06.ハイテンションケモノ
「おらー! お前らなにやっとんじゃー!!」
「ひゃぃっ!?」
俺の怒号に一番ビビっったのは、当然ながら女の子の方だった。
まぁ関係ない。とりあえず不届きもの二人を成敗だ。
「ケダモノ二匹がかりで女の子に言い寄ってからに!! 怖がっとるんわからんのかぁ!!」
「わー! かわいいブタさん!! とりあえずもふもふさせて!!」
「はいっ!?」
ガシッとネズミに捕まれ、ひたすらにお腹をもふもふ……。いや、ぷにょぷにょとなで回される。
そりゃね、ブタなんで短毛ですし。そしてお腹周りもなかなかにふくよかですよ。
「いやいや待て待て! なんやお前!!
もふもふやったら、そっちのオオカミの方がもふもふやろ!!
だいたいお前ももふもふやし、ワイと変わらんくらいぷにょぷにょやないか!!」
近くで見るとこのネズミも、かなりのぷにょぷにょ……。
というか、二足歩行になっているせいで、着ぐるみのように皮が腹あたりに寄っているのだ。
そりゃもう、カンガルーごっこできるくらいに、包まれるほどのだるんとした皮がな。
「いやー、アカさんのもふもふは常日頃堪能してるからね?
たまには別のもふ成分を補給しないとね??」
「はなせアホンダラ!! だいたいお前ら、女の子ナンパしとったんやないんか!?」
「ナンパ? やだなぁ、困ってる新人さんが居ないか話しかけてただけだよ?」
「困ってるやのうて、お前らが困らせとったようにしか見えんかったぞ!?」
じたばたとしても、いっこうに離される気配はない。
ひたすらにお腹をぷにぷにとされ、醜態を晒すだけだ。
せめてもの救いが、触られる感覚がない事だろう。なにせVRだからな。
もし本当にこんなことされていたら、笑い転げて抵抗できる状態じゃなかっただろう。
「ネズ公、その辺にしておけ」
「はいはい。まー、誤解は解いておかないとだしね?」
赤いオオカミの言葉に、やっと俺は解放された。
てか、ネズ公ってひどい呼ばれ方だな。
けれど、彼らの頭上に表示される名前を見るに、それ以外の愛称は思いつかないかもしれないな。
「どうも初めまして。僕はForest Mouse。よろしくね。
んでこっちが、R.E.Wolfだよ」
「よろしく」
オオカミの方は、一言喋るだけ。まるで添え物だ。
というか、R.E.Wolfって……。厨二感溢れる名前だな。†(ダガー)とか付いてないけど。
それにネズミの方もなんというか……。
「なんやお前、夢の国のナントカマウス的なアレか?」
「ハハッ! キミもお友達になろうよ!!」
「うわ、全然似てへんな。やるんやったら、もうちょっと練習しときや」
「これは手厳しい。で、君は?」
「あぁ……。ワイは通りすがりの空飛ぶブタさんや!
名前はトントン。トンちゃんって呼んでや!」
「パンダっぽい名前のブタさん。ボク、オボエタヨッ!!」
「やっぱ似とらんな。関係各所に怒られてまえ」
「やだー! 怖いお兄さんたちが家に押しかけてきちゃうー!」
妙にノリのいいネズミは、こんな調子でナンパしてたのだろうか。こりゃ相手も対応に困るわけだ。
おかげで俺の場合は、ツッコミが冴え渡って、昨日とは違い、わりとうまく喋れてる気がする。
「で、お前らこの子困らせて、なにしとったんや?」
「だからー、困ってる初心者さんとお話ししてだだけだよ? ねー、マコちゃん?」
「…………」
マコちゃんと呼ばれた、被害に遭っていた女の子は、無言でフルフルと首を振っている。
「やっぱ困らせとんやないけー!!」
「うわーん! マコちゃんに裏切られたぁ!!
トンちゃん慰めてー!!」
「お前、ホンマなんやねん!!」
再びぎゅうぎゅうと抱きしめられ、腹に顔をうずめられる俺。
いやマジでこれどういう状況だよ!? ヤバい宗教の勧誘の方がまだマシだぞ!?