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1 卒業パーティーと私

初めてのお話です。ゆるい設定なのでツッコミどころが多々あるかと思います。温かいツッコミを入れていただけたら有り難いです!

「カタリーナ シュバリエ! 君との婚約を破棄する!!」


 この国の第2王子、ルーカス オブシディアンはそう高らかに宣言した――





 かつて小国が覇権はけんを争い合う戦乱せんらんの世に、黒髪に金の瞳の1人の騎士が現れた。騎士は少数精鋭しょうすうせいえいの騎士達を率い国々を制定せいていし、王国を作った。騎士は王となりその美しい黒曜こくようの様な黒髪から、『オブシディアン王国』と名付けられ長く平和が続いた――。



~~~~~



 天井高くきらめくシャンデリア、美しい大理石の床に華麗かれい装飾そうしょくされた壁や柱、磨き上げられた室内に飾られた国宝級こくほうきゅうの花瓶に匂い立つ美しい花々…。


 オブシディアン王国の壮大な王宮の広間の一つを貸し切った王立学園卒業パーティー。『王立学園』というだけあって王宮で開催されるこのパーティーは、学生達のあこがれであり自慢である。学園は王宮から少し離れた場所にあるのだが、このパーティーだけは特別なのだ。


 高位の貴族でない者や、家の経済状況けいざいじょうきょう等によっては社交界デビューか卒業パーティーでしか入る機会がないという者もいるだろう、豪華絢爛ごうかけんらんな王宮の広間。


 王族の方も参加される為、学生はこの日はめいいっぱいのお洒落しゃれをし、大抵たいていの者は早めにこの会場に来てこの高貴な雰囲気と3年間の学園生活の集大成しゅうたいせいを味わおうとしていた。


 そんな、皆が集まりパーティーの開始を待つ騒めきの中それは起こった。


『カタリーナ シュバリエ! 君との婚約を破棄する!』


 ……本当に、始まってしまいました!


 もう? ……ちょっと、早くない?

 私は持っていたスイーツのお皿を危うく落としそうになった。

 

 王立学園の卒業パーティー会場のほぼ中央で、金髪碧眼きんぱつへきがんの美しい青年、この国の第2王子ルーカス オブシディアンの声が響き渡る。

 そのかたわらにはブルーのドレスを着たピンクの髪の美少女、その周りにはこの国の高位貴族の令息4人が……。


 そしてその前には見事な縦ロールの金髪、紫の瞳の美少女カタリーナが向き合っている。

 公爵令嬢こうしゃくれいじょうたるカタリーナは普段から感情を表には出さない。今回もりんとした表情で彼らを見ている。


 初めは何かの余興よきょうかと思っていた人達もあまりの雰囲気に息を呑んでこの騒ぎを遠巻とおまきに見はじめた。

 

 向かい合う1人対6人…、を囲む卒業パーティー参加の生徒達……、の更に後ろの位置から、私リリアンヌ カールトンはこの度のこの非常事態ひじょうじたいを見守っている。……見守りながら、お皿に乗せたスイーツを慌てて口に入れた。

 ――急がなくちゃ!

 

 実は私、この度の『断罪だんざいイベント』なるこの事件が起こる事を知っていた。

 それは2ヶ月程前、とある事をきっかけに『前世の記憶』を思い出したから……。


 前世は日本の20代後半ブラック企業の会社員。そんな私が仕事の合間あいまいやしにハマっていたのが、所謂いわゆる乙女ゲーム『薔薇ばらちかい〜5人の騎士たち〜』だった。不遇ふぐうの少女時代を送ったヒロイン、子爵令嬢ししゃくれいじょうマリーが王立学院に入学し、第2王子、宰相さいしょう令息、侯爵家こうしゃくけ令息、伯爵はくしゃく令息、騎士団長きしだんちょう令息と恋をする学園シンデレラストーリーだった。


 前世を思い出した時は本当に驚いた。今まで現実の世界と思っていた自分のいる学園に、ゲームの登場人物とうじょうじんぶつ全員ぜんいんそろっていたのだから。


 とは言っても、私リリアンヌはゲームには一切登場していない。


「……とんでもない事になってきてるわね……」


「……本当ね……」


 同じ2年の伯爵令嬢サリアがつぶやいたので私も頷いた。領地が近く仲の良い幼馴染おさななじみだ。

 彼女は私の持つスイーツ用の取り皿を見て、「もう食べてたのね……」と呆れたように呟きつつ、彼らに視線を戻した。

 王城のスイーツなんて、なかなか食べられないわよ?


 ちなみに卒業パーティーは2年生から自由参加なのだ。そして3年生は余程よほどの事情がない限りは、皆参加する。


 そう本来ならば、この卒業パーティーは3年間の学園生活最後の思い出作り、周りの貴族達との繋がりを強めこれから成人した貴族として生きていく為のプレ社交会。皆が楽しみにしていた一大イベント、こんな悪ふざけな余興に使われていいものではないのだ。


 だから私も、前世を知りながらも初めは半信半疑はんしんはんぎだったのだ。


 いくら普段第2王子が婚約者たる公爵令嬢をないがしろにし、あのピンクの髪の子爵令嬢マリーをはべらせていても。

 ゲームと現実は違うと思いたかった。この世界の常識的に考えて、正式な手続きもまずにこんな所で婚約破棄の宣言だなんて。


 ……だけど彼らは始めてしまった。


 ある意味、こちらも計算通りだけれども。


 私はチラリと、公爵令嬢カタリーナ様の後方の人垣を見た。そこには私の婚約者、金髪にエメラルドグリーンの瞳の侯爵家嫡男マティアス様がいる。


 そして私はそっと取り皿を返し、次はあのスイーツよね、と視線で食事テーブルを密かにチェックした。そしてふうと息を吐き、これから始まるハズの『断罪パーティー』に向き合ったのだった。




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