09.ゆーはなにしにVR?
いやしかし、考えようによってはチャンスだ。
ロールプレイガチ勢という、面倒要素はあるにはあるが、それでもまーちゃんは初心者。
うまく俺が誘導して、んでもって育てれば、戦闘職ナシの、完全生産職キャラにすることも不可能ではない。
まぁ、前提としてキャラメイクとチュートリアル時点で、その辺にスキルとステータス振ってないことが必要だけどな。
とりあえず、その辺りの探りを入れてみるか。
「んで、お前らはまーちゃんに、なに言い寄ってたんや?」
「んー? この世界へようこそー、的な?」
「それ、多分ここくる前にされてんで」
「だよね。でもまぁ、一応ね?」
「そんなこと言って、何も知らない子を悪いことに引き込もうとしてたんちゃうやろな?」
「そんなことないよぉ……」
若干ネズミの目が泳いでいる気がしないでもないが、まぁこの二人の目的なんて俺にはどうでもいい。
問題は、まーちゃんがどういうキャラにしているかだ。
「まぁ、それはええわ。ワイがんなことさせへんしな。
それに、誰に誘われるかやのうて、まーちゃんが何したいかが大事や。
まーちゃんは何かやりたいことあるんか?」
「やりたいこと……?」
まーちゃんはポカンとした顔をしている。
って、何もやりたいことないのにゲーム始めたのかよ!?
もしかして、やりたいことってのがロールプレイなのか? だとしたら納得だけど。
「あー、色々あるやん? 大抵のことはなんでもできる世界やし」
「漠然としすぎて、わかんないパターンだね」
「せや、ネズ先生とアカ先生はどーなんや?」
「ネズ先生ってボクのこと? センセイかー」
先生と呼ばれて、まんざらでもなさそうな顔だけど、その顔もネズミなんだよなぁ。
チーズの匂いに誘われたネズミが、鼻をヒクヒクさせている表情に近いものがある。
昔見た、ハムスターの動画を思い出すなぁ……。あれ可愛いんだよな。
ま、飼うとなると世話が大変……。
そうじゃない! 今聞きたいのは、二人のやりたいことだ。
「いや、話進まんな!? 二人はなにやりたくて、ここ来たんや?」
「んー……。観光?」
「観光て!」
「楽しそうじゃない? 色々見て回るの」
「あー、うん。せやな。そういうのもアリっちゃアリか」
ゲームなのに、ゲームせず見て回るだけってのは、俺としては違和感しかない。
けれど、俺みたいなゲーム部分のガチ勢じゃなければ、フルダイブとは程遠いながらも、見た目だけは綺麗なこの世界は、そういう使い方もアリなのかもしれない。
「せやな。そういうのもアリや。
けどな、せっかくやったら、『最強を目指す!』とか、『大富豪になる!』とか、そういう野望っちゅうもんを持つんちゃうか?」
「そうだねぇ。それじゃあ、ボクはケモノの国でも作ろうかな」
「えっ……」
「ケモノの配下をはべらせて……。俺は、ケモハーレムを作る!!」
「本人ネズミやのに!?」
どうやら俺は、とんでもない深淵を覗き見てしまったのかもしれない。
いや、もっと早くに気づくべきだった。
わざわざ獣型のキャラクターを作るくらいなのだから、そういう趣味のある人だという危険性を。
「ま、まぁがんばりや……。
あんまり見かけへんけど、そういう仲間集めたらできなくはないんちゃうかな……。
ワイは興味ないけど」
「いやいや、トンちゃんもこっちおいで?
大丈夫、怖くないよー? もっふもふだよー?」
「やめえ! ワイは今でこそこんな姿やけどな!
ホンマの姿は、そりゃもうめっちゃカッコええんやからな!?」
「ホントの姿……?」
俺の言葉に、まーちゃんから疑問の声が上がる。
あぁそうか、チュートリアルでも軽くしか説明されてないから、ちゃんと理解してないんだろうな。
まずはこの世界の、逃れられぬ運命を説明してあげたほうがいいようだ。