第19話 契約
「はあ……なんでこんなことに」
俺は、これでもかというぐらいうなだれながら、出場者用の控え室へと入った。シルヴィアは付き添ってくれることになったが、他のみんなは観客席へと移動している。
いつかは魔動人形に乗りたいと、確かに願っていたものの、今このタイミングじゃない。
他人の一生がかかった勝負を背負うには、普通の高校生だった俺の人生経験ではあまりに浅すぎる。プレッシャーに押し潰されそうだ。正直誰かに代わって欲しい。
「ケイタさん、すみません。こうなった以上、私たちはあなたに賭けるしかないんてます」
「シルヴィア……でも俺、魔動人形に乗ったことなんてないんだ。動かし方すらわからない」
魔動人形に乗るには一定以上の魔力値が必要らしいけど、前に確認した俺のステータスは魔力『S』だった。だから魔力が足りないってことはないだろうけど……問題は、操縦方法がさっぱりわからないことだ。
「ケイタさん、口頭になってしまいますが、私から説明しますね。実は私、魔動人形に乗った経験があるんです」
「ほんと? 頼むよシルヴィア」
シルヴィアも魔力が基準値まで達していたのだろう。クロードさんは魔力が無くて乗れないらしいけど、適正がある人はそう珍しくもないのかもしれない。
……ともかく、もう決まってしまったことだ。こうなったら腹をくくってみんなのためにやるしかない。
「と、言っても難しいことではありません。魔動人形の心臓部……魔力核の中に自分が入ることになって、そこにある思念伝達装置、通称スフィアに手を触れながら念じることで操作が可能になるんです」
「コアとスフィア……なるほど、念じるだけなら、思っていたより簡単そうだな」
コックピットっていうと、もっとレバーとかボタンとかがめちゃくちゃ大量にあるイメージだったけど、聞いた感じでは意外にいけそうな気がする。
まあ魔法で動いてるみたいだし、あまりメカメカしい機能とかじゃないんだろうな。
「ええ、多少の慣れは必要かと思いますが、初めてでも充分に戦うことはできると思いますよ」
「おおっ……! なんか大丈夫な気がしてきた!」
「あ、でも……まずは契約をしないとですね」
え、契約? 大丈夫っすかそれ。後で多額の請求がきたりとかしない?
契約って聞くとろくなもんじゃないイメージしか湧かないな。
「えと……その契約って、なにか大変だったりするのかな?」
「契約自体はすぐ終わりますよ。ただ、ひとつだけ大きな代償があります」
「だ、代償……!?」
代償と聞いて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
あんな巨大兵器を扱えるようになるのだ、そりゃあ何かしらのリスクもあるだろうな。
――いったいどんな代償を支払えばいいんだ!?
「はい。契約すると、契約者の魔力総量が永久的に減少してしまうのです。これは魔動人形の起動に必要な魔力を常に紋章に与え続けるためだと言われています。……そのため、人によっては契約したが故に、魔法を使えなくなってしまう人もいるんです」
あー……なるほどね。ゲーム的に言うと最大MPが減るって感じか。どれだけ魔力が減るかはわからないけど、俺のステータスだったらさほど問題はないだろう。
そもそも今のところ魔法使えないしね。そう考えれば俺にとっては大したデメリットじゃない。
どっちにしろ魔動人形には乗りたいし、早速契約とやらを結ぶとしよう。
「俺は魔法を使えないし、問題ないよ。時間もないし早いところ契約ってやつをやろう!」
「はい、わかりました。クロード、アーティファクトをここに」
「かしこまりました」
クロードさんがランナーが入っていた箱を俺の前へと持ってくる。今は作り終えた魔動人形をしまっているはずなんだけど、他にも何かしらの機能があるってことか?
「ケイタさん、このアーティファクトにある模様に手を当てて『契約実行』と念じてください。魔力が足りていれば契約紋が刻まれるはずです」
「なるほど、箱自体に契約の機能があるんだ」
言われるがままに模様に手を当て、念じる。
すると、模様が光り始める。その光はやがて、俺の右手首あたりへと集中しはじめた。
光が収まると、俺の腕にはバングルのようなものがいつの間にか装着されていた。
「これで……契約は完了かな?」
「はい。これでケイタさんも魔動人形に乗れるようになりましたよ」
「おお、けっこうあっさりしてるんだな……って、あれ!? アーティファクトが消えてるけど!?」
今気がついたけど、さっきまでそこにあったアーティファクトが消えていた。あれには魔動人形も入っていたはずなのに。
「あ、大丈夫ですよケイタさん。今ケイタさんの腕についているものがアーティファクトの変化した姿です。これでいつでも魔動人形を呼び出せますよ」
「……おお、うん」
これなら持ち運びが楽でいいな。
あと、魔力の最大量が減ると聞いていたのだが、ぶっちゃけ体感では何も変わらなかった。
これで準備万端……とは言えないが、とりあえず戦うことはできそうだ。
「さて、あとは本番で俺がどこまでやれるか……だな」
大きな不安が残るが、時間は待ってなどくれない。
決闘の時が刻一刻と近づいていた……。




