第二話 宿命という名の運命 上(Ⅰ)
目標無しにだらだらと書いていたらキーボードは進みません、ごめんなさい。あと季節の変わり目と言う事もあってかめちゃくちゃ体調を崩しているのもあります。昨日もWBCは仕事だから見れないと嘆いてたら眩暈と頭痛に襲われ、仕事を休めたはいいモノの朝の放送も夜の再放送もダウンして、ゆーちゅーぶで結果のハイライトを見るだけと相成りました、日本おめでとー。本当におめでとー、できれば優勝のその瞬間を見たかった…。
詐欺という名の激戦を越え、待ち受けていたのは二人で何とか一泊分の報奨金、ツインベッドルームは勿論の事、ダブルベッドですらなく一人が何とか眠れる隙間にうずくまる様に体を丸めて寝息を立てる青髪の少女が一人と、椅子に腰かけ欠伸をする赤髪の青年が一人朝日を眺める、年頃の男女二人が夜を迎えるきっと何かが起こる訳も無く。
「眠れねぇー、眠らないといけないのに、今日この街出るのに徹夜はヤバい…」
目がギンギンに冴えている、今のピースの眼つきはきっと猛獣の如く鋭さでどんな獲物も決して逃しはしないであろう、多分。
「しかしどうして、昨日会ったばかりの男が居るのにこうも眠れるのかね、ツフギは」
すやすやと寝息を立てながら毛布を手繰り寄せる青髪の少女が起きない様な声で、窓の外を眺めて呟く。窓の先に見える遥か遠方、どんどんと紅の雲が上に広がりどこからが朝で、どこからが夜かこれじゃあ判別がつかなくなってきた、詰まる所もう既に寝る時間は無くなっているという事だ、残念。
ピースはそっと立ち上がり、ツフギが肌身離さず恋しそうに持っている毛布をはぎ取り自身の膝に掛ける。ツフギはあれよあれよ温もりが恋しくなり虚空に向い無き毛布を探り始める。自分だけ寝やがっていい気味だ、という意味を込めての行為かそれとも毛布だけで許してやるというピースの譲歩か、まぁどの道やっている事はガキの悪戯に過ぎない。
季節はきっと春、決して寒すぎる訳ではない。魔法の世界らしく場所によって、村や街によってそれぞれの季節があり、気候があるというのはこの世界に住んでいるヒトにとって共通認識だろう、この街も明日には雪がしんしんと降り積もるかもしれない、外にも出られない程の豪雨になるかもしれない、だからこそ今日は天気がいいと立ち見したから、今日この街を出る、しかし今日また天気を見れば明日も晴れかもしれない。
決していい宿でもないが最安値の宿、少ない報奨金しか貰えないし、騙してくる奴がいるこの街を今日出ていくと決めた、ならば今日会う事が無い人間であればそれは運命の相手などではないのだろう、そもそも彼女がこの世界に居るという確証もないのだが…。
「せいぜいチェックアウト時間ギリギリまでは、粘らせてもらうぞ、このオンボロ宿屋め」
絶対に一部屋に二人泊まる設計にはなってないであろうこの一室で、恨み事を放つ器の小さい男が一人ここに居る、でも少しくらいは目を閉じて休むと、それだけを考えて。
朝日は上り終え、徐々に昼の陽気を感じさせる時間帯になった時、ドアを叩くけたたましい音で閉じていた目を開く、借金取りかと一瞬不安になるがそもそもお金など借りるという選択肢を持っていなかった事を思い出し、ピースは再び目を閉じる。
「おーい、兄ちゃん達―、この部屋にいるんだろ?仕事持ってきたから起きろー」
仕事?…、仕事!その単語を聞き急いで目を開く、何眠っているんだ、これじゃあ徹夜確定じゃないかと嘆いていた、明け方の自分を叩きたくなる、眠っているじゃないかと。だがそんな事はどうでも良い、次のどこかへ行く前に駄賃程度は稼がなくてはならないというのは考えていた事ではあったのだ、ならばならばと確か荷物を纏めて置いといた仕切りで隠された洗面所前へ行き、いざ外へ。
「へ?……へぁ?」
一糸まとわぬ姿、寝ぐせ青髪ロングちっぱい少女がそこには居た、そういえば…あぁ…。
「ぐ、ぐんもーにん…、みす…つふぎ、はう…わー…ゆー?……」
「あ、アイムアングリー!!」
小さく華奢、二重の意味で小さく、そして一糸まとわぬ姿から放たれる正拳突きがピースの腹部に突き突き刺さる、一体その体のどこにそれだけの力が眠っているのか…。遠のく意識の中で抱いた疑問…、パーフェクトKO(相手の精神ダメージを除く)Youlose。
「ひ、酷い目にあったらしいな、お兄ちゃん…大丈夫か?」
みぞおちに深く鋭い一撃を受けて、とぼとぼと昨日報奨金を増やしてくれたおっちゃんについていきながらも後ろで不服そうに、いや不服というよりは怒りか、女性として見られてはいけない秘密の園を覗いてしまったのだから、怒りが正しいと思う。
機嫌を取ろうにも目を合わせようとしても、目が合っただけでこちらだけではなく周りも委縮させてしまいそうなその瞳から放たれる圧を前にして、こちらが取れる最適解は近づかずそれでも悪かったという気だけは出すために偶に様子を伺う事だろう。
ふと足音が途絶え、赤髪の青年ピースは振り返る。振り返った先には綺麗な青髪を風で靡かせ、ふとガラス越しに飾られていたショーウィンドウの洋服達を眺める年相応の寝ぐせを直した青髪ロング胸が着太り少女がそこには居た。
「コホン…、その洋服は今幾ら背伸びしようとも買えないと思うぞ」
諭す様にピースはツフギの肩を乗せ、同じショーウィンドウを眺める、高そうな服の数々に下に置かれている値段を見て驚愕し、とても買えませんと心に留めその場を後にしようとするが、ツフギはその場に留まる。どうしても欲しい物があるのかもしれない。
「欲しい物でもありました?まぁなんだ、何時かお金貯まったら買ってあげるよ、まぁ約束はできませんが」
そもそもここに残るであろう彼女と、これからずっと何処かへ放浪する自分とでは再びまみえる広大な世界でそんな可能性があるのか、まぁ会えたら奇跡ってやつだ。
「いいです、買って貰いたいとは思いません。ただ少し憧れていただけです」
「それは欲しいって感情じゃないの?買う買わないは別にして」
「欲しいのは欲しかったです、けれど私が欲しかったのはこれじゃあありません」
ツフギは、ただそう言い残しその場後にする。あれほど手を付いてまで眺めていたショーウィンドウの中身は絢爛豪華な衣服の数々、欲しいけどこれじゃない、どういう意味?
「って、ツフギ先に行かないでくれー、一人残されたら道に迷う―よー」
ピースは慌ててツフギの後ろを追いかける、折角貰った仕事場に辿り着けずに、無断欠勤と言われて、報奨金が貰えないのが一番困る。無一文で次の街へと行くのは結構な無理難題だろう。まぁそれでも行って、死んだら死んだなのが運命なのだが。
「仲いいな、お二人さん。聞いていなかったがコンビの冒険者なのかい?」
コンビ?二人一組のあれという事、もしくは漫才師などの事を指しているのだろうか?
「俺達は漫才師じゃないよ?昨日野兎討伐で知り合った子、んで名前はツフギ、俺はピース、駆け出し冒険者で両方騙されたから一緒でやってただけ」
「ツフギ・ニティスィーと申します、この度は仕事の斡旋ありがとうございます……」
礼儀正しくペコリとお辞儀をしたツフギ。その後に言葉を続けようとしたのか、口が開いたままになっているのが、少し可愛らしい年相応の青髪少女。
「これはご丁寧にどうも、冒険者にしてはちゃんとしてる嬢ちゃんだなぁ。最近の冒険者はいかにも我こそ冒険者みたいな態度を取る奴が多いし君みたいな子は珍しいよ」
「言われてますよ、ピースさん」
「俺はそんな横暴な態度取った事ないよ…、勝手に決めつけないでくれ、そもそもこの街に来て話した人なんて、冒険者協会に居るメンバー募集してた冒険者と俺を騙したおっさんと後は宿屋の亭主ぐらいだよ」
「あらそうですか?今日の朝、確認もせずに態々仕切りを動かしていたのに覗きに来たその姿は、おじさんの言った横暴で自分勝手な冒険者そのものだったモノで」
「その際は、誠に申し訳ございません…」
それを言われちゃあお終いとはこの事で、平謝りを一つ。男として情けない事この上ないが、それでも道端でゴミをポイ捨てする様な人を見るような目で見られるよりは幾分かはマシだと信じたい。
「それにしても本当にいいのか?明日にはここを出るって言うから、この仕事持ってきてやったが、この街に戻る当てはねーぞ?」
ん?それは少し困るのではないか?ピースがではなく、どちらかと言えばツフギがではあるのだが、それとも見送りに来てくれたのか?良い奴ではないか、このこのー。
「なんですか、その頭に乗せた手は、また一発貰いたいんですか?」
「いーや、思ってた以上にツフギは良い奴だと感心しているだけ」
ツフギの頭に手を乗せワシャワシャと綺麗に整えた髪を乱す、嫌に思われるかもしれないが、もうこれ以上こちらの評価も下がる事はない。つまる所評価の上り幅は青天井。
「おーい、置いていくぞー?」
「あ、はい。すみませーん、ただいまー」
ツフギはおっちゃんの後を追い、ショーウィンドウの中の事を恋し気に見ていた事など無かったかのように、それこそこちらの事など考えず何処までも走っていく。
「あ、待って。置いていかれた本当に迷子になるからー」
田舎から出たばかりの常識知らずを残していくとは薄情な人間だ、さっき言った事は前言撤回をするべきか、それともこれまでの恩義で帳消しにするべきかそれだけを考えながら、小走りで青髪を揺らし一足先へ進むツフギを、ピースは見失わぬように追いかけた。
整えた髭を生やしたおっちゃんを追う、青髪を揺らす少女を追う、赤髪の青年が辿り着いた先は街の出口、そこに用意されているのは馬車であり、そこには数々の積み荷とまた別の初老を迎えてそうなダンディーなおじさんが一人。
いかにも温厚そうな外見と、そして誰にでも好かれそうな微笑みを向けるそのおじさんに失礼かもしれないが、たった一つの疑惑が浮かんだ。脳裏にその思考が過った瞬間に前に居る青髪の少女の服を引っ張り自分の後ろまで持っていく。
「いきなり何するんですか!」
ツフギの問には答えない、昨日も詐欺にあったのだ、今も騙されている可能性はある。そんな可能性は考えたくないし、昨日の恩人を疑いたくないし、あの優しさが嘘ではないと思う、けれどそれでももしかしたらという可能性がある以上少なくてもツフギを巻き込む訳にはいかない、自分だけならまだしも将来有望な彼女を巻き込む事だけは絶対に…。
「奴隷商人にでも見えたか?安心してくれ、昔はそういう運搬もしていた事はあるが…、今はもうしていない、どの道…っと」
温厚そうなおじさんはそう答えながら、ズボンの裾を両手で上げてこちらに見せてくる。そこにはあるべき筈の両足は無く、鉄の様な何かで作られた義足らしき物が朝日を浴びてキラリと輝きを見せる、自分の過去を嘲笑うかのようにおじさんは続ける。
「この足の所為で一人じゃ長い距離も歩けなくてね、運搬業で馬車を使っているんだが、荷物の積み下ろしもこうやって冒険者に依頼を出してやって貰っているんだよ」
随分軽い事の様に語るおじさんだが、その実態はどのようなモノなのだろうか?裏切り、復讐、口封じそんな事だろうがでも、これで一つ不安材料は消えた。ツフギの前に掲げた手を降ろし、義足のおじさんに近づき手を差し伸べる。
「申し訳ない、いきなりの非礼をお詫びします。そして駆け出し冒険者である僕に仕事を頼んで頂きありがとうございます」
「あぁ、これはご丁寧にどうも」
こちらが差し出した手を、義足のおじさんは両手で握り返す。握り返しているとは言えない程の力でこちらの手を握り返す、これならば積み下ろしの手伝いも無ければ仕事ができないというのも納得だ、でも何故こうまでなってまで運搬業を続けるのだろう?
「なんの話をしているんですか?この積み荷運んじゃっていいんですよね?」
「あぁ、よろしく頼むよ…っとその荷物はかなり重いぞ?嬢ちゃん一人で大丈夫か?」
あれよあれよと話が進んでいるが、疑問点が一つ。なぜツフギがこの場に残っていて、さも当然かのように手伝っているのだろうか?彼女も積み荷作業だけ行う事でお零れを貰うつもりでいるのだろうか?それならば別に疑問は抱かないが、自身の手荷物を何故馬車内置いているのだろうか?まるで自分も冒険をすると言わんばかりに…。
「うわっ、本当に重いですね、ちょっとピースさんも手伝ってくださーい、じゃないといつまで経っても出発できませんよ?」
「あぁ…、あぁわかった、手伝う?」
言われるがまま、成すがままに、荷を積み。昨日報奨金を弾んでくれたおっちゃんに別れを告げて馬車は走り始めた、決して人を乗せる事は想定されていないであろう荷台に、二人背をくっつけ合って揺れる荷台に座りながら、次の街へと馬車は進む。
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