07.ガチ勢
「ふぅ……。すっきりした」
「ワイは、げっそりしたわ……」
デカネズミによるすりすり攻撃により、俺の精神もすりすりとすり減っていた。
もうなんか疲れたし、今日は普通にログアウトして寝てしまいたい。
とはいえ、ここまで関わってしまったからには、このまま放っておくわけにもいかない。
それに、ここまで精神をすり減らしたんだから、せめてこのマコちゃんとやらが、俺の条件に合うかどうかくらいは確認しておこう。
「んで、そのマコさん? は初心者さんなんか?」
「うん。今日こっちに来たばっかりなんだってさ」
「こっちに来た……? あぁ、初ログイ……、むぐっ!?」
「おっと、ちょっとボクたち話があるから、あとはアカさんよろしく〜」
ネズ公にガシッと口を押さえ込まれ、少し離れた路地へと押し込まれる。
ここまできたら誘拐犯のやりかたじゃねーか!
「なんやねんほんま!!」
「ちょっとマジメな話。言っておかないといけなくてね」
「は? マジメな話てなんや?」
今までとは雰囲気……、オーラとでもいうものが違う。
わちゃわちゃとバカやってたさっきまでと違い、俺の中身まで見通すような目で見つめられた。
多分ホントにマジメな話なんだろう。
「あの子ね、ガチ勢なんだよ」
「おぉ、ワイもガチ勢なんや! 気が合いそうやな!」
「えっと、多分違う方のガチ勢。ロールプレイガチ勢ってやつ」
「ロールプレイガチ勢?」
「あ、知らない?」
「知らん」
「ではでは、解説しまーす! ウィンドウかもんっ!!」
「いや、なんやそのテンションの変わり具合は!?」
びゃっと出てきた半透明のウィンドウには、デカデカとRPGという文字が出ていた。
あー、RPGって略さなければ、ロールプレイングゲームの略だっけな。
って事は、何か関係あるのだろうか。
「このセカイもそうだけど、VRとかオンラインとかあれど、RPGだってのはわかるよね?」
「ロールプレイングゲームの略やな。んで、あの子はゲームじゃない、ロールプレイングのガチ勢って事なんか?」
「そそ。理解が早くて助かるよ。
ロールは役割、プレイングは……。演技とかそういうの?」
「おまっ……。解説いいながら、ちゃんとわかってへんな!?」
「まーいいのいいの。ざっくりわかってくれればいいんだからさっ!」
なんだコイツ、妙にコミュニケーション能力高いから流されてるけど、わりとガチのやべーやつじゃね?
まぁ、乗りかかった船だ。最後まで聞こうか。
「で、それのガチ勢ってのはなんなんや?」
「つまり、ガチのなりきり勢ってことだよ!」
「ガチのなりきり?」
「そそ。この世界をゲームではなく、本物として扱ってるの。
だから、ログインとかそういうのはナシで!」
「うっわ、めんどくさっ!!」
「わかる」
あー、そういうことか。
つまり、相手がロールプレイングガチ勢だったから、コイツはあの子との意思疎通に苦労してたってことだな? 完全に理解したわ。
となると、ゲームとしての効率を求める俺とは、正反対な子だな……。
うん、めんどくさいから、適当にあしらって次の相手を探すか。
「とりあえずわかったわ。適当に話あわせろってことやな?」
「そそ。理解が早くて助かる〜」
「そのウザったい喋りも、あの子に合わせてんのやな?」
「これはリアルでもこんな感じだよ?」
「…………。本気でめんどくさいだけのヤツやったか」
「ひどい言われようだなぁ! もふもふすんぞ??」
「やっ、やめいっ!! だから顔をうずめんなって……!!」
結局ネズミの拷問に始まり、ネズミの拷問に終わるのか……。
面倒なヤツらと関わってしまったもんだと、俺の運のなさを呪うのだった。