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第12話 ザコブ・カマセーヌ

「ふーっ、見ごたえあったなあ」

「ふふ、喜んでもらえてなによりです」

「うん、大満足だよ。それじゃ、遅くなる前に帰ろうか」


 試合の観戦が終わり、一息ついた俺たちは、会場を(あと)にしようと立ち上がった。

 そして、やや足早にアリーナを出たところで、俺たちの進路を遮るように、数人の男たちが立ちはだかる。


「あれぇ、おんやぁ? シルヴィアじゃないか! こんなところで奇遇だねぇ」

「――っ! か、カマセーヌ様。お……お久しぶりです」


 なんか『嫌味な成金野郎』みたいな見た目をしたポッチャリ系男子が、二人の屈強な男を引き連れて、俺たちの前に立ちはだかった。

 その瞬間、さっきまで楽しそうに笑っていたシルヴィアが表情を曇らせる。


「いやだなぁ、ポクと君の仲じゃないか。家名じゃなく、ザコブ様って、名前で呼んでくれたまえよ」


 え? 雑魚ブサ? 何言ってんのこの人。あと一人称が独特。ていうか、なんかやたら近付いてきて馴れ馴れしいけど、シルヴィアとはどんな関係なんだ?


「ざ、ザコブ様……」

「そうそう、君はポクの()()()なんだからさぁ、もっと仲良くしようよ」


 にちゃあ、という表現がぴったりな感じで、シルヴィアの肩に手を置きながら、ザコブは歪な笑みを見せる。

 一方で俺は、少なからぬショックを受けていた。せっかくシルヴィアと仲良くなったのに、横からかっさわれたような気分になってしまったのだ。……いや、おこがましい考えだとはわかってる。でも、そう思ってしまうぐらいには彼女に惹かれていた。


 婚約者……か。貴族だし、政治絡みでそういった相手がいても不思議ではないけど、それにしたってこんな性格悪そうなやつを相手に選ぶか普通。シルヴィアの親御さんがそんな選択をするはずがないだろうに。


「ま、まだ婚約は成立してないはずです。あまり気安く触れないでいただけますか」


 そう言いながら、シルヴィアはザコブの手から逃れるように距離をとった。


「なに言ってるんだい。もう決まったようなものだろう? "決闘”の約束は明日だからねぇ」

「くっ……! 卑劣な手ばかりを使っておいて、よくもそんなことが言えたものですね!」

「おやおや、そんなこと言っちゃって~。なにか証拠でもあるのかい? それとも、ヴァイシルト家ってのは、証拠もなしに他人を貶めるのが得意なのかな~?」

「――っ! い、いえ……なんでもありません。これで失礼します。……ケイタさん、行きましょう」


 シルヴィアは、煮えたぎるような怒りをぐっとこらえたような表情を一瞬だけ見せ、いまいち事情が飲み込めずに呆けていた俺の手を取り、この場を去ろうとする。

 だが、去り際にあの男は聞き捨てならないことを宣ったのだ。


「はっ、大人しくあのまま()()()()()()()()、民衆の前で恥をかかずにすんだのにねぇ! まあ、不戦敗よりかは戦って負ける方がましなのかな!? ヒョヒョヒョッ!」


 ――――待て、今なんて言った?

 大人しく誘拐されていれば?

 

 あの男は誘拐の件を知っていた。街の人の反応を見るに、誘拐の件は公表されていないと推測できる。

 つまり、それを知っているのはヴァイシルト家の人間のみ。部外者であるザコブがその件を知っているということは、誘拐を仕向けたのはほぼ間違いなく、こいつの仕業だ。


 去り際に放たれたザッコブの言葉を受けたシルヴィアの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

 ……ああ、いかん。

 湧き出る怒りを抑えきれなくなってきている。

 ここで俺がでしゃばってもろくなことにはならないだろう。


 でも、それでも。シルヴィアの笑顔がこんな奴に奪われていいはずがない。ここでただ見ているだけなんて――男じゃない。

 

「シルヴィア、ごめん」

「ケイタ……さん?」


 俺はシルヴィアと繋いだ手を離し、ザコブへと振り返った。

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