第35話 戦乙女
「よし、じゃあまずは胴体部分から取りかかろうか。そしたらこのランナーの14番と、18番のパーツを切り取ってみて」
「じゅ……じゅうよん? ど、どれのことですか?」
「……ん? 番号が振られているよね?」
「す、すみませんケイタさん。私は古代文字が読めなくて……」
古代文字!?
もしかしてこのタグに書いてある文字って、一般的に使われてる文字じゃないのか!?
異世界の文字を見るだけでなんとなく理解できてたのは、『ラッキーだな』ぐらいにしか思ってなかったけど……まさか古代文字とやらにもそれが適用されるとは思いもしなかった。
そうか……古代文字ってことは、普通の人は読めないのか。改まってよく見てみると、『1』という数字を表すだけなのに、よくわからん記号が何個かまとまって並んでいる。
パッと見でわかる俺が異常だってことだな。どこかで役に立つ場面があるかもしれない、心に留めておこう。
「えーと……そしたらこれと、これをランナーから切り離してみて」
俺はシルヴィアに対し、切り離すパーツを指差すことで伝えた。
「はい、わかりました」
するとシルヴィアはおもむろに壁に掛けられた工具、包丁ぐらいのサイズ感のノコギリを手に取ったのだ。
「ちょちょちょ! シルヴィア待って!」
「えっ、えっ!?」
俺は指示をしたあと後ろに下がって様子を見ていたのだが、ノコギリを手にしたシルヴィアを見て、慌てて背後から手を握ることでシルヴィアの動きを止めた。
「あ、あの……ケイタさん?」
こちらを覗き込むシルヴィアの横顔を見ると、その頬や耳が赤くなっているのが確認できた。あ……やっべ、すごい密着してる。なんか後ろから抱き締めてるみたいになってるぞ。
赤くなるほど恥ずかしい思いをさせてしまったみたいだ。
「あっ……ごめん!」
俺は慌ててシルヴィアから離れる。いや、だってノコギリでパーツを切り分けようとしてたら止めるでしょうよ。
しかし普通に声をかければよかったのでは、と今更ながら後悔する。怒らせてしまっただろうか?
「いえ……大丈夫です。その、少し驚いてしまっただけですので……」
ほっ。どうやら怒ってないみたいだ。
「も、もう少しあのままでも私は……」
「――えっ? 何か言った?」
「いっ、いいえ! なんでもないです! さっ、作業を続けましょう、ケイタさん!」
シルヴィアが小声で何か呟いていたように思えたけど、なんだったのだろう。まあ、あまり深く追求するのはやめておこう。あえて藪をつつく必要もあるまいて。
「じゃあ、続けようか。――っとその前に聞きたいんたけど、ここにある工具って魔動人形を作るために置いてあるの?」
「はい、私はそのように思っていたのですが……違うのでしょうか」
ああそっか、作業風景を見たことがないんだっけか。……まあこれみよがしに作業部屋に置いてあるんだもんな。そう考えるのが普通か。
「まあ俺も普通の人形技師がどんな工具使うのかは知らないけど……ここに置いてあるのだと、ちょーっと良くないかなぁ」
ノコギリの他にも金づちやピンバイス……いやドリルだなこれ。どれもこれもプラモデル作るのには必要のないものだ。
精密な工具を作る技術がないのだろうか。大きめの工具が多い。
いや、俺がちっさいころはハサミとか爪切りを駆使して作ったことあるけど、正直仕上がりは悪くなると言わざるを得ない。
初めてならそれでいいかもしれないが、今回は戦いの場に持っていくものだ。得られるバフのことを考えると最高の状態で仕上げたい。
それに、プラモデルとは比較にならないぐらい高価なものだから、無駄にはしたくないし。
「そ、そうなんですね。ではいったいどうしたら……」
「これを使って」
俺はスキル『モデラー』を使い、高性能ニッパーを召喚した。こいつの使いやすさは折り紙つきだ。俺が今まで使ってきたニッパーの中でダントツに良い。
「これは……!? ケイタさんの魔法ですか?」
俺の手に急に現れたニッパーを目にして、シルヴィアは驚いている様子だった。そういえば見せたことなかったよな。まあこんなよくわからんスキルを使えるのは俺だけだろうし、驚くのも無理はないか。
「うん。魔法というかスキル……かな? これだけしか使えないんだけとね。他にも何個か出せるよ、ほら」
俺は今召喚できる道具を一通り召喚し、机に広げた。一応魔力を消費するらしいのだが、今のところいくら召喚しても魔力が尽きる気配はない。実質無限に出せそうな気がする。
「す、すごいです……! こんな精巧な工具、私は見たことがありません。それも、こんなにも色々な種類が揃っているだなんて……!」
「はは……まあ、欠点としては俺が近くにいないと消えちゃうんだけどね」
以前作業中に席を外したら、大して時間が経過していないにも関わらず、戻ってきた時にはすべての道具が消えていた。不思議に思い検証したら、俺から一定範囲離れると消滅してしまうようだった。
つまり、誰かに譲渡したりすることはできないのだ。
「それで……これはどのようにして使うのですか?」
「ああ、これはニッパーって言ってね、用途は主にランナーからパーツを切り取ることだね。ここが持ち手で……そうそう、そしたらあとはハサミと同じ要領だね。ハサミと比べて刃渡りが短い分、力が加わりやすく固いものでも楽に切れるんだ」
理屈はわからんけど。テコの原理ってやつだっけか?
「こう……ですか?」
「そうそう。……あ、切るときはゲートを少し残した状態で切るといいよ。あ、ゲートっていうのはランナーとパーツを繋いでいるこの細い部分のことで――」
◇
――数時間後。作業を終えた俺たちは、休憩をしていた。
教えながらとはいえ、二人で作業していたおかげか、想定していたよりも早く作り終えることができた。
「よし、ひとまずこれで出来上がりだ」
「はいっ! やりましたね、ケイタさん。なんだか感慨深いです」
シルヴィアの嬉しそうな笑顔が眩しい。
うんうん、そうだよな。俺も最初にプラモデル作ったときは感動したもんだ。
しかしシルヴィアはセンスがあるんじゃないか。拙いながらも、教えた通りに仕上げてくるのには感動を覚えた。
プラモデル作る時って結構性格出るからね。せっかちな人とかは完成度より速度を重視するし。
その点シルヴィアは、一つずつきっちりと丁寧に作業するタイプだった。
おかげで完成度は文句無し。俺一人で作ったときと遜色ない。
俺は完成した魔動人形『ワルキューレ』を眺める。
スタイルは全体的に細く、曲線的なデザインをしていて、どこか女性のような印象を感じる。
自由の女神のような青銅色がベースカラーで、グレーの装甲板が鎧のようにちりばめられていて、まさに戦乙女と呼ぶにふさわしい。
同梱されていた武装は、穂先が円錐状になった西洋風の槍、そして大きめのラウンドシールド。
射撃武器が付属してないってことは、機動力を活かした接近戦が得意なのだろうか。そこは要検証だな。
さっそくシルヴィアはワルキューレと契約を交わす。
そして俺たちは同時に椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
「ふぅ~。じゃあ、今日はもういい時間だしもう寝ようか。ずっと集中して疲れたでしょ?」
「はい、さすがに疲れましたけど……初めての経験でしたから、とても楽しかったですよ」
「ほんと? それならよかった」
そう言ってもらえるなら教えた甲斐があるというものだ。俺の好きなことを素直に楽しかったと言って貰えると、嬉しさが込み上げてくる。
そうして、そのまま俺たちは作業部屋を出て、廊下で別れを告げた。
「じゃあ……おやすみ、シルヴィア」
「はい、おやすみなさい。ケイタさん」
真っ直ぐに部屋へと戻り、そのままベッドへ潜り込んだ俺は、疲れからか溶けるように眠りに落ちるのだった……。




