第44話 目覚めたらそこは
――――冷たい。なんだこれは、水……?
ふと、何か冷たいものが顔を伝っていたを感じ、意識が覚醒する。指で触れてみると、それは何かしらの液体のようだった。
「……ん?」
「――ケイタさんっ! よかった……目を覚ましたんですね!」
この声……シルヴィアか?
目を開くと、急に視力が落ちたかのように視界がぼんやりとしていた。身体の感覚的に、今俺は仰向けになっているはずなのに、人の顔のようなものがすごく近くにある。
なんだ……どういう状況なんだ?
たしか俺は魔動人形に乗っていたはずだ。それで、急に目の前が真っ暗になって……まさか、その場で気を失ってしまったのか!?
王女様が降参を宣言していたのは覚えている。そのあと結局どうなったんだ?
俺が気を失ったことで向こうの勝ちになったんじゃないだろうな。
慌てて体を起こそうとするが、思ったように体に力が入らない。結局起き上がることは叶わず、わずかに浮き上がった上体を支えきれずに、一気に力が抜けて倒れ込んでてしまう。
しかし俺の後頭部は柔らかいものに守られ、頭をぶつけずに済んだ。
柔らかい……そして暖かい……なんだこれ?
俺を守ったものを確認するため、撫で回すように触れてみる。ほほう、すべすべしていながら弾力もある。それに、心なしかいい匂いがするぞ。
「ひゃん! や……あ、あのケイタさん、くすぐったいです……」
「ん……? えっ!?」
驚いたようなシルヴィアの声に、ピタッと手を止める。
――まさか、これはシルヴィアのふともも?
ってことは今俺は、膝枕をされている?
あの伝説のHIZAMAKURAを!?
いかんいかん、大変なことをしてしまった。知らなかったとはいえ、乙女の柔肌をこれでもかとまさぐってしまったのだ。
しかも相手は貴族令嬢。ビンタの一発や二発……いや、投獄もあるかもしれない……!
「ご、ごめんっ!」
ぼやけていた視界も元に戻り、シルヴィアの赤くなった顔を眼前に確認した俺は、その場を飛び起きようとする。
だが、やはりと言うか力が入らない。健闘むなしく、再び俺の頭はこの世の楽園へと舞い戻ることとなった。
ああ、心地よい。膝枕なんて小さい頃母親にしてもらった以来かな……。
「その……私は気にしてませんから、無理に動かないで大丈夫ですよ。目を覚ましたとはいえ、危険な状態だったんですから、しばらくはこのまま休んでいてください」
あれ、許された?
しかもこのまま寝てていいの?
「あ……でもくすぐったいので触ったりするのは、その……少しだけにしてくださいね?」
えっ、少しならいいの!?
――って、それより危険な状態だったって言ってたけど……俺ってそんなにヤバイ感じだったのか?
「シルヴィア、俺はいったい……?」
「私たちの勝利を宣言されたあとすぐに、ケイタさんは倒れてしまったんです。魔力欠乏症に近い症状だったので、すぐにここの控え室へ運ばれたのですが、ベッドがなくて……。私の膝で申し訳ないですが、我慢してくださいね」
勝利宣言……勝ったんだな。よかった。
そして、この部屋にベッドがなくて心底良かったと思う。神様、ありがとう。
――あ、よく見るとシルヴィアの目元が赤くなっている。――そうか、最初に感じた冷たさは涙だったのか。泣くほど心配してくれたなんて、不謹慎だけど嬉しいな。
まだ頭がぼーっとするのと、体に力が入らないぐらいで他は大したことはない。なんとなくの感覚でしかないが、少なくとも死ぬことはないと思う。
「ごめんシルヴィア、もうしばらく休めば大丈夫だと思う」
魔力欠乏症ってのがどんな症状かはわからないが、シルヴィアの様子を見るからに、死に至る可能性があったのだということは理解できた。
魔力欠乏症……多分だけど魔力を全て使いきった時に起こる症状だろうな。
その考えに至り、得心がいった。あの新機能『リミットブレイク』で得た膨大な魔力はどこからきたのか。
魔動人形の魔力核は、静止状態なら無限に魔力を生成できるけど、あくまでも微量なものだ。あのとんでも出力を維持し続けられはしない。
じゃあ魔力の供給源はどこなのかと考えると、答えはひとつしかない。
魔力を持つ存在……そう、搭乗者だ。
俺の魔力を吸収して機体に還元していたのだろう。それも最後の一滴を搾り取るまで際限無くだ。
そう考えるとこの機能は諸刃の剣だな。使ったあと倒れてしまうのは考えものだし、しかも死に繋がる危険性があるなら尚更だ。
後でスマホを見て詳細を確認しておこう。
「――あっ、俺のスマホは!?」
戦闘中は魔動人形にセットしていたのだが、気を失ってしまったため行方がわからない。
正直スマホがないとかなり不便だ。異世界に来てもスマホ依存症ってのは皮肉な話だが、事実上の生命線なのでしょうがない。
「私が預かっていますよ。倒れているケイタさんの側に落ちてましたので、拾っておきました」
よかった、シルヴィアが預かっていてくれたんだな。
「よかった~、ありがとうシルヴィア」
「いいえ、お役に立ててなによりです」
そう言ってシルヴィアは照れくさそうに微笑む。……可愛い。天使かな?
「ふぁ~ぁ……眠くなってきた……」
俺は大きなあくびをする。スマホが戻って安心したのと、小難しいことを考えて脳を使ったからなのか、眠気が一気に襲ってきたのだ。
「無理せずに休んでいてください。今クロードが帰りの馬車の中に簡易ベッドを用意してくれています。準備が整うまでは私が見ていますので安心してくださいね」
シルヴィアもまだ膝を貸してくれるみたいだし、もう一眠りしてもいいよね。
「うん……おやすみ――」
バタァン!
「――ふがっ!?」
心地よく微睡みに落ちようかといったその瞬間、勢いよく扉が開かれ、予想外の人物がこの場に現れたのだった。




