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2 マティアス様とリリアンヌ

少しシリアス回になります。

 そもそも私が前世を思い出したきっかけは、私の婚約者、ワーグナー侯爵家嫡男マティアス様との会話だった。


 私リリアンヌはカールトン伯爵家の長女、両親と弟がいる。数ある伯爵家で中のちょっと上…位の家だ。

 大体貴族は家格の釣り合う家や政略的な意味合いで婚約が決まる。あと恋愛も勿論あるけれど、それでも余りにも釣り合いが取れないと難しい。


 だから、中のちょっと上位の伯爵の娘の私が侯爵家嫡男と結婚というのは、まあまあやったね! て感じなのだ。


 そしてマティアス様は、金髪に緑の瞳、優しげなイケメンで令嬢達にとても人気だった。だから私もお話が来た時とても嬉しかった。密かに憧れていた方との縁談、周りからも羨ましがられ浮かれていたのだ。

 …彼の瞳が私を見ていない事に気付かずに。


 婚約が決まってから、折々の贈り物やパーティーのエスコートは完璧で私は益々彼に惹かれていった。

 始めはとても幸せで嬉しくて、…でも、少しずつ彼が私を見ていないような、もやもやとした不安にかられるようになった。


 そんな日々が続いたある夜会の日…。私は気が付いてしまった。彼が切なげに見ているその先に居るひとを。見間違いだと思いたかった。でもそれからいつも彼女がいる時必ずそっと見つめている事に嫌でも気が付いた。そして……多分これは私の勘違いではない、彼女も彼を切なげに見たのだ。ほんの一瞬だったけれども私には分かってしまった。


 何度も勘違いだと思い込もうとしたけれど、一度気付いてしまった事は何を見ても真実味を帯びて私を苦しめた。何より、彼の心が私にない事を感じた。


 悩んで悩んで……。彼と、きちんと話をしようと決めた。

 でも、もし彼に思い人がいると言われてもどうするかなんて決まっていなかったけれど。


「私の思い違いだったら、本当にごめんなさい…。もしかして、貴方には他に思う方がいらっしゃるのでは……?」


 侯爵家の応接間で向かい合い、彼に人払いを頼み紅茶を用意させた侍女達を下がらせた。おずおずと私が切り出すと、マティアス様は一瞬目を見開いて……、それまで浮かべていたその優しげな笑顔が消えた。


 そんな事はない、君の勘違いだよ……って言って欲しかったのに……。


 彼は数秒考えてから、私を見た。…私は、指先が震えていた。


 この時、彼は初めて私をきちんと見たのではないだろうか……。

 彼の美しい緑の瞳が私を捉える。


「…誰かに、何かを言われましたか?」


 どこか冷たい笑顔でサラリと聞かれる。


「いいえ……。誰にも。私が、そう感じたのです。貴方があるお方を……切なげに見つめていらっしゃるのに気付いたので……」


 私も自分の心が凍えていくかのような心地で答えた。


 彼は私から一度目を逸らし少し考えてから、また私を正面から見据える。


「…そうですね。一度きちんとお話をした方がよいのかもしれません。そうです。私には思う方がおります。唯一、思う方が。そして、貴女がきっと考えておられる方です。だから私はこの思いを伝える事も周りに気付かれる事もあってはならない。ですが私は侯爵家の跡取り、結婚をしない訳にはいかない。貴女の事は侯爵夫人として大切にしていくつもりです。…ですが心は、一生彼女のものです。貴方には差し上げる事が出来ない」


 ヒュッ。


 呼吸が、止まった気がした。


 心が凍てついてしまって動けない。

 何か、言いたいのに何を言っていいのか分からない。


 震える手を口元へもっていく、あれ、苦しい、本当に息が出来ない。呼吸ってどうやってするんだった……?


 マティアス様がこちらに何か言っている、だけど何を言っているのか分からない……、もう何も、分かりたくない。


 そうして意識が暗転した。



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