第11話 魔動人形(マギアドール)
俺とシルヴィアは、試合が終わったことによってまばらに散りだしたベンチ型の客席に隣り合って座っていた。
周りに人が少なくなってきたので、遠慮なく話し込めるだろう。
「ええと、ケイタさんは魔動人形のことなにも知らない……ってことでいいんですよね?」
「うん。その、記憶が曖昧で……申し訳ない」
「いえいえ、私も教えがいがあるってものです」
一応、記憶喪失設定だから、知ってたはずだけど忘れてしまったかのように振る舞う。
「では基本的な部分から説明しますね。まず、魔動人形というのは、あの巨大な鉄の兵器のことをそう呼びます。魔力を動力源とし、動く人形なのでそう名付けられました」
「魔力で動くってのはわかるけど、人形って言うには大きすぎない?」
「じつは、さっきケイタさんが見たのは、魔動人形が巨大化した姿なんです。本当はこれぐらいなんですよ」
そう言ってシルヴィアは、両手を使ってのジェスチャーで、大きさを表す。シルヴィアの手と手の間はだいたい十センチ強だ。確かに、それなら人形と言っても差し支えないだろう。
「へぇー、それはすごいな。大きくなるのはなんかの魔法なの?」
「……それが、魔動人形については謎が多いんです。魔法的な要素が絡んでいるのは間違いないのですが、未だ解析に成功した例はありません」
「え? でも、それじゃあどうやって作ってるの?」
「残念ながら、製造はできないんです。唯一の入手方法は、ダンジョンから稀に出土する『古代遺物』しかありません」
「えっ、そうなんだ!?」
驚きつつも、納得できる話だった。俺がいた現代日本でも、巨大ロボットなんてオーバーテクノロジーじみてるのに、それが現実に存在するこの世界の文明は、それほど進んじゃいない。
この街に来たときに感じた違和感は、間違いじゃなかったのだ。
「でも、ここアークライト王国では、ダンジョン資源が豊富で、魔動人形の埋蔵量は世界一だと言われているんですよ」
「ダンジョンかぁ……それって、俺でも取りに行けるかな?」
なぜこんなことを聞いたかと言うと、もちろん俺も魔動人形に乗りたいからだ。いつまでも世話になるわけにもいかないから、近いうちにシルヴィアの家から出ていかねばならないだろう。そうなったときに、アーティファクトの入手を目標にするのは悪くない選択肢だと思う。
「そうですね、最低でも戦闘用のスキルを三つぐらい持っていれば、初心者向けのダンジョンならなんとか……といったところでしょうか。……と言っても、初心者向けダンジョンは潜る人が多く、アーティファクトは取り尽くされたとも言われていますので、あまり期待はできませんが」
「う……そ、そっか」
俺は心のなかで落胆する。なぜならば、俺の所持するスキルはたったひとつだけ。それも、戦闘とは無関係なスキルだからだ。
……よし、ダンジョンに挑戦するのは諦めよう。なら、買うのはどうだろうか。このアリーナみたいに、人々の娯楽になるぐらいだから、けっこう出回ってるんじゃないか?
そう思い、俺はさっそくシルヴィアに質問する。
「あ、じゃあ買うとどれぐらいするか教えてもらっていいかな?」
「はい。えと、一番安いもので、だいたい家が一軒建てられるぐらいですかね。というのも、魔動人形には等級があり――」
魔動人形には六つの等級があることを、シルヴィアは教えてくれた。
下から順に、
『一般等級』
『銅等級』
『銀等級』
『金等級』
『白金等級』
『伝説等級』
この六段階の等級で分かれているようだ。ちなみに、等級がひとつ上がるたびに値段も跳ね上がるそうな。
うう……ただの学生に家なんて買えないよ……。
「アリーナの出場者は別ですが、基本的には組織単位で所有しているものがほとんどですね。昨日ケイタさんも見たかと思いますが、大工ギルドなど、重作業が必要な組織に数機。あとは街単位で、魔物の襲撃に備えて十数機ってところでしょうか。もちろん、規制がかけられていて、許可を得ている人間にしか取引はできないですよ」
値段のことで落ち込んでいた俺に、シルヴィアの追撃が決まる。
結局、金があったとしても俺は買えないやつやん
「――あっ、ケイタさん。次の試合が始まるみたいですよ」
「……あ、うん」
いつの間にか、けっこうな時間が経っていたようだ。こうなったら、全力で観戦を楽しむしかない。
俺は、今度こそ最後まで見届けてやると気合いを入れ、ステージに集中した。