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第21話 最底辺

『――こ、これはなんということでしょう!? ヴァイシルト陣営の魔動人形(マギアドール)は最低ランクの一般等級。しかも、その中でも最も決闘に向かないとされている最底辺の魔動人形です!』


 静まり返っていた会場が一転、とたんにブーイングの嵐が巻き起こる。


「何考えてんだ! 俺たちはそんなもんを見にきたんじゃねぇんだよ!」

「ガハハハッ! なんだあのちんちくりんは! この闘技場に長年通ってるが、あんなのは初めて見たぞい!」

「英雄の家系だかなんだか知らねぇけど、客を馬鹿にしてるのか!」

「最悪だぜ、俺はわざわざ遠いところから長い時間かけてここまできたんだぞ! ふざけんな、金返せ!」


 指をさし笑う者、怒りに任せ叫ぶ者、観客は様々な反応を見せる。

 しかし大多数の観客はブーブーという非難の声と共に、俺に向かってゴミを投げつけている。


 さすがに遠くて当たらなかったが、仮に当たったとしても、魔動人形に乗った状態ならなんてことはない。ただ、届こうが届くまいが、俺の豆腐メンタルに多大なダメージが入る。


 うう……そんなこと言われてもこの機体しかなかったんだから仕方ないだろう。


『み、皆様! 会場へとゴミを投げるのはおやめください! か、係員の人! 早く障壁の展開をお願いしまぁす!』


 実況の人の願いが通じたのか、数秒と経たずに客席と戦闘スペースが透明の壁によって隔てられる。

 投げられたゴミは壁に反射し、俺には届かず客席へと落ちていった。

 物理的には守られているが、音は遮らないらしく、いまだにブーイングが俺の耳に届いていた。


「くっ……今は戦いに集中しろ俺。本気でやらなきゃダメなんだ!」


 ぱんぱんと頬を二回叩き、なんとか自分を奮い立たせてメンタルを立て直す。そしてふと正面のモニターを見ると、ザコブの搭乗機が余裕そうな雰囲気で佇んでいた。

 ずんぐりとした俺の機体に比べ、非常にスラッとしたボディ。銀色の装甲が日の光を反射してギラついている。


 手持ちの武装は右手にライフルっぽいものに、左手にシールド。まあオーソドックスな感じだな。あまりゴテゴテしていなくて非常にシンプルながらも洗練された良いデザインだ。

 あの機体もぜひ作ってみたい。


「……ん? よく見るとやけに突起部分が多いような……それに左右非対称だぞ」


 ザコブの機体がゆっくりと闘技場の真ん中近くまで歩いてきていた。近付くにつれより鮮明に機体が見えたのだが、その姿にどこか違和感を覚える。


『ヴァイシルト陣営の魔動人形も定位置へお願いしまぁす!』


 ――おっと、開始位置はあの辺りなのか。よし、まだ決闘が始まったわけではなさそうだし、まずは慣れるためにもゆっくりと移動してみるか。

 

 俺はスフィアに手をかざし、『歩け』と念じる。

 すると、俺の機体はその重い足を動かし、ドスンドスンと前へと進み始めた。

 歩くたびに砂塵が舞い、大地が揺れる。見た目からして超重量級なのはわかってはいたが、実際に巨大化状態で歩くと、中にいながらもその重厚感が伝わってくる。やっぱロボットはこうでなくちゃな!


 歩かせながら感覚を掴んできたころ、俺は定位置へと着いた。相手との距離は……百メートルぐらいか? 以外に近く感じるな。距離感を掴むのも苦労しそうだぞ。


「よく来たな。どうやら魔動人形に乗れるだけの魔力は持っていたようだが、歩かせることですらぎこちないぞ。恥を晒す前に棄権したらどうだ?」


 目の前の機体からザコブの声が聞こえる。拡声機能っぽいのも付いてるみたいだな。俺も言い返してやろう。


「うるさいぞザコブ! 戦ってみないと結果はわからないだろう!」

「は……ハハハッ! まだ自分の置かれた状況がわかっていないようだなぁ! ポクのシルバライザーは銀等級(シルバーグレード)、対するお前は『木偶の坊』! 結果は最初からわかりきってるんだよ!」


 木偶の坊……? 俺の機体の名前か?

 そういや名前は聞き忘れていたな。あっちにはシルバライザーなんてカッコいい名前が付いてるのに……木偶の坊って酷すぎん?


『おっとぉ! 舌戦はそこまでですよぉ! 試合時間になりましたので心の準備を整えてくださいね!』


 ……っ! ついに戦闘か。

 さすがにこの段階になると観客もブーイングを止め、戦いが始まるその時を待っていた。

 開始が近付くにつれ、俺の心臓の鼓動が大きくなる。緊張で震えてしまう体を無理矢理に抑え込む。


『――さぁ、王家も見守るこの決闘、果たして勝者となるのはどちらなのか!? スタンバイ! レディ……ゴォォーッ!』


 ついに戦いの幕が切って落とされた。


「よし、行くぞっ! ……って、ちょ、ま……!」


「終わりだ」


 開始と同時にシルバライザーはライフルの銃口をこちらに向けた。そして間髪を入れずにその引き金を引く。

 銃口からはビームのようなものが放たれるが、鈍重な俺の機体に至近距離での射撃を避ける術は無い。


 結果、ビームは直撃。直撃した際に発生した爆風で、俺の機体は砂煙に包まれた。

 

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