第22話 新たな力
「うわあああっ! ――――って、あれ?」
ビームの直撃を受けたのにもかかわらず、計器類が警告を発することはなかった。
おそらく機体の状況を確認できるであろう表示を見ても、『問題なし』。
さすがに無傷とまではいかないだろうが、俺の機体はあの程度では倒されないようだ。
「ば、馬鹿なっ!? なぜ平然としている!? 確かにその魔動人形は装甲だけは優秀だが……だからといって直撃を受けてその程度で済むはずがない!」
ザコブがめちゃくちゃ驚いている。奴の言うことが本当なら、俺の機体は何らかの要因で防御力が上昇しているのだろう。
――まさか、あれが原因か……?
先日、魔動人形の完成間際に、俺のスキル熟練度が上昇したらしく、新たに二つの道具を呼び出せるようになったのだ。
新たに獲得した道具は、『接着溶剤アルファ』と、『マスターデザインナイフ』の二つだ。
『接着溶剤アルファ』は簡単に言うと接着剤だな。接着剤はいわゆる『合わせ目』を消すために使用した。
プラモデルというのは基本的にパーツを組み合わせながら作っていくのだが、組み合わせた時に構造上どうしてもうっすらと『隙間』ができてしまうのだ。
その隙間を埋めるために接着剤を使用する。ハケを使いパーツの断面に接着剤を塗り、少し待つ。
そのあと慎重にパーツを組み、隙間ができないようにしっかりと押さえる。
するとパーツ同士の接着面から、接着剤の影響で溶けた部分が少しはみ出てくるのだ。本来ならこのあと接着剤が乾燥するまで数日はかかるのだが、さすが異世界、この『接着溶剤アルファ』はおよそ一時間程度で完全に硬化するのだ。しかも人体に付着した場合は硬化しないという便利仕様。
完全に硬化したあと丁寧にヤスリがけをするとあら不思議。合わせ目を消すことができるのだ。溶かしてくっつけるので溶接に近い。目立たない場所ならまだしも、大きなパーツはこれをやらないと少々見映えが悪くなる。
異世界仕様のおかげで、少々徹夜した程度で間に合わせることができたのだ。まさか、防御力が上がる効果があるとは思わなかったけど……ザコブの慌てようから、その効果があるのは間違いないだろう。
『おおっと! 私の目には直撃したように見えたのですが……奇跡的に外れていたのかぁ!?』
実況の人も信じられないようで、実は当たってなかったのではと思っているようだ。いいや、攻撃はちゃんと当たってたよ。効いてないだけだ。
「くっ! どんな卑怯な手を使ったかわからないが……少し装甲が硬いぐらいで調子に乗るなよっ! なんせ、お前の人形には近接格闘しか攻撃手段はないんだからなっ!」
卑怯な手だと? 何を言ってるんだアイツ……。
それに遠距離の攻撃手段がないとか言ってるが、こいつの肩に付いてる立派な大砲が目に入ってないとでも言うのか?
「へへっ、今に見てろザコブ! こいつの大砲が火を吹くぜ!」
「はっ! 知らないのか? そいつの大砲は構造上、上方にしか発射できないんだぜ? 土下座でもしないかぎり、対空用の武装でしかないんだ! ――――え?」
……確かにな。こいつの大砲は肩部から垂直に向いている。稼働範囲も、その状態から前後に多少動かせるぐらいだ。……ただしそれは無改造の場合だ。
ザッコブは言葉を失っていた。何故ならば、本来自分へと向けられるはずのない砲門が、ほぼ九十度近く砲身を傾け、真っ直ぐにシルバライザーへを捉えていたからだろう。
本来ならパーツが干渉して正面へ射撃できない状態だったのを、デザインナイフを使い干渉部を切り取ることによって、銃身を九十度まで動かせるよう改造したのだ。
「――なっ、えっ!?」
「射撃は……こうか?」
大砲を構えると、モニターにレティクルが出現し、右側のスフィアの横にグリップ付きのトリガーが出現した。ぶれる照準をなんとかシルバライザーへと合わせる。
よし、ここだっ! 照準が重なった瞬間を狙い、俺はトリガーを引く。
ゴォォォーーゥ!
大きな発射音と共に、一筋の光が敵を襲う。
こっちの口径は相手のライフルの数倍はある。きっと当たればかなりのダメージが入るはずだ。
「ぐあああっ!」
あ、当たったのか!?
爆煙で姿は確認できないが、ザコブの悲鳴が聞こえた。
これで終わっているといいのだが……。やったか?




