第33話 属性
「失礼します」
翌日の昼過ぎ、俺はエドワルドさんがいる執務室を訪ねた。魔動人形の都合が付いたと伝言を貰ったからだ。
「来たか、まあ掛けてくれ」
「おはようございます、ケイタさん」
執務室にはシルヴィアの姿もあった。まあ彼女が乗ることになる魔動人形を見るんだ、当然か。
「これが約束の品だ。魔動人形はこれ一点と、専用の設計図。そして魔動人形用の武装を数点取り寄せた。確認してくれ」
「わかりました」
一機だけなのは高価だからだろう。まとめて取り寄せた時に万が一があれば、かなりの損失になり、取り返しがつかなくなってしまうからな。
この小箱が武装類のアーティファクトか。手持ちできる武装に互換性があるのは助かるな。もちろん取説も助かる。
そして、メインである魔動人形のアーティファクトが、机の上に堂々と置かれていた。それには銀色の装飾が施されている銀等級の証だ。これひとつ購入する資金があれば、一般的な家屋なら二、三軒は建てられるらしい。
日本円に換算するなら一億円前後ってところだろうか。と言っても、この世界の物価を把握しきれてないから、俺の勝手な予想にすぎないんだけどね。
こんな高額のものが手に入るんだ。この国の冒険者人口が多いのも頷ける。命懸けとはいえ、一攫千金の夢があるもんな。
俺も戦闘チート能力とかを持っていたのなら、冒険者の道を選んでいたかもしれない。
……まぁそんなことはさておき、決闘まであと一週間。魔動人形を作る時間を考えたら、あまり余裕はない。
早速中身を確認しよう。銀等級をランナーの状態で見るのは初めてだから、ちょっとワクワクするな。
「では失礼して……おおっ!」
留め具を外し、箱を開ける。その中には色とりどりのランナーが十近くある。デック・キャノンとは比べ物にならないランナー数だ。
パーツ数が多ければ多いほど製作時の労力は増えるが、その分完成したときのクオリティは高くなる。
シルバライザーを全面改修するときに全解体したので、パーツ数はなんとなく予想できていたが、こうやってランナーの状態で見ると感慨深さがある。
「この魔動人形『ワルキューレ』は装甲は薄いが、その分速度に優れる。ガレオニクスを相手取るなら、攻撃を避けるのに徹するのがいいと判断して、この魔動人形を選んだのだ」
速度重視か……シルバライザーも同じタイプだし僚機として相性は良さそうだな。
……あっ、そうだ。特訓にかまけていたせいで、王女様の機体について詳しく聞くのを忘れていた。エドワルドさんの口振りからすると、火力特化っぽいがどうなんだろうか。
「ごめんシルヴィア。ガレオニクスについて詳しく聞かせてもらっていいかな? 俺、全然知らなくてさ……」
「はい。私も直接目にしたわけではないのですが、固有の対軍武装を搭載しているようです。聞いた話ではただの一撃で数百の魔物を屠ったとか……」
「なっ、数百……!?」
魔物といえば今のところあの鳥とドラゴンぐらいしか見たことがない。必然的に俺の想像する魔物像はそいつらになる。
人を優に超える大きさの魔物が数百いる光景を想像してしまい、背筋が寒くなる。それだけの魔物と戦った事実があるってことだよな……。
まぁドラゴンはともかく、アークバード……だったっけか。人間より多少大きい程度のあの鳥の魔物ぐらいなら、魔動人形を使えば蹴散らすのは容易いとは思うけど……それにしたって一撃で数百の魔物を倒すだなんて想像ができない。少なくともシルバライザーには無理だ。
「それは……すごいな。そんなものがアリーナで撃たれたら避けられるのか……?」
一撃で数百の魔物を倒せるんだ、威力もさることながら、攻撃範囲も凄まじいものだと予測できる。アリーナ内という決められた行動範囲の中で回避できるかは、運次第かもしれない。
「どうでしょうか……さすがに避ける余地がないほどとは思いません。必ず隙がある……現状ではそう信じる他ないですね」
「まあそうだよね……他には何か情報ある?」
「すみません。私が知っているのはそれくらいなんです」
そうか……具体的な戦法がわかれば対策もできたかもしれないけど、仕方がないか。
「ふむ……私から一つ補足させてもらおう。アークライト王家の人間は代々『火属性』の魔法適正が高い者が多い。歴代でも特に優秀な者は燃えるような赤髪を持つという」
「確かにあの王女様は立派な赤髪でしたね。……でもそれが魔動人形と何か関わりが……?」
王女様の髪は、まるで紅葉のように鮮やかな赤髪だった。
エドワルドさんの言葉通りならば、火属性の魔法適正がかなり高いのだろう。だがそれが何を意味するかは俺にはわからなかった。
「通常の武装ならば、魔力は純粋な破壊の力へと変換され、属性を持たない。しかし、一部の魔動人形は属性を持つ武装を有している場合もあるのだ」
「と、いうことはもしかして……」
「ああ、そういった武装を使うには、操縦者に属性魔法の適正が求められるのだ。その代わりに、魔法適正のレベル次第で性能が大きく変わる」
やっぱりそうなのか。ガレオニクスは火属性の武装を持っていて、その武装と王女様の相性は最高……ってことか。
最高の組み合わせによって、金等級の中でも頭一つ抜けてるって考えるのが妥当だな。
「かなり厄介と思っていたほうが良さそうですね」
「うむ……まあ私もシルヴィアと同様にこの目で見たわけじゃない。見当外れという場合もある」
「そう……だといいんですけどね。とりあえず……今は一つずつ出来ることをやっていこうと思います。まずはこの『ワルキューレ』を完成させます。情報ありがとうございました」
「ああ、曖昧な情報ばかりですまんな。他にも何か困ったことがあれば言ってくれ、協力は惜しまないつもりだ」
「はい。ありがとうございます。では、俺はこれで」
こうして新たなアーティファクトを手に、俺は作業部屋へと足を運ぶ。
不安は拭いきれないけど、今は新しいキットを組むことができるワクワク感のほうが大きい。
――さあ、作るぞー!




