第6話 魔王の娘(2)
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ガレディアは目の前にいるローズマリーを本能的に恐れた。
今の彼女はいつもの優しい彼女じゃなくて勇者としての彼女だ。
そして、今から彼女は私に容赦なく襲いかかる。
これ程までに彼女が怖いと感じた事はない。身体の震えも冷や汗も止まらない。
だけど、やらなきゃ……やられる!
「血染めの女王!!」
ガレディアは背後から剣を持った真っ赤な女性を呼び出すと自分の代わりにローズマリーを倒すよう命令するかのように手を前に出して、彼女に目掛けて飛ばした。
ローズマリーは自分に襲い掛かる赤い女性が振り下ろした剣を避け、アンペガサスを持ってない方の手で炎を纏わせ、アンペガサスにぶつける。
その瞬間、アンペガサスは紅蓮の炎に身を包みながら真っ赤に光り輝き、一振りすればどんなものでも燃え上がらせる炎の剣となった。
聖剣アンペガサスの最大の特徴は魔法の効果を上乗せする事が何度でも可能な事である。
この世界において魔法には火、水、雷、風、土の5大属性に光、闇の2属性、そしてどれにも属さない無の計8つが存在する。
そして各個人に適正があり、無属性の魔法は適正が無く、勉強すれば誰でも簡単に扱える。
普通は適正数が0から3つなのに対してローズマリーは全てに適正があり、火の魔法を使えばアンペガサスは炎を纏った剣になり、水の魔法を使えば水の剣身を持った剣になる。
普通の剣でも魔法を上乗せする事は可能だが負担は物凄く、一回で剣が壊れてしまう事がほとんど。しかし、アンペガサスは何度行っても決して壊れないので剣と魔法両方が得意でかつ、魔法適正数が多いローズマリーと相性抜群なのである。
ローズマリーは煉獄の剣となったアンペガサスを構え、ガレディアが呼び出した真っ赤な女性と対峙した。
彼女は今度こそローズマリーを下そうと剣を振り上げた時、
「バーニングカッター!」
灼熱の刃が剣身から放たれて真っ赤な女性に直撃、彼女は白い煙を上げて真っ二つになり、蒸発して消えていった。
「プロミネンス!」
ローズマリーは真っ赤な女性を倒した後、間髪入れずガレディアに向かって炎魔法を放つ。
彼女の放った炎は飛行時間を追うごとに威力を増し、ガレディアの元へ到達する頃には全てを焼き尽くすかのような巨大な火の玉と化していた。
「血の障壁!」
ガレディアはとっさに防御魔法を展開し、ローズマリーの放った魔法を正面から受け止めた。
「凄い威力ね……」
受け止めはしたものの彼女の赤い髪は何本か燃え、身に付けていたローブも一部が焼け落ち、肌が剥き出しになった。
「血に飢えた狼!」
ガレディアはすかさず次の一手として、真っ赤な液体で3匹の狼を作り上げて解き放つと3匹の狼はローズマリーを狙い、大広間を駆け抜けた。
ローズマリーは狼達の攻撃をかわし、アンペガサスを真っ赤に燃える炎の剣から凍てついた氷の剣へと変化させ、飛びかかってきた狼を斬り伏せると狼はたちまち凝固し動かなくなった。
立て続けに2匹目3匹目も倒し、一息ついた途端、
「うぐぁっ」
視界が真横に動き出しながら身体に強い痛みが走り、大広間の床を転げ回った。
「狼はマリーの気を引くための囮。私、今の上手かった?」
攻撃を受けた方へ視線を向けると右腕が赤くゴーレムのように巨大化させたガレディアがゆっくりと近づいて来る。
「あぁ。今のは完全に油断していた。やるじゃないガレディア」
狼に気を取られ、ガレディアの強烈な一撃を食らったローズマリーは不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がり、アンペガサスを構える。
「しかし、そんな大きな腕では動きづらいんじゃない?」
「自分の事より私を心配してくれるなんて相変わらず優しいのねマリーは。でもこの腕の役目はここまで。ここからはこれで勝負!」
ガレディアは右腕の武装を解除すると巨大な腕は最初に交えた真っ赤な剣になり、その剣を握った。
「バーニング!」
ローズマリーはアンペガサスを再び炎の剣にして、ガレディアの剣と真正面からぶつかった。
「ねぇガレディア」
「何?」
「君の今までの魔法。全て血を媒介として繰り出してるでしょ?」
「そうよ。そしてそれこそがーー」
「魔王の血筋たる証。でしょ?」
「……えぇ」
ローズマリーはガレディアの言う事を代弁するかのように彼女の言葉を遮り、ガレディアは言おうとした事を先に言われ複雑な感情を抱いた。
その直後、2人の剣から何かが蒸発しているような音と水蒸気が出始めた。
「まずっ……!」
ガレディアは異変に気付いてすぐさまローズマリーから離れると彼女の剣に触れていた部分から水蒸気が出ており、剣身が抉れていた。
「君が媒介としている血は所詮は液体だ。液体で出来た剣と燃え盛る剣をぶつけたらどうなると思う?」
「……私の剣が蒸発する」
「だから私はアンペガサスを炎の剣にした。君の剣を使い物にならなくするように」
自分の目的を淡々と明かすローズマリーにガレディアは改めて彼女の強さを思い知り、そして覚悟を決めた。
「今日戦ってマリーの強さが身に沁みたよ。だけど、まだ勝負は終わってない!次の攻撃で私はマリーを倒す!!」
ガレディアは地面に手をつきながら叫ぶと紫色の魔法陣が現れ、彼女はある詠唱を詠み始めた。
「生き血を求めし古の竜よ。我が血を飲み干し目覚めたまえ、そして」
「まずい……!」
ローズマリーは詠唱するガレディアを急いで止めようとしたが障壁に阻まれ、攻撃が届かない。
「我に力を授けたまえ」
ガレディアの詠唱が完了したと同時に赤黒い渦が彼女を包み込み、ローズマリーはその衝撃に吹き飛ばされた。
「何……あれ……?」
赤黒い渦が消え、ガレディアの姿を確認したローズマリーは目を見開きながら言葉は失った。
背中から真っ赤な翼を羽ばたかせ、両腕両脚が固い鱗と爪に覆われたガレディアが宙を飛んでいたのだ。
「ごめんマリー。これだけは使いたくなかったけどこうでもしないと私は貴方に勝てない。もしかしたら貴方を殺してしまうかもしれないから前もって言うね。今までありがとう」
ガレディアは悲しみを帯びた微笑みでローズマリーにお礼を言った後、目にも止まらぬ速さで彼女に襲いかかった。
「何だこの力強さ……!」
ローズマリーはアンペガサスに防御魔法を重ね、ガレディアの攻撃を受け止めたが余りの力強さに押されつつあった。
もうダメだと思ったその時、
「横がガラ空きだよ」
ガレディアの横から何者かが攻撃し、第三者の介入により、彼女は空を飛びながら一旦ローズマリーから離れた。
その者は黒い髪と紫の瞳を座り込んでいたローズマリーの方を向けると、
「ごめんマリー遅くなった」
と謝って手を差し伸べた。
「ブルドー……!」
ローズマリーを助けたのは彼女の幼馴染で心の勇者であるブルドーだった。