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第18話 決闘当日

「おー、なんか今日は人が多いな」


 俺はヴァイシルト家の皆様方と共に、決闘が行われる会場へと辿り着いた。と言っても、昨日シルヴィアと来たばかりだから新鮮さはなく、驚いたりはしなかった。

 だが昨日と比べると、今日はやたらと人が多いような気がする。


「平和になった今の時代、魔動人形(マギアドール)同士の戦いはは市民の娯楽として盛んに行われている。特に、決闘は注目の的なりやすいのだ。しかも、今回は王家の人間が見届け人として直々に来場される。そのせいだろう」


 辺りを見回す俺に、エドワルドさんが丁寧に説明してくれた。

 なるほどな、要するに年末特番みたいな感じかな?


「……でも、今日は特に人が多く感じます。いくら王家公認の決闘があるとはいえ、この数は……」


 会場内に入り、客席を見渡したシルヴィアが言った。


 確かに……満員御礼とまではいかないが、だだっ広い会場なのにも関わらずかなり席が埋まっている。

 俺は昨日来ただけなので、平均してどれぐらいの客数が入るのかは知らないが、シルヴィアの口振りからして、現状は普通の事じゃないのだろう。


「やあ、皆様方! よく逃げずにここまで来たね。その度胸だけは認めてあげるよ」


 戸惑う俺たちの前に、因縁の男……ザコブ・カマセーヌが、昨日のボディーガードを引き連れ姿を現した。


「カマセーヌ……! 貴様……よくも我らの前に顔を出せたものだな!」


 おお、エドワルドさんが怒っている。あんな優しそうな人にこんなに睨み付けられるとは、あいつだいぶ嫌われているな。


「……はて、なんのことかな? 変な言いがかりはよしてくれたまえ」

「くっ……!」

「ああ、そうそう。君たちとの決闘は我々が国中に宣伝させてもらったよ。なんせ()()ヴァイシルト家が久々に戦うんだ。注目度は非常に高いからねぇ~」


 年齢は俺やシルヴィアより少し上ぐらいだろうに、完全に目上のエドワルドさんにすらあの態度。つくづくいけすかない野郎だ。

 そして、この大勢の客を呼び寄せたのはザコブだと言う。そんなことをして何の意味があるんだ……?


「この決闘、下馬評ではヴァイシルト家の圧倒的有利。……まあそうだろうね。なんてったって、落ち目ではあるけど、英雄の家系なんだ。大したことないポクの家なんか、相手にすらならないと思ってることだろうよ」


 ヴァイシルト家はかつての戦争で名を揚げた家系だとは、以前シルヴィアからちょこっと聞いた。そうか……ザコブの目的はこの決闘に勝つことでヴァイシルト家の全てを手に入れるだけではないのか。

 それだけでは飽き足らず、公の場でかつての英雄を打ち倒すことで自らを英雄たらしめんとしているのだろう。


 俺は眉をひそめながら一連のやり取りを見ていたのだが、ふとザコブと目が合った。


「やあやあ、君はあの時の……! よく逃げずに来たね。このポクを侮辱したこと、しっかりと覚えてるよ……!」

「ふん! お前なんて俺が作った魔動人形(マギアドール)がボッコボコにしてやるからな! 今に見てろ!」

「へぇ……お前、人形技師(ドールマイスター)だったのか? ま、どうせどこも雇ってくれないほど最底辺の人間だろう? そんな奴に大事な魔動人形を任せるとは、ヴァイシルト家も落ちぶれたものだ、ヒャヒャヒャ!」


 くっ、相変わらず一挙手一投足がイラつく野郎だ。


「冥土の土産に教えてやろう。今回ポクの陣営の魔動人形は銀等級(シルバーグレード)だ。そして操縦者はこのポク! もはや死角はないんだよ!」

「――っ!」


 ザッコブが操縦者だと、どう有利になるのかは知らない。……だが、銀等級か。セオリー通りならば、絶対に敵わないとさえ言われている条件だ。


 相手の魔動人形が銀等級だと知ったシルヴィアたちは、とたんに険しい表情へと変わる。

 一縷の望みが断たれた。そんな表情だ。


「どうしたんだい、皆様方? まだ始まってもいないんだ、結果がどうなるかなんてまだわからないじゃないか。英雄の血を引く者たちの力を見せておくれよ!」


 ザコブがこれでもかと煽ってくる。こちらが用意できた魔動人形が、一般等級(コモングレード)だと知っての発言だろう。結果が見えている戦いに、シルヴィアたちは反論できずに口を閉ざしてしまっている。


 おそらくだが、ヴァイシルト家が入手できたアーティファクトは、ザコブがわざと流したものだろう。不戦勝よりも、圧倒的性能差で一方的になぶり殺しにする方法を選んだに違いない。

 気に入らない……気に入らないが、奴が最後に言った言葉だけは真実だと思う。


「そうだよみんな! まだ負けるって決まったわけじゃないんだ。やってみないとわからないじゃないか!」

「ケイタさん……。そう……ですね。諦めたらそこで終わりですものね。お父様、お母様、あとは操縦者の方を信じて全力で応援いたしましょう」


 シルヴィアが俺の言葉に同調してくれた。そうだ、諦めなければ可能性はあるはずなんだ。どっかのバスケ部の監督もそう言ってた。


「シルヴィア……そうね。――あら? そういえば操縦者をお願いしていた方はまだ到着してないの?」

「む? そうだな、腕利きを雇ったのだが……まだ来ていないようだ。登録の時間に間に合えばよいが」


 カトリーヌさんがまだ操縦者の人が来ていないことを不安に思い、辺りを見回すも、それらしき人物は見当たらなかったようだ。

 俺はまさかと思いザコブのほうを見ると、案の定したり顔でこの状況を見て楽しんでいるようだ。


「ヒャヒャッ! そういえば、こちらに向かう馬車が野盗に襲われたって話をさっき小耳に挟んだなぁ! 幸い乗客の命に別状はなかったみたいだけど、意識不明でしばらく動けそうもないらしいよ!」

「なっ……!? まさか、その馬車に私の雇った者が!? ――くっ、下衆めが!」

「ヒャヒャッ! まったく、野盗ってのは最低の下衆野郎だねぇ! ポクもそう思うよ。……さて、不戦勝だとしても、勝ちは勝ちだ。約束通り、おたくの領地はポクのものになるねぇ」

「ま、待ってくれ。これは王家公認の決闘。事前に申請した操縦者の変更には相手側の許可が必要なのだ……。お願いだ、変更の許可を出して頂きたい!」


 そうなのか……ここでザコブが断ろうものならその時点で詰みもあり得るってことだな。

 ようし、ならばここは俺の巧みな話術で……!


「やいザコブ! まさか変更を認めないなんてことないよな!?」

「は? 何を言ってるんだ、それはポクが決めることであって、お前にはなんの決定権もないだろ」

「……ははーん。まさか、怖いのか? そうなんだろ! まともにやったら勝てないからって逃げるつもりなんだな!」

「チッ、言わせておけば! ――まあいいだろう、変更を認めるよ。……もともとそのつもりだったしね」


 よし。認めさせたぞ!

 これで首の皮一枚繋がった!


「ただし……決闘にはお前が出ることが条件だ! それ以外は断固認める気はない!」


 ザコブはビシッと俺を指差してそう宣言した。

 ……え? 俺っすか?


「――いやいやいやいや! ちょ、ちょっと待て! 俺はド素人だぞ!? ふざけるな!」

「なんだ、さっきまで大口を叩いていたのはお前じゃないか。『やってみないとわからない』だったか? それなりの自信があったんだろう? なら問題ないじゃないか」


 いやそれは単純にお前がむかつくからであってだな……。


「とにかく! ポクはそれ以外の変更は認めないよ! ああ、もちろんそいつに魔力が無ければ君らの不戦敗ってことになるからね。それじゃ、失礼するよ」

「ま、待ってくれ。私たちが勝てば、例のものを返してもらえるんだろうな」

「ん? ああ、そうだね。もし万が一君らが勝てば、望むものが返ってくるだろうさ」


 そう言い残して、今度こそザコブは去っていった。

 

 『俺が出場する』という、とんでもない条件を残して。

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