第4話 助けた少女に連れられて
というか、一息ついたら腰やら背中やらがマジで痛いことに気付いた。さっきまでは脳内物質ドバドバで痛みを感じてなかっただけのようだ。
でも初回ボーナスで貰ったポーションを飲んだら一発で治った。異世界すげぇ。ちなみに獲得したアイテムはスマホ操作で具現化できた。
「助けていただき、心より感謝申し上げます」
馬車の中、助けられた女の子は俺に対し三つ指ついて深々と頭を下げた。
俺はというと、女の子の真正面で正座をしながらガッチガチに緊張していた。
俺なんてクラスの女子とだってまともに話したこともないのに、こんなアイドル顔負けの金髪美少女に面と向かって畏まられたら緊張するさ。
「い、いえ。その……助かったのは俺も同じと言いますか、なんと言いますか……」
伏せていた視線を少女へと向け、俺はしどろもどろながら返答する。すると俺の顔を真っ直ぐと見つめていた少女と目が合った。
突然のことに俺はドキッとしてしまう。
パッと見でわかってはいたが、改めて見ると、とんでもない美少女だったからだ。
歳は十代半ばぐらいだろうか、俺よりちょっとだけ年下のように見える。胸元まで伸びる、サラサラで美しい金髪。どちらかと言えば可愛い系の顔立ちだが、そのコバルトブルーの双眸からはどこか凛とした雰囲気も感じられる。身に纏うブルーを基調としたドレスも、ふんわりとしていてかわいい。
こんな女の子がもし日本にいたら、すれ違った人々は百人中百人が二度見するだろう。それほどの存在感を放っていた。
「……あの、どうかされましたか?」
「はひっ!? あ、いえそのとても可憐で見とれてしまったと言いますか……」
「まあ、お上手ですね。ありがとうございます」
俺としてはお世辞のつもりではなく、つい本心がポロっと言葉に出てしまったのだが、彼女はその手のことは言われ慣れているのか、常套句として受け取った様子だった。
「では改めて自己紹介させていただきますね。私はシルヴィア・ヴァイシルト。ヴァイシルト伯爵家の一人娘です」
そして彼女は咳払いを一つはさみ、自己紹介を始めた。だが、この世界に来たばかりの俺はヴァイシルトなんて言われてもまったくピンとこない。物凄い名家なんだろうか。
伯爵ってことは貴族ってやつなんだろうな。俺のいた世界でも貴族はいるらしいけど、全然勉強してなかったから詳しくは知らない。
よくわかってないけど詳しく聞くのも失礼な気がしたので、とりあえず納得したように見せかけて、そのま話を続ける事にした。
「俺の名前は相模――あ、いやケイタ・サガミって言います」
彼女の名前から察するに、多分日本とは違って姓名の読みが逆になる外国スタイルだろう。俺もそれに倣って自己紹介をした。
「ケイタ様ですね。あまり聞かない珍しいお名前ですが、どちらの出身なんですか?」
うっ。出たよ、異世界で聞かれて困る質問俺的ナンバーワン。
正直に異世界から来ましたって言うと、頭がおかしい人と思われるかもしれない。この世界の常識がわからない以上、迂闊な返答は控えるべきだろう。
さて、何て答えるかな。
「あー……えと、実は名前以外の記憶がなくて。目覚めたらこの山にいたんです」
とりあえず記憶喪失っていう設定にしておこう。そうしたらこの世界の常識を知らなくてもおかしくないし、こちらとしても聞きやすくなるからね。
「まあ……! そうだったのですね。それはさぞかし心細かったでしょう。――あっ、そうです! もしよろしければ、ぜひ我がヴァイシルト家にお越しくださいませ。お礼もしなければなりませんしね」
こちらとしては願ったり叶ったりだ。俺には行くあてもなければ予定もない。この山を抜けるにしても彼女らと一緒にいたほうが遥かに安全だろう。
今後のことは人里に降りてから考えればいいしね。
「すみません。ではお言葉に甘えさせてもらいます」
「はいっ、決まりですね。ではしばらくの間よろしくお願いいたしますね、ケイタ様」
そう言ってシルヴィアはにこっと微笑んだ。
その笑顔があまりにも純粋で眩しすぎたので、俺は顔を赤くしながら目を逸らした。