第45話 珍入者
「ケイタ・サガミ! 此度の戦い、見事でしたわ!」
俺たちの控え室に突如現れたのは、目の冴えるような鮮やかな赤髪と、はち切れんばかりの豊満なボディの持ち主の美少女、フラムローゼ・アークライト。この国の第二王女であり、さっき俺が死闘を繰り広げた相手である。
その後ろには以前見た護衛二人が付いていた。
「――あら? もしかしてお取り込み中だったかしら?」
「いっ、いいえフラムローゼ様。ですが、ケイタさんは起き上がることができませんので、私も含めこのままの体勢でいることをお許しください」
「よくってよ。なにやら体調が優れないようですし、とりあえず簡潔に要件を伝えますわ」
王族なのにあまり偉そうにしないところは好感が持てるな。初対面の時も結構失礼な態度をとってしまったけど、特に咎められたりはしなかったし。
「要件は一点。決闘の報酬の件ですわ」
「ああ、俺が勝ったらなんでも願いを叶えてくれるんでしたっけ……」
「ええ、アークライト王家の名にかけて、可能な限り要望に応えますわ。「世界を自らのものにしたい」など、あまりに荒唐無稽なことは、さすがのわたくしでも叶えかねますが」
いやそんなん言われなくてもわかってるよ!
というか仮に叶えられるんだとしても、世界征服なんて分不相応にも程がある。もし実現したとしても、革命でも起こされてあっさり殺されるぞ、俺。
しかし、なんでもか……なんでもが一番困るんだよなあ。
今なら、晩御飯のメニューを聞いたら、子供に「なんでもいい」と答えられた母親の気持ちがわかる。いや、だってさ、いざなにがいいかと問われるとパッと出てこないんだよね。もっとシンキングタイムが欲しい。
……いや、元々『勝ったらなんでも願いを叶える』という報酬は提示されていた。でも、負けて連れていかれたくないとい気持ちが大きすぎて、勝ったときのことはまったく考えてなかったのだ。
「さあさあ! 望みをおっしゃいなさいな!」
そんな俺の思考をよそに、王女様はどこか楽しそうに、満面の笑みで俺を急かしてくる。
……あーもう、頭もぼーっとするし、脳みそ回転させるのがしんどい。なんだか考えるのが面倒くさくなってきたぞ。
「えーと……それじゃあこの間と同じでいいっすよ」
ザコブに勝った時のように、ある程度の金品を貰えればいいかな。魔動人形を何体か買えるぐらいの金銭があれば、俺としては充分に満足のいく報酬だ。
「なっ――――そ、それはザコブ・カマセーヌとの決闘の時と同じ……ということですの?」
「……? はい、そうですけど……」
どこか取り乱した様子の王女様であったが、さすが王族に名を連ねるだけあって、俺の返事を受けてすぐに平静を取り戻していた。
ってか取り乱すほど無茶な要求じゃないと思うんだけど。
「――了承しました。わたくしの言葉に二言はありませんわ。少々時間を頂きますが、必ず実現するとお約束します。準備が出来次第ヴァイシルト家に伺いますので、しばしお待ち頂きますわ」
「はい、わかりました」
結構な大金になるだろうから、いろいろ手続きとかあるんだろうな。
でも現状新しく作れる魔動人形は無いし、早めにたのんますぜ。
「それではわたくしは準備がありますので、これで失礼しますわ。ご機嫌よう」
そう捲し立て、王女様は控え室を去った。
「フラムローゼ様、行ってしまいましたね」
「そうだね……ふぁ~あ」
颯爽と現れ、風のように去っていったな。
というか、最後護衛の人にめっちゃ睨まれた気がするんだが……まあいいか。
寝る寸前で起こされたんだ、いい加減眠気がヤバイので俺はもう寝る。細かいことは起きたあとに考えよう。
「それじゃあシルヴィア、悪いけどこのまま少し休ませてもらうね」
「はい、ゆっくりお休みになってください」
激闘を制し疲労困憊の俺は、心地のよい感触を後頭部に感じつつ、魔力回復のため深い眠りについたのだった。




