第1話 手に入れたチート(?)スキル
「いやあマジか。ついに俺も異世界転生……いや、身体とか服装はそのままだったし、転移ってことになるのか? ……まあとにかく異世界に来る時が来たのか」
オタクな俺は当然のごとくラノベやアニメも嗜んでいる。一番好きなのはロボットものだが、それだけじゃなくて最近流行ってる異世界転生・転移ものなんかも守備範囲内だ。
なかにはロボットが出てくるのもあるしね。
「いや、ってことは俺ってもしかして死んだの? 死因がプラモデル作りすぎとか笑えねぇ……。――あっ!? 異世界来たらもうプラモデル買えないじゃん!? くっそー……せめて来月発売の俺の推し機体だけは手を付けたかった……!」
もう二度とプラモデルに触れないと思うと、いい歳こいて涙が出そうになる。でも、人生の大半をかけてきた趣味が失われたんだ。……俺、泣いていいよね?
「――いやいや、泣いててもしょうがない。気持ちを切り替えよう。このままじゃ魔物に食われておしまいだ。そうだ、異世界転生と言えばチートスキル。俺もなにかものすごいスキルを習得しているに違いない」
確かにプラモデルが触れなくなるのは非常に辛い。辛いが、せっかく異世界に来たんだ、これから待ち受けているであろう冒険の数々に、心踊らずにはいられない。
とりあえず俺の能力を確認しないとな。テンプレ通りだとすればこうすれば出てくるはずだ。
「ステータスオープン! ……ん? ウィンドウオープン! スキル確認! ステータス表示!」
思い付く限りの言葉やジェスチャーを繰り出すも、なにひとつ変化は起きなかった。
……おかしい。普通ならこれでステータスやスキルを確認できて、あまりの強さにチート無双だひゃっほーい、的な展開のはず。
「ぐぬぬ……このままステータス見れなかったら、なんか凄いスキル持ってたとしてもわからないぞ」
――ピロン。
「んあ? あ、スマホが鳴った? ここは異世界なのに電波あるのか? うーん、なんかのアプリの通知かな……」
スマホを取り出し、画面を覗く。すると、この世界に来たばかりの時に見たらいつものホーム画面だったんだけど、今は一面真っ青になっていた。
「うっそだろ!? こんな時に壊れちゃったのか!?」
青一色になった画面を適当にタップしてみるものの、スマホからはなんの反応もない。
「……あれ、何かが勝手にインストールされてる?」
呆然と画面を見つめていたら、何も操作していないのに勝手にアプリのようなものがインストールされていた。キャンセルする間もなく、あっという間にインストールは終了し、見慣れないアイコンひとつだけが、真っ青な画面にぽつんと表示されている。
「なんか怖いけど……他に当てがないしとりあえず開いてみるか」
アイコンをタップすると画面が切り替わった。すると、通知のようなものが何件か来ているのに気付く。
「なになに……【ようこそアルズガルドへ】【魔物初撃破によりを報酬を獲得。ステータスウィンドウで詳細を確認しますか?】だって……?」
この"アルズガルド”ってのがこの異世界の名前なのか?
いや、それよりも気になるのがもう一つの通知だ。
「魔物撃破だって? そんなことをした覚えは――あ、もしかしてさっきの鳥か? 俺が蹴飛ばした物が当たったから攻撃判定になった、みたいな?」
モンスター撃破といわれても、関連する記憶はそれぐらいしか思い当たらない。とりあえずよくわからないままステータスウィンドウ云々の通知をタップしてみる。すると、スマホにゲームのステータス画面のようなものが表示された。
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【ケイタ・サガミ】
体力(G)
魔力(S)
筋力(G)
防御(G)
敏捷(F)
【所持スキル】
モデラー
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『アークバードを撃破』
『初回モンスター撃破ボーナスにより、アイテム【初心者ポーション×10】【初心者魔力ポーション×10】を取得』
ああ、やっぱり攻撃してた判定だったみたい。アークバードってのは多分さっきの鳥のことだろう。
ポーションのおまけも最初はありがたいな。どうやって取り出すか知らんけど。
「――っていうかステータス弱っ! 普通のゲームとかだとステータスGなんて最低レベルだろ。魔力だけは高いみたいだけど……スキルもたったひとつだけなんだが、役に立つのかこれ? なんだこれ、"モデラー”……?」
スキルの名前の部分をタップしてみると、詳細が表示された。
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【モデラー】
プラモデル作りに必要な様々なアイテムを、魔力を消費することで手元に召喚できる。熟練度が上がると召喚できるアイテムの種類が増える。
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うん、なんだろう……前世での経験がスキルとなって現れる感じかな?
そうだよなー、俺ってほとんどプラモデル作りしかやってこなかったもんなー。納得納得。
「……って弱いだろこのスキル!? これだけでどうやってあのでかい鳥とかドラゴンを倒すんだよ!? しかもファンタジー世界にプラモデルなんてあるわけないじゃん! マジ使えねぇ!!」
――こうして、俺の異世界生活は雲行き怪しく幕を開けたのだった。