ランドセルを背負ったら
「おっ、ランドセルじゃん! なっつかしー!」
平日休みの今日。一人暮らしの部屋を大掃除していたら、クローゼットの奥からランドセルの入った箱が出てきた。
半年ほど前に実家の母から処分していいかとの連絡が来て、捨てるのは嫌だと言ったところ『なら自分でどうにかしなさい』と送りつけてこられたのだ。
「これってまだ背負えんのかな?」
小学校を卒業してからもう二十年近く経つ。
送られてきた当時はそのまま仕舞いこんだものの、大掃除をしたくない気持ちからか、職場でうまくいっていない逃避願望からか、ムクムクと背負いたい気持ちがわき上がってくる。
「今だったら持ち物は~スマホと、財布と、……よし、こんなもんか!」
六割ほど物を突っ込み満足して蓋を閉じると、くるりとランドセルに背を向けた。
「いけるかな~?」
肩紐を調整することもせず、当時の状態のまま腕を通す。
苦しい体勢でどうにかこうにか両の腕を通しきれば、ランドセルがピッチリと背中に収まった。
「やった、背負えた! どれどれ……」
全身鏡に映っているのは、大きな身体にちょこんとランドセルが引っ付いたギャグみたいな滑稽な姿。
改めて過去には戻れない現実を目の当たりにしたようで、締め付けられるような寂寥感を覚える。
「戻れない、か……」
楽しい記憶がよみがえるどころか、現実を直視して悲しい気持ちになっただけだったな。
小さく苦笑してランドセルを下ろ……せない。
やばい、下ろせない。
肩幅より狭いランドセルの肩紐から腕を抜き取れない。
テーブルのヘリに引っ掛けてみても、寝そべってみても、ジャンプしてみても。
もはやランドセルは身体の一部と化している。
「誰かに手伝ってもらうしか……」
ランドセルを掴んでいてもらい、渾身の力で前進すれば抜けそうな気がする。
応援を呼ぼうとスマホを探し、先ほどランドセルの中に入れたことを思い出した。
「んのぉぉぉっ!!」
ガッデム!
仕方ない。かくなるうえは徒歩五分の友人宅に押し掛けよう!
鍵もかけずに玄関を飛び出す。
キーケースもランドセルの中だちくしょう。
アパートから通りに出れば、そこにはランドセルを背負った子どもの大軍がいた。
集団下校中の一年生の大軍が。
珍獣でも見るようなくりっくりのおめめが二十。
どこにかけようというのか、青い顔でスマホを取り出す保護者も見える。
オワッタ——。
「戻れない、か……」
届かない三十分前の自分を思って空を見上げれば、なぜか涙が頬を伝った。
ラジオ大賞用に考えてみました( ゜∀゜)
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