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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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4 ワーグナー侯爵家にて

リリアンヌ、動きます…!

 王都の中でも高級な区画に良く手入れのされた品の良い庭園、そして我がカールトン伯爵家の倍近い大きさの中世ヨーロッパ風な立派なお屋敷……。


 そんなワーグナー侯爵家に到着し、馬車の扉が開かれる。降りようとするとそっと手が差し出された。


 そこに手を乗せ馬車から出ると、マティアス様だった。

輝く金髪に緑の瞳の結構な美青年……。優しく微笑みながらも、いつもより少し疲れ気味に見える。少しは心配してくれていたのだろうか。



 私はそんなマティアス様を見ながら、あることに確信に近い思いを持っていた。

 ――ここが、前世の『私』がしていた、乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』の世界だと。


 何故ならば、私の通う『オブシディアン王立学園』。そこに通う生徒達で今話題になっている方々。その方々は全てゲームの登場人物と同姓同名、見た目も一緒でそして何よりも1人の女生徒を囲む状況……。まるごとまんま、乙女ゲームの悪役令嬢を断罪するパーティーへの流れ、だからだ。

 …まあ、私リリアンヌは一切出ていなかったけれど。


 そしてマティアス様も、ゲームの物語では全く出ていなかった。侯爵家嫡男で結構な美青年であるのに攻略対象者ではないのだ。


 今の私の状況もなかなかのものだけれど、ヒロインに婚約者を取られてこちらが悪役になるのもごめんなので、そこはまだ良かったのかもしれない。


 彼に手を引かれ、応接間へと案内される。紅茶を出されて人払いをされる。ここまでは前回と同じ。


 …さあ、始まるわ!


「マティアス様…「この間は…すまなかった!!」」 


 マティアス様が私の言葉を遮り勢いよく頭を下げる。多分タイミングを計り過ぎたのでしょう、頭を下げたまま続ける。


「自分の思いだけを押しつけて、君をとても傷つけた……! 本当に申し訳なかった……。今後の事は、君の思うようにしてもらって構わない……!」


 まあ、私の好きなようにしても良いのですか……。

 思わぬ好条件を示されたけれど、さてどうしたものかしら。


 私は今回の事を色々考えた。


 家の事を考えれば、貴族の結婚というものは本人の気持ちより本来貴族の家の繋がりや契約的なものだし、このまま継続する事が普通だし正しい。


 そして自分の気持ちとしても、彼に想う人があってもこのまま結婚して良好な関係を築き、お互い家族として支え合う。そうすれば彼の気持ちも変わるかもしれない。そして静かな愛となるかもしれない、とも思う。…だって、私は彼の事が……好きなのだ。


 多分、これがこの世界の貴族の『普通』だ。家同士の関係を考えても一度結んだ婚約を破棄するという事は現実的ではない。

 今回マティアス様に少しチクッと釘を刺して許す。『普通』なら私もそうする。


 …だけれども。私は知っている。彼が愛している方も、そしてかの方にこれから起こる事も。


 そう、マティアス様が愛している女性こそ、私が前世でハマっていたゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達』の攻略対象者の1人、この国の第2王子ルーカス様の婚約者である公爵令嬢カタリーナ シュバリエ様だからだ。


 そして、所謂ゲームは始まっている。恐ろしい事にゲームはルーカス様ルートとして物語が進んでいるのだ。

 ルーカス様はゲームの展開通りヒロインの男爵令嬢と恋仲と噂されている。婚約者であるカタリーナ様を放置して。

 このままいけば卒業パーティーで彼らは……。


 そして、カタリーナ様は『悪役令嬢』として断罪されてしまうのだ!


 …その時、マティアス様はどうする?

 婚約破棄された、昔から思い続ける人。

 更なる婚約破棄騒動に発展するのか、こちらを巻き込んでのドロドロの愛憎劇勃発か……!


 苦しむ未来しか見えない……!!


 『断罪後』の悪役令嬢がどうなったか、国外追放後の彼女の行く末は多分出てなかった思う、だから分からないのよね……。そこは大事なんだけど……。


 ゲームの世界ではカタリーナ様はヒロインを嫉妬から虐め、命の危険にある行為にまで及んでいた。そこにヒロインに扮したプレーヤーの私達は激怒したものだ。


 …でも現実は彼女がそのような事をした(する)とは思えない。そして同じ学園に通っているが今のところ彼女が嫉妬で彼らに何かをした様子は全くない。


 だって、多分彼女はマティアス様が好きなのだ。現実世界の彼女は第2王子にはそれ程関心がある様には見えない。政略結婚として粛々と受け入れている、それだけのようなのだ。


 本当に婚約破棄と断罪は行われるのか……? ヒロイン達の周りはゲーム通りな気はするけれど……。


 でももしゲーム通りに話が進んだら、この現実世界では何もしていないカタリーナ様、その彼女に冤罪がかけられてしまうという事なのではないかしら?


「私の好きなように、ですか……」


 私が呟くと、マティアス様は覚悟を決めたように私を真剣に見つめる。


 私もそんなマティアス様を見つめ、


「私は、皆が幸せになれれば良いと思っております。マティアス様も私も。…勿論カタリーナ様も」


 最後は小さく呟いたものの、マティアス様は一瞬眼を見開いた。


「マティアス様は学園での不穏な噂をお聞きおよびでしょうか。そして信じていただけないかもしれませんけれど、私実は……」


 これから2ヶ月後に行われる卒業パーティーでの『断罪イベント』の事を、マティアス様にお話してみることにしたのだ。


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