10 ノーマン公爵邸にて2
私はノーマン公爵に、考えていた説明を話し出す。
「実は私は、第2王子殿下と仲良くされているマリー嬢、彼女の話を聞いてしまいまして……」
「あぁ、その辺りの話はマティアスから聞いたので承知しているよ。第2王子であるルーカスが、その立場と婚約者もいる身でありながらしているいい加減な生活の話は、周りからも聞き及んでいる」
あら! …そうよね、マティアス様からお話はしてある筈でした。それでは一体どの辺りのご説明をすれば良いのかしら?
「…私が聞きたいのは、リリアンヌ嬢、君の正直な気持ちだ」
私の……気持ち? あぁ、もしかしたら…、私がお2人への嫉妬や腹いせに、嘘をついていると思われている?
「ノーマン公爵様、私は嫉妬にかられて嘘などは申しません」
そこはハッキリさせておかないと! 私は真っ直ぐにノーマン公爵の金の瞳を見た。
ノーマン公爵は少しキョトンとした顔で私を見てから、一瞬微笑んだ後仰った。
「いや、そうではないよ。私が確認したいのはリリアンヌ嬢、貴女がマティアスに無理矢理今回の件に協力させられているのか、それとも本当に納得した上での彼らへの協力なのか、という事なのだよ。
今回の件、全てが上手くいったなら貴女とマティアスとの婚約もなくなるかもしれない、という可能性は分かっているかい?
2人の婚約は家同士の政略結婚だろうが、少なくとも貴女はマティアスを憎からず思ってくれているのだろう?
しかも婚約破棄をしたら、どんなに理由があるといっても貴女の経歴に傷が付く。それを分かっていてこの件に協力するのかい?」
最後は私の心の奥まで見透かすような、真っ直ぐな射抜くような目で見ながら言われた。
あぁ、嘘と疑われた訳ではないのね……。
でも私の気持ち……。私の今後。
その事を思い遣ってくださった上での今回のお呼び出しだとは思わなかった。
本当に、なんて方なのだろう。
特に私とは関わりがある訳でもなかったのに、こんなに思いやってくれる人なんて初めてだわ。
ノーマン公爵は、じっと私の目を見ている。彼の金の瞳が私に嘘を許さない。
「…おっしゃる通りです。私はマティアス様をお慕いしております。初恋で、婚約のお話をいただいた時は本当に嬉しかったのです。でも……。
マティアス様は別の方を想っておられました。それに気付いた時には絶望しました」
マティアス様がハッと私を見る。私は彼を見ないまま話し続けた。
「…そんな時、私は、…前世を思い出したのです。
前世で私は何度か恋をして、失恋もして……。恋を無くしたらその時は悲しいけれど、また立ち直れる。強くなってまた新たな恋や違う生きがいを見つけていく事が出来るんだって……。そう気付いたのです。
荒唐無稽で信じられない話でしょうが、私はそれで立ち直れたのです」
2人は黙ったまま、話を聞いてくれている。
「そんな時、マリー嬢の……、第2王子殿下のお相手ですね、彼女の企みを知りました。
このまま放っておいたらカタリーナ様に冤罪がかけられてしまう。
でもこれは、カタリーナ様が公爵家側からは出来ない婚約破棄を出来るチャンスで、マティアス様と幸せになれる道があるのだと気付いてしまったら、黙っているのは卑怯だと思いました。
…私いっときは、もし何事もなくカタリーナ様が第2王子とお幸せになっていてくださったのなら、このまま婚約を続けてマティアス様と静かな愛を育めるかもとも思っていましたの。
…でもカタリーナ様が不幸におなりになるのは辛いですし、婚約が白紙になられたのなら……私は邪魔にしかなりません。そのままでは3人ともに不幸になってしまいますわ。それならば、お2人だけでもお幸せになっていただきたいのです。
…後悔する時もあるのかもしれません。でもこの決断は私のプライドですわ! 決して譲れません」
お2人には失礼だったかもしれない。特にマティアス様には耳に痛い言葉も口にしてしまったと思う。
…だけど、これが私の正直な気持ち。例え辛い事が待ってると分かっていても、ずっと後悔する様な事はしたくない、そんな道は選びたくない。自分の心を裏切りたくない。
『愛してるから身を引くの』なんて悲劇のヒロインみたいな事も言いたくない。
くしくも前世を思い出し、その中のゲームで知り得た事実だったけれど、何も知らず独りよがりに恋に悩んでいるだけよりずっと良かったと思う。
私は真っ直ぐノーマン公爵を見た。




