04.まずは素体探しから
たとえ現実がゲロ以下のクソゲーだったとして、それでも帰ってこないといけないのは変わらない。
こっちでメシを食わなきゃ餓死するし、風呂入ってないと向こうに行ってボスをボコってる間、俺自身の悪臭とも戦わなきゃいけなくなる。
唯一向こうでもできることといえば、寝ることくらいだが、それもスリープモードでアラームかけられるだけの、起動放置してるのと変わらない。
残念なことに、どんなにリアルなVRゲームだって、所詮は仮想の現実。
残念な方の現実に重なるようにしか存在できない、儚い世界だ。
そろそろ完全にトベる形のVRでてきて欲しいもんだね。
そんなことを久々に張った湯船で考えながら、俺は一つの結論を出した。
「仕方ない。ナンパするか」
最低な現実では、最低な結論しか出ないな。
まぁ、他にキャラ削除を回避する方法なんてないんだけど。
そう、結婚システムを使えば、キャラ削除は回避できるのだ。
相手を探し、子供という建前でキャラクターを引きつぐ、それが結婚システムだ。
なら、もう一つアカウントを取ればいいなんて話だが、それはできない。
一人に付き一つしかアカウントを持てないのだ。これは厳格なルール。
だから、誰かを頼るしかない。そして俺が頼れる人なんて、居るはずもない。
「ただいま、世界。あ、じゃない。ワイが帰ってきたでぇ!!」
ベッドの上の黒豚は、いつもの鳴き声を上げた。
まぁ、その黒豚って俺のことなんだけど。
そして善は急げ、思い立ったが吉日と、ある場所へと向かう。
そこは初心者が最初に降り立つ地。王都の噴水前だ。
じっと水が噴き出る柱の後ろに隠れ、俺は相手を見定める。
初心者で、そして剣士を目指す風ではなく、ついでに魔法使いも目指してない雰囲気の子……。それが条件だ。
「おっ、きたきた。さてさて、どうや?」
最初の子は女の子。出てきてすぐ、どうやら待ち合わせていた男と話し、すぐにどこかへ行く。
「くっそ、売約済みかいな! 悪くなさそうやったのにな」
まぁ、一度目で成功するとは思ってなかった。
しかし、正直面倒なのでさっさと終わらせたい所だ。
次に出てきたのは、男の子。あ、男か女かなんて、見た目の判断だ。
この世界は性別なんて存在しないし、見た目がどっちかっぽいってだけ。
だから男の見た目であっても、特に結婚システムに問題はない。
「ま、まぁうん。悪くないやろ……。中性的な顔立ちやし、ボーイッシュな女の子と思い込めばええ。
何よりワイが求めるのは、契約結婚の相手やしな。妥協は必要や」
自分自身に言い訳がましく言い聞かせ、それでも声を掛けられずにいる。
「いや、相手はそのつもりあらへんかもしれへんし……。
それに万一逆に、ホンモノ引いてしもたら……。ワイの貞操の危機やないけ!!」
当然ながら、声をかけない理由なんていくらでも出てくる。
けれど、このままだとタイムアップでキャラ削除だ。
その目の前に迫った危機を思い出し、覚悟を決めた。
「よしっ! ワイの魅惑でメロメロにしたるで!!」
意気揚々と飛び出した先、その男の子に声をかける。
「なっ、なぁにいちゃん。ちょっとそこの店で、一緒に茶しばかへんか?」
「……は?」
人間とは、たった一言……。いや、一文字でここまでダメージを負うのだと、俺は初めて知った。
その一文字に気圧され、もう次の言葉が出てこない。
「あっ……。いや、ちごうてな……」
「え? 何? 俺に何か用?」
「いやほら、あれや。えっと……」
「ちょwwwドモりすぎwww とって食ったりしないってばwww
もしかして、君初心者? 初めてなら一緒に狩りでも行く?」
「あわわわわ……。きょ、今日のところは許しといたるっ!!」
情けない言葉を残し、ピュイ〜と飛んで逃げ帰る。
ダメだ、ちゃんと何言うか考えておかないと……。
だって俺、こっちでも現実でも、ここ数年ロクに人と話してないんだから……。