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第14話 得意分野でした

 屋敷へ戻り、エドワルドとカトリーヌさんの私室へと案内された。そこにシルヴィアとクロードさんも集まり、詳しく話を聞く運びとなった。


「ケイタ・サガミ殿、我々に協力をしてくれるらしいが……いいのかな? 先日は尻込みしていたようだったが」


 静寂のなか、エドワルドさんが重い口を開いた。

 エドワルドさんの言う通り、昨日は厄介事に関わるまいと思って話を終えたが、事情が……いや、心境が変わったのだ。

 

「はい。覚悟は決まりました。俺はシルヴィアの助けになりたいんです」


 街に出ていたことはシルヴィア的には内緒の話だろうし、黙っていよう。しかし、詳細は省いたけどこの言葉は本心だ。

 俺に出来ることがあれば手伝いたいと思っている。


「そうか……感謝する。今は時間がないのだ、我々の置かれた状況を手短に説明させてもらうよ」


 そう言ってエドワルドさんは淡々と説明を始めた。


「……事の始まりはおよそ一月前、我がヴァイシルト家の家宝が何者かに盗まれてしまったことが発端だ。調査の結果、カマセーヌ男爵家の差し金だということが掴めた。……しかし確たる証拠はないので訴えようもない。そこで私はカマセーヌ家へ取引を持ちかけたちのだ。犠牲を払ってでも、家宝を取り戻したかった」


 なるほど、そんな因縁があったのか。……ってか悪いのは全部あいつらじゃん。

 クロードさんに頼んでボコボコにしてやればいいのに。まあ、そんな単純な話じゃないのか。


「そして取引の条件として、魔動人形(マギアドール)での決闘を持ちかけられたのだ。我々が勝てば望むものは返すと言われてな。……だが私は愚かだった。対価として、領地を全て明け渡すと約束してしまったのだ……! カマセーヌ家当主は最近代替わりしたばかりの若輩者。対等な戦いならば勝つ自信はあった。しかしこれほど姑息な手を使うとは思わなかったのだ……!」


 そう言うと、エドワルドさんは両手で顔を覆い、俯いてしまった。窮地に陥ったことに自責の念があるのだろう。

 口を閉ざしてしまったエドワルドさんの代わりに、カトリーヌさんが話を続ける。


「明日、我々ヴァイシルト家とカマセーヌ家の決闘が執り行われるの。王家の人間が監督する正式なものよ。それに負ければ……ヴァイシルト家はもうおしまいね。地位も、名誉も、全て地に落ちることになるわ」


 明日か……その決闘に負ければ全てを失う。つまりその一戦に命運がかけられているんだな。

 ……でも、魔動人形同士の戦いなら、まったく勝ち目がないわけじゃなくないか?


「すいません、その決闘の形式ってのをよく知らないんですけど……クロードさんでも勝てそうにない相手なんですか?」


 俺の頭の中では一対一の果たし合いみたいなのを想像しているんだけど……。あれだけ強いクロードさんが魔動人形に乗れば、そんなの余裕で勝てそうなものなのに。

 相手はそれほどまでに強いのか……?


「……私のことを評価していただけるのは大変恐縮ですが、申し訳ありません。武術の心得はあるのですが、魔力のほうはからきしでして」


 クロードさんが申し訳なさそうに俺に呟いた。

 魔動人形は魔力で動く兵器だったな。もしかしたらパイロットに魔力を要求するのかもしれない。

 いくら強くても、魔力が無ければ乗ることができないってことだろうか。……だとしても、シルヴィアを人質にとれなかった今、条件は対等のように思える。


 そんな俺の思考を見透かしたように、エドワルドさんが再び重い口を開いた。


「……決闘にはいくつかの条件が課されたのだ。そのひとつに、既に登録済みの魔動人形の使用禁止。つまりは、新たにアーティファクトを入手しなければならかった。だが奴はどんな手を使ったのか流通を制限したのだ」

「つまり……アーティファクトが手に入らない状況にして、不戦勝を狙ったってことですか?」

「うむ。しかし、一般等級(コモングレード)だが、なんとかアーティファクトを入手することができた。それに、腕利きの操縦者も確保することもな」


 ……それはよかった。とりあえず最低限戦える条件は揃ったってわけだな。

 しかし、エドワルドさんたちの表情は暗いままだ。いったいどうしたのだろうか。


「えと……それなら戦えるのでは? 確かに不利かもしれないですけど、まだ希望はあるんじゃないでしょうか」

「ああ、君は記憶喪失だったな。実はな、アーティファクトを入手しただけでは魔動人形は使えないのだよ。使えるようにするには、専門の職人『人形技師(ドールマイスター)』の力が必要になる」

「ドール、マイスター……?」

「ああ、アーティファクトだけ持っていても、人形技師がいなければガラクタ同然なのだ。つまり、私たちはまだスタートラインにすら立てていない」

「では、その人形技師を今すぐ探さないと……!」

「……いや、かなり前から探してはいるんだが、誰ひとりとして見つけられていない。もともとこの街にも何人かいたのだが、全員が他領へ出払っている状態でな……それに、約束は明日だ。残り半日程度では、もう……」


 ……聞けば聞くほど絶望的な状況だ。そして、ザコブの野郎が、その状況をうまいこと作り出したのだろう。狡猾な男だ。

 しかし、協力するとは言ったものの、俺になにができるんだ? 人形技師を探しに行く? ……いや、もうそんな段階ではないだろう。

 あとは俺にできそうなことと言えば――


「っ、そうだ。俺に魔動人形を見せてくれませんか?多分、役に立つと思います」


 俺には『モデラー』のスキルがある。そのスキルで呼び寄せた道具ならば、なんらかの役に立つのではと考えた。


「……申し出はありがたいが、素人に作れるものでは……」

「お父様、私はケイタさんなら成し遂げられるのではと思います。ケイタさんは不思議な道具をお持ちでした。記憶を失う前は、きっと高名な人形技師だったのかもしれません」

「本当か!? ……いや、もはや真実かどうかは問題ではないか。シルヴィアの直感を信じるとしよう。クロード、さっそくサガミ殿を作業部屋へ案内してくれ」

「はっ」



 そんなこんなで、トントン拍子に話は進み、俺はクロードさんに連れられ、作業部屋とやらに案内されることになった。

 大して時間もかからずに作業室へと到着したのだが、想像していたより代わり映えのしない普通の部屋だった。

 勝手なイメージだが、鍛冶施設的な感じで、炉とか金床とかが置いてあるのかと想像していた。


 実際は大きめのテーブルに椅子、それに壁に工具っぽいものがかけられているだけだ。それ以外には何もないこざっぱりとした普通の部屋になっている。


「ケイタさん、これがアーティファクトです」


 いっしょに部屋へとやってきたシルヴィアが、ひとつの箱をテーブルへと置いた。

 大盛りのカップ焼きそばぐらいの長方形の箱で、のっぺりとした灰色をしている。よく見ると幾何学模様みたいなものがうっすら描かれていた。質感的に金属製っぽい。


「これが一般等級の魔動人形が入ったアーティファクトです。等級によって箱の色や装飾が異なるんですよ」

「へぇ……開けてみていい?」


 シルヴィアは静かに頷くと、椅子を引き、俺に着席を促した。

 テーブルへとついた俺は、さっそくアーティファクトに触れてみる。


 箱の側面にあった留め具を外し、上蓋を取り外す。

 その中に入っていたものを見て、俺は思わず叫んでしまった。


「いや、これ――――プラモデルじゃんか!」


 そこには俺が散々見て、触れて、慣れ親しんだもの。異世界にあるまじき玩具、『プラモデル』が入っていたのだった。


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