第38話 過度な期待
「ここへ来るのも久しぶりだな……」
戦いの場は、前回と同じアリーナで行われる。
俺とシルヴィアは受付を済ませ、ザコブとの決闘以来、二度目の選手控え室へと訪れていた。
ちなみにエドワルドさんやカトリーヌさんは執務に追われ、今日は応援に来れないとのことだった。まあクロードさんを送迎に付けてくれただけで充分にありがたい。
「そうですね。私は選手として入るのは初めてなので、緊張します……」
シルヴィアは不安そうに胸に手を当てている。
俺もかつてない大舞台なんで緊張している。王族が決闘に出るということで、ザコブとの決闘とは比べ物にならないくらい注目度が高いのだ。
当然のように、かなりの収容人数を誇るはずのアリーナは満員御礼。それどころか、会場に入りきらないため、外にも特設のモニターっぽいのがいくつも設置されていたのを見かけた。なんでも魔法で投影しているらしい。
そして、それに乗じてアリーナの周りにはいくつもの露店が立ち並んでいた。なんでもない日なのに、街はまるで大きな祭りが開催されているかのような賑わいを見せていた。
「まさかこんなにも注目されているとはね。普段だってこのアリーナではを試合やってるんでしょ?」
「そうですね。でもここのアリーナは出場者が決まっていて、普段はローテーションを組んで試合を行っている形になります。なので、ここまで盛り上がることは滅多にありませんよ」
なるほど。ボクシングとかの格闘技大会とかと同じような感じかな?
前回俺が出た決闘はイレギュラーで、普段見ない戦いが見られるから注目度が高かったのか。ザコブが周りに宣伝してたとも言ってたし、物好きな人が多く集まったんだろう。
「やっぱり王族が出るとなると、注目度も段違いみたいだね」
王族がこんな大衆娯楽の場に出るなんてありえないだろうからな。ひと目見ようと集まるのもわかる。
「……それもありますが、ケイタさんもかなり注目されているんですよ?」
「――え? 俺が!?」
「そうですよ、一般等級の魔動人形で二等級上の相手に勝利を収めたんですから。これは全アリーナの戦績史上、初の出来事なんです。ケイタさんの再登場を望む声は多かったらしいですよ?」
「は、ははっ……」
マジか……。確かにあの時はかなり盛り上がってたからなぁ。
でもあの結果は運が良かっただけだから複雑な気持ちだな。操縦者としての技術は未熟もいいとこだし。
乾いた笑いで現実逃避していると、控え室の扉がノックされた。
「あっ、はーい。どうぞ」
「失礼しますよ」
扉を開けて入ってきたのは、裕福そうな出で立ちの壮年の男性。見覚えあるな、確かここの支配人さんだったか。
「あー……お久しぶりです、えっと……」
やっべ、わりと濃い顔してたから人相は覚えてたんだけど、名前が思い出せないぞ。
「デイビットさんですよ」
俺が眉間にシワを寄せながら記憶をたどっていると、シルヴィアがこっそりと耳打ちしてくれた。
「……お久しぶりです、デイビットさん」
「はは……まあ一月前に一度会っただけですから、覚えていなくても当然ですよ」
うぐっ……忘れていたのを見透かされている。まあでも怒ってる感じじゃないからセーフ……かな?
「今日は改めてご挨拶に伺いました。あなたのおかげでここまでの賑わいぶりですからね。支配人の私としては感謝の言葉しかありませんよ」
これだけ集客できれば収入もかなり見込めるんだろうな。しかし俺のおかげってのは言い過ぎじゃないか?
「いやあ……俺なんかより王女様の人気が凄いんじゃないですかね? あれだけの美人ですし」
「確かにフラムローゼ様の存在も大きいですね。……ですがそれだけではここまでの人を集めることはできなかったでしょう。ケイタ・サガミさん、あなたにも大きな期待が寄せられているんですよ」
「そんな……俺は殆ど素人です、過度な期待はやめてくださいよ」
「ふふ、素人ですか。そうなのかもしれませんが……民衆とは素直なものです。あの奇跡のような勝利をもう一度見たいと思うのも無理はないでしょう」
まあ大逆転劇みたいなのは俺も好きだし、二度目を期待してしまうのもわかるけど……俺だよ?
ちらりと隣を見ると、シルヴィアがデイビットさんの言葉に同意し、何度も頷いていた。
いやいや、シルヴィアさんそんな激しく同意しないでいただきたい。俺、プレッシャーに弱いタイプだからね?
「おっと、そろそろ時間ですね。では、良い戦いを期待していますよ」
「あ、はい。頑張ります」
デイビットさんはそう言い残して控え室を去った。結果として、俺は心を落ち着かせるどころか、いらんプレッシャーを抱えることとなってしまった。
「大丈夫ですよケイタさん、あんなに特訓したじゃないですか」
シルヴィアが震える俺の手を握りそう告げた。
「そう……だね。やれることはやったんだ、あとは当たって砕けるしかないか」
前とは違い、訓練も積んでいる。そして、塗装という新たな力もある。
そう考えたら不思議と震えは収まり、落ち着きを取り戻してきた。
「っし! 行こうか!」
「はいっ!」
俺とシルヴィアは、意気揚々と大観衆の待つ会場へと向かった。




