴィア、今わたくしと旦那様が会話してたのですわよ。少しは自重してくださいまし」

「ケイタさんはお腹が空いているんですよ。お話は食事の後でもいいでしょう?」


 睨み合う二人の間に火花が散っているような錯覚すら覚えるほど、穏やかだった空気が一変し、緊張感が漂う。


 ――――前言撤回。


 この二人は同世代なこともあって基本的は仲が良いのだが、こと俺の所有権(?)が絡むと今のように火花を散らしがちになるところがある。

 俺のどこにそんな魅力を感じてくれているのかは知るよしもないが、今この場を収められるのは俺しかいない。


「二人とも、やめてくれっ!」


 俺は二人の間に割って入り、片手で一人ずつ抱き締めた。


「あっ……!」

「きゃっ……!」


 お互いの鼓動が届くほど近くに彼女たちを感じる。


「ケンカはやめてくれ。……その、どんなことがあったって俺は二人に優劣なんてつけないから。俺にとっての一番は君たちだ。それは何があっても今後変わることはないよ。だから……二人には仲良くしてほしい」

「旦那様……」

「ケイタさん……」


 うぉぉぉぉーーっ! はずい!

 まさか俺がこんな恥ずかしい台詞を言う日が来ようとは!


 いや、だって前に同じことがあった時は丸二日会話が無かったからね!?

 あのときのひりつくような空気はもうこりごりだよ。


「――――ゴホンゴホン!」


 俺が身を削ってケンカの仲裁をしていると、少し離れた所から咳払いが聞こえた。

 あれ、この家には俺たち三人しか居ないはず……。


「あ、そうですわ旦那様。今お客様がいらっしゃってますの」

「――え?」


 咳払いが聞こえた方に目をやると、「ようやく紹介されたか」みたいな感じで立ち上がり、こちらへとお辞儀をする礼装の女性が一人。

 その切れ長の目は、間違いなく俺を見据えていた。


 まさか……今のを見られていたのか……!?


「――噂のヒーローがどんな方なのか会うのを楽しみにしておりましたが……英雄色を好むとよく言いますか……それを体現したようなお方ですね」

「――っ!?」


 やっぱ見られてたぁぁぁ!?

 

 いや、二人とは健全なお付き合いをしておりまして、まだ大人の情事的なことは早いかなーなんて考えておりまして!?


 ――いやいやいや、いったん落ち着け俺。家の中だから完全に油断していた。っていうかシルヴィアもフラムも、お客さん来てるなら最初に言ってくれませんかねぇ!?


「は、はは……」


 脳内パニックフェスティバル絶賛開催中な俺は、平静を取り戻すこと叶わず、もはや愛想笑いで茶を濁すことしかできなかった。

 

「――改めまして、自己紹介をさせていただきます。私はプラセリア共和国から来ました、カティア・リーヴォルフと申します。どうぞお見知りおきを」


 そんな俺の様子を察してか、客人は自己紹介を始めた。

 プラセリア共和国……確か魔動人形関連の技術力に優れた三大大国の一つだったな。そして獣の身体的特徴を持つ人種、『獣人』たちの国だ。


 落ち着きを取り戻し、カティアと名乗った客人をよく見てみる。

 ウルフカットの銀髪と、小麦色の肌のコントラストが映えている美人さんだ。

 そしてなにより、頭部からは犬っぽい耳が生えていた。

 また、長身故の長い足の間からは、尻尾と思わしき白銀のモフモフがちらちらと見える。

 

 犬……というより狼の獣人か?


「あ、ども。一応ここの領主やらせてもらってます、ケイタ・サガミです。どうぞ楽にしてください」


 尻尾をモフりたい衝動をこらえつつ、友好の証として握手をしようと手を差し出す。

 だが、返ってきたのは思いもよらぬ対応だった。


「――ああ、悪りぃな。じゃあ堅っ苦しいのはもうお仕舞いだ。こっからは素でいかせてもらうぜ」

「――へ?」


 その発言をトリガーに、彼女の態度は一変した。手近なソファーへと座り、足を組みながら不敵にニヤリと笑う。その口元には普通の人間よりはるかに尖った犬歯が垣間見え、どこか猟奇的な印象を受けた。



 ――――あ、これ絶対に厄介なことになるな。


 

 そろそろ半年は経とうかという異世界生活で得た経験を元に、俺はそう確信したのだった。

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