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第10話 マギア・アリーナ

「着きましたよ、ケイタさん」

「おお……ここが」


 シルヴィアに案内されるがまま辿り着いたのは、この街の外壁と同じ……いや、それ以上の高さの建物だ。それも、高さだけでなく、建物自体もかなり大きい。全容は確認できないが、だいたい東京ドーム二、三個分はありそうだ。


「ずいぶん大きいね。もしかして博物館的なところ?」


 これだけ大きな建物だ。この中に巨大ロボットが展示されていてもおかしくない。そう思ってシルヴィアに聞いてみた。


「いいえ、ここは――」


 シルヴィアが俺の問いに答えようとしたその瞬間、大きな音によってその声はかき消された。


「っ!?」


 これは……歓声か?

 突然聞こえた大きな音は、多くの人が興奮して叫んでいるかのような声だった。そのあとも二度、三度と、同じように声が上がったので、歓声で間違いないだろう。

 こんな大きな建物で歓声……さっき野球ドームに例えたけど、なにか競技でも行われているのだろうか。


「……まあ、見てもらえばすぐにわかりますよ。入りましょうか」


 建物の中へと入り、かつかつと石造りの通路を二人で歩く。

 進むにつれ歓声はより大きく聞こえ、人々の熱気がより伝わってくる。ときおり爆発音っぽい音も聞こえ、さらには建物全体が僅かに揺れているような感覚。

 ここまで来ればなんとなく想像がついてきた。ここは博物館なんかじゃない。俺の想像通りなら――


「――う、わぁ……」


 通路を抜けて開けた場所に出た瞬間、『わーっ』という歓声が響く。そこは、俺の思っていた通りの場所だった。

 中央の広い空間を取り囲むように観客席か設けらた場所、いわゆる闘技場というやつだろう。

 そこで、今まさに死闘が繰り広げられていた。だが、戦っているのは人ではない。巨大ロボット……魔動人形(マギアドール)だ。


 直で見るその迫力に、俺は口を開いたまま呆然としながらも、目だけは離せないでいた。

 鉄と鉄がぶつかり合う音が響き、ビームのようなものが放たれて、大地を穿つ。その光景は、音は、感覚は、テレビの画面じゃ到底味わえない。本物のロボット同士の戦いが、目の前にあった。


「ここは、魔動人形の決闘を観戦できる施設……"マギア・アリーナ”です。ここでなら、好きなだけ魔動人形を見ることができますよ」

「すっ……げぇ」


 直径三百から四百メートルはある空間を、二機の魔動人形が所狭しと動き回っている。今俺がいる二階の客席はけっこう高い位置にあるので、その様子を俯瞰して見ることができた。

 片や赤く派手な装甲が目立つ、見た目からしてゴツいパワータイプの機体と、片や草原のような鮮やかな緑の機体、こっち動きが軽やかなので、スピード特化なのだろう。


 今、この二機が接近戦を繰り広げていた。

 赤い機体が、鎖の先端にトゲ付きの鉄球がくっついたものをブン回し、緑の機体へと突進していく。


「――っわぁ!」


 赤い機体が振り回した鉄球が、俺がいる客席にの方に飛んできたので、反射的に両腕で顔を隠した。

 

「……あれ?」

「ふふっ、大丈夫ですよケイタさん。客席は障壁で守られてますから。こちらに危険が及ぶことはありません」

「そ、そうなんだ……そうだよなぁ」


 ちょっと考えればわかったことだ。今だって満席とまではいかないが、けっこうな観客たちがいるのだ。そりゃあバリアのひとつやふたつないと安心して観られないよな。

 ……などと納得しているあいだに、決着がついたようだ。どうやら俺が目をつぶっている直後に、緑の機体がカウンターを決めたようで、赤い機体の首がすっ飛んでいた。


『決まりましたぁぁぁっ! アリーナランク五十二位、カインズ選手の勝利です! 皆様、この激戦の勝者に盛大な拍手をお送りください!』


 どこからか、会場全体に響くような声が聞こえた。どうやら実況もあるらしい。それに、実況者が言葉から察するに、ランキング制度もあるっぽいな。

 ……しかし、決着の瞬間を見られなかったのは残念だな。俺は拍手をしながら、次こそはちゃんと見届けてやると決意を固めた。


「なあシルヴィア、次の決闘までどれぐらい時間があるんだ?」

「ええと、だいたい一時間後ぐらいでしょうか」

「そっか、家を抜け出して来ちゃったし、あんまり長居はできないよね」

「そうですね……昼食までには戻らないと、さすがにお父様たちにバレちゃいますね」


 まあバレてはいるんだけどね。

 本音では最後まで観ていきたいけど、でも、俺のわがままでシルヴィアや、ご両親に余計な迷惑をかけたくない。時間的には次の一試合を観戦するのが精一杯だろう。

 そう思って、俺は未練たらしさが出ないよう極力平静を装って、シルヴィアに言った。


「じゃあ、次の試合だけ観ていっていいかな? そんで、次が始まるまで、魔動人形について詳しく教えてくれると助かるな」

「はい、もちろんです! 私に任せてください」


 こうして、シルヴィア先生による授業が始まるのだった。

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