41.超高性能
「不動先輩のお硬いお話はともかく、ワイも勉強になったわ。
これからは、まーちゃんだけやのうて、NPCとも『ロールプレイングガチ勢ごっこ』をせなならんのやな」
「無理にする必要はないだろうが、あの子が今後販売員を雇うつもりなら、その辺りも考えたほうが良さそうだ」
「あぁ、せやせえや。その話やったな。
ほな、戻ってまーちゃんに解説したってくれるか?」
「…………。もし、不用意なことを言いそうになったら……」
「その辺はまかしとき! ワイは適当に取り繕うのは得意やからな!」
「それは自慢げに言うことではない気もするが……」
チョロ先輩は呆れ顔だが、実際に今までうまくやってきたし、これまでのまーちゃん相手の経験が活きるときだ。
ゲームの運営が変わっていくにしても、今はまだ楽しみたいという気持ちの方が勝っている。
だからこそ、こちらがうまく対応してもいいかなと思う。
それに、この先が少し楽しみでもある。
もしかすると、触覚なんかも感じるような、本当に異世界に入り込むようなゲームになるかもしれない。
そんな期待を持ってしまうと、今すぐ手放す気にはならない。
それになにより、そうなった時に備えて、今のうちに最強キャラを育てておきたいという気持ちになるのが、廃人効率厨ゲーマーのサガというもんだ。
「ほな戻ろか」
「ああ」
ふよふよと飛ぶ俺についてくるように、チョロ先輩はゆっくりと俺の後ろを歩く。
しかし、急に止まった俺に顔をぶつけ、むぐっという言葉を漏らした。
「痛くはないが……。なんとも不思議な感覚だ」
「いや、スマン。ちょっとアレ見てみ」
「ん? なんだ?」
指指す先……。今は黒ブタの姿なので指ではなく蹄なのだが、その先には朗らかな笑顔を浮かべるNPCと、少し顔を赤らめるまーちゃんが居た。
「なんだ? 何か話をしているのか?」
「あんさ、ホンマにガールズトークしてんちゃうん?」
「いやしかし、相手はNPC……。だが……」
「さっきの話もあるしな」
「さすがに雑談までできるとは、すごい性能だな」
「ほんまそれ」
ただ、見ている限りは、雑談をしているというよりは、一方的にまーちゃんに話しかけているようにも見える。
コクコクとうなずいたり、フルフルと首を振ったり。
YESかNOの反応しか示さないまーちゃんに、NPCがうまく話を合わせているように見えた。
これ、昔のゲームと立場逆転してないか?
ふよふよと俺が近づけば、すっとまーちゃんの腕が伸びてきて、俺はいつもの定位置に収まる。
つまり、抱き抱えられている状態だ。
「なんや楽しそうやな」
「うっ……、うん。服……、褒められたの」
「ほう、可愛い服やもんな。よかったな」
コクコクとうなずく姿は、いつかお土産にもらった赤べこを思い起こさせる。
まーちゃんは、嬉しいながらも緊張して、言葉を発せないでいるようだ。
「トントンさんを抱き抱える姿も、とってもお似合いですね。
せっかくですから、色んなぬいぐるみを見ていかれませんか?」
「ほう、それもええかもしれへんな。まーちゃんはどんなぬいぐるみがええ?」
その応えは、フルフルと否定の赤べこで返ってくる。
これ、現実だったら首痛くなるだろうな。
「あら、残念です。きっとお似合いのものをご紹介できたと思うのですが……。
ぜひ今度、オーナーのお店にいらしてくださいね。その時は、私が案内させていただきますね」
「えっ……。今の営業やったん!?」
「そのようだな……」
「いやぁ、先輩は優秀な子スカウトしたんやなぁ!
人を見る目があるのは、さすがの商売人やで!」
「そっ、そうか?」
NPCの勝手な行動に困惑していたチョロ先輩だったが、褒めればすぐに顔が緩む。
ホントにちょろい人だ。
しかし、こうやって先輩のペースに戻してやれば、話しやすいというものだろう。
「あ、んでやな、さっきの話の続きなんやけどな……」
「申し訳ありません。
差し出がましいとは思いながらも、マコさんには私から、雇用契約について先ほど説明させていただきました」
「えっ……」
「あ、あぁ……、そうなんか。さっ、さすがやな!
さすが先輩のお眼鏡にかなうだけあって、ホンマ優秀や!」
「お褒めいただき光栄です」
「…………」
活躍の機会を奪われた先輩は、怒るにも怒れず、なんともバツの悪そうな顔をするのだった。




