表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/68

05.チキンなブタ



「はぁ……。昨日は散々やったわ……」



 散々と言えるほどの試行回数はないと、自分の言葉に自分でツッコミを入れつつも、今日も今日とて噴水裏待機だ。


 残り時間はまだ余裕がある。この姿なら、タイムアップまでの時間は10倍されるから、元の姿に戻らない限りは急ぐこともない。


 そして行動しない時はスリープモード。この間とログアウト中は、カウントが進まない。

これらを駆使してうまく立ち回れば、なんとかなると思う。というか、そう思いたい。



「カウントはあと23時間と45分くらいか。育成も考えたら、急がんとマズイな」



 結婚システム、それは相手がいても、すぐにできるものではない。双方が一定レベルまで達している必要がある。


 そして、俺の求める相手は、剣士でなく魔法使いでない相手。つまり、完全生産職。

戦って、敵を倒さないと経験値が貰えないこの世界においては、最も育成難易度が高いルートだ。


 そのせいで大抵は戦闘スキルも取るし、専業にしようなんてバカはいない。

茨の道どころか、道が途中で崖になってるようなものだからな。


 そんな茨の道を進む者、それが俺の求める人材なのだ。



「…………。高望みしすぎやろか。せめて魔法はアリでもええってことにしよかな」



 少しの妥協案を考えながら見ていると、新人ではない二人が噴水前に来るのが見えた。

まぁ、誰でも入れる場所だし、待ち合わせ場所にする人も多い。だからそれは別段変でもないのだが……。



「なんやあの二人。獣人……、というかほぼ完全ケモノ系ってのはめずらしいな」



 一人は、赤い毛並みの狼。二足歩行で、下は七部丈くらいのズボン。

そして上半身は人間用だが、露出の多い革製防具を付けている。

腹側は白い毛で、鼻あたりまでその白い毛が続いている。

そして真っ赤で、鋭い目つきが特徴だ。


 もう一人は完全にデカいネズミ。緑の目と、頭に乗せた葉っぱの花冠が特徴的だ。

花も一応あるが、小さいのが数個なので、花冠というよりは草冠だ。

手や足、そして長い尻尾に蔓が巻き付いていて、なんだか木属性のキャラに居そうな感じだ。


 そんな二人は連れ添って歩き、ネズミの方がその深い緑色の目で、キョロキョロと周りを見回している。

そして、出てきた初心者であろう人たちに、声をかけて回っているのだ。



「なんやアイツら……。はっ!? まさか同業者か!?」



 こうしてはいられない、優良物件を取られてしまう!

そういう考えがよぎったものの、昨日のことがあって、なかなか飛び出せない。

このまま指を咥えて見ているだけなのか……。

いや、今の俺には指じゃなくて(ひずめ)しかないんだけど。



「くっそ、なんでよりによってワイがおる時にやりよるかな……。

 今日は諦めるか? いや、そうなるとまた一日クソみたいに時間潰す事になるしなぁ……。

 ログアウトはしたないけど、かといって制限時間が……」



 ぐるぐると悩んでいる間も、二人は出てくる新人に次々と声をかけている。

まったく、俺もあんな風にグイグイいけるタイプだったら、などと少し羨ましくなった。



「しかしアイツら、取っ替え引っ替えやな。

 声かけても、ほん数分も喋っとらんやないかい……。ナンパでわんこそばすんなよ!

 ん? いや、あれが正しいナンパスタイルなんか?」



 ナンパなんてした事ない俺にとっては、どっちが正しいかなんてわからなかった。

けどまぁ、相手の方が一枚上手なのは確かだな。


 せめてナンパ術を盗んでやろうと見ていれば、他の人とは違って長く喋っている相手がいる。

相手の見た目は赤髪をくるくると縦ロールにした少女。

顔はちょっと遠くてわかりにくいが、かなり可愛い。

あれはキャラメイクだけで5時間くらいかけてそうだ。


 その子は、初心者装備のシャツの裾をいじりながら、少し俯き気味に二人と話している。

いきなり話しかけられて、困っているようだというのは感じ取れた。


 感じ取れただけで、すぐに助けに行くほど、大胆な性格はしていない。

俺は見た目こそ黒豚だが、その精神は(チキン)だ。



「いやでも、ここで助けたらナンパ成功するんちゃうか……。

 でもでも、そんな下心で行くのもなぁ……。あいつらとかわらんやん……」



 そうこうしていると、ぐいぐいとネズミの方が彼女に近づく。

近づかれた子の方は、逆にじりじりと後ずさっている。



「あー! 見てられへんわ!! 待っとき! 今助けたるからな!!」



 そうして空飛ぶブタは、三人の間に割って入ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ