第2話 スキルを使ってみた
……とまあ、わめき散らしてはみたものの、そんなことで事態が好転するわけでもなし。
俺は深呼吸をしながら気を落ち着かせて、再びスマホの画面に視線を落とした。
「モデラー、か。他にスキルも無いし、これでなんとかやっていくしかないんだろうなぁ。んで、様々なアイテムって具体的に何が出せるんだ? そもそもスキルってどうやって使うんだ?」
目を閉じて頭の中でスキルの使用を念じてみたが、無反応。てことは……あ、やっぱり。
スマホをいじっているとスキル使用の画面が表示された。これをタップすれば使えるっぽい。どれどれ、いま出せるアイテムはこの3つか。
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【インフィニットニッパー】
決して刃こぼれせず、破損することのないニッパー。
また、刃や持ち手の形状をある程度任意に変更することが可能。
【ピンセット】
普通のピンセット。細かい作業をするのに適している。
【ヤスリ】
紙製、金属製などあらゆる種類のヤスリが召喚可能。
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「うんうん、とりあえず必要最低限のものは揃ってるみたいだな。ニッパー以外は特殊な機能はなさそうだけど、ヤスリなんかは消耗品でよく使うから、スキルで無限に出せるのは本当にありがたい」
お、最後にスキルの音声認識機能の項目があるぞ。これをオンにしておけば、口にするだけでアイテムを召喚出来るようになるってことかな。
早速設定をオンにして、試してみる。
「インフィニットニッパー召喚!」
俺がそう言ったのと同時に右手を淡い光が覆い、その光が収まるとニッパーが手に収まっていた。
「おお……これが俺のスキル! これで俺は異世界を生き抜いて――――いけるかーいっ! ニッパーでどう戦えと!?」
思わずノリツッコミをしてしまうぐらい、しょうもないスキルだった。
魔法っぽい現象に感動したっちゃしたんだけど、結局このスキルでなにが出来るのかが皆目見当が付かない。
ていうかむしろ元の世界へ帰りたくなった。だってこのスキルプラモデル作るのにめちゃくちゃ便利なんだもん。全モデラー垂涎の能力だよこれ。
半ば自暴自棄になった俺は、なにを思ったか崖上に立ち、叫んだ。
「俺は、プラモデルが、大好きだーーーーっ!!」
叫んだことに意味はない。でもそう叫ばずにはいられなかった。だってそうしないとメンタル保てそうになかったんだもの。
いや、でもこのあと能力が覚醒するパターンかもしれないし?
そもそもこれが夢だったてことも十分ありえるし?
なんとかなるさ。うん。
「――――あ」
崖際に立っていたのが良くなかった。
俺が足場にしていた岩がポロっと崩れ、片足が宙に放り出された俺は、抵抗する間もなく崖下へと自由落下を決め込む。
「しっ、死ぬうぅぅぅぅっ!?」
どう考えても落ちて助かる高さではなかった。
早くも俺の異世界生活は幕を閉じようとしていたのだが、運が良かったのだろう。
俺の落下地点には馬車が通っていた。それも、けっこうな大きさの幌馬車だ。
バッサーン!
布を突き破り、馬車の中へと落下する俺。
下に麻袋があって落下の衝撃は緩和されたが、当然ノーダメとはいかず、めちゃくちゃ痛い。柔道の授業で体育教師のゴリ先に一本背負い決められたときの数倍は痛い。
「いててて……い、生きてる?」
痛む体を起こすと、俺の様子を驚いた表情で見ている人物が二人。
一人は老紳士。もう一人は金髪の女の子。そして二人は鎖でぐるぐる巻きにされていて、口には布を噛まされていた。
「あれ……? お邪魔でしたか?」
「んー! んー!」
老紳士の方が俺に何か必死に訴えかけていたのだが、布のせいでなにを言ってるのか全然わからなかった。
すると、馬車の外から声が聞こえた。
「おい、なんだ今のは!? 何か降ってきやがったぞ!」
「落石か……? ちっ、ドラゴンも出やがるし、ここはろくなとこじゃねぇな」
「人質を運んでる途中だ、すぐに中の様子を見てこい。もし怪しい奴がいたら殺して構わない」
物騒な話が俺の耳に入る。
「人質……? あー……これってもしかしなくてもヤバい?」
多分ここにいたら問答無用で殺される。ここで俺が生き延びるにはどうしたらいいんだ!?
慌てふためく俺は、捕らわれていた女の子と目が合った。