31.かくしごと
「お前なにテキトー抜かしとんねん! まーちゃん泣かすヤツはワイがゆるさんぞ!?」
「テキトーじゃないよ? ホントのことだよ?」
「んなわけないやろ! お前ホンマぶっとばすぞ!?」
「ち……、ちがうの……。さっきのは本当で……」
「えっ……?」
小さな、風にすらかき消されそうな声で、まーちゃんはそう声をひり出した。
そして涙をぽろぽろとこぼし、ひっくひっくとしゃっくりしながら、ぽつりぽつりと喋りだす。
「私……、昔から……、緊張すると……、変なこと言っちゃって……。
それで……、その……。あの時も……、突然話しかけられて……」
「まーちゃん、ええんよそんなん言わんで。
ネズセンセも気にしてないみたいやし、誰にだって変な癖というか、苦手なこともあるって」
「でっ……、でも……。トンちゃんに……、嘘ついてるみたいでっ……」
「ええって、ええって。みんな隠し事のひとつやふたつ、腹に抱えてるもんやって」
よしよしと頭を撫でてやれば、またいつものように抱きついてくる。
けれど今日はいつものように笑顔になることはなく、顔をうずめ、肩を震わせ続けていた。
「ごめんね、隠してたんだよね?」
「んぁ? でも考えてみれば、ワイはそんなふうに言われたことも、言ってるとこ見たこともないで?
相手がネズセンセやったからちがうんか?」
「えっ……。それはそれで、僕が傷つくんだけど」
俺の発言に、今度はネズセンセの顔が曇る。
まぁ、曇ったところで苦笑い程度だから、あんまり気にしてなさそうだな。
「あのね……、トンちゃんは特別……。
こうしてると、なんだか安心するの……」
ぎゅっと抱きしめられたまま、少し落ち着いた声で、まーちゃんは言う。
そういえば、会ってすぐの時は、毎回とりあえず抱き付かれていたような気もするな。
余計なこと言わないようにと、ぐっと我慢して、落ち着くまで耐えていたのだろう。
「そっか。ワイのために頑張ってくれてたんやな。ありがとな」
「ううん……。嫌われたくなかっただけ……」
ずっと抱きしめたまま、まーちゃんは座り込んでいる。
きっとずっと怖くて、いつボロを出すんじゃないかとヒヤヒヤしながら、俺と一緒にいてくれたのだろう。
そして、俺が嫌な思いしないように、ずっとずっと堪えていたんだ。
偽りの自分を演じて、後ろめたさを感じながら、悲しい笑顔を俺に向けてくれていたんだ。
そんなの俺だって同じだ。自分も相手も、ずっと騙してる。
まーちゃんは嫌われるかもしれないって思いながら、それでも俺に本当のことを教えてくれた。
そんなまーちゃんに、俺は真摯な対応をしているだろうか。
「あんな、ワイも隠してたことあるんや……」
「えっ……」
「いつか言わなアカン思てたんやけど、言い出しにくくてな……」
「な、なに……?」
「ワイ、ホンマはな……。まーちゃんと結婚できればなんでもええって思って、近づいたねん」
「えっ……」
その時、世界は静止した。というのは比喩表現だ。
ネズセンセもまーちゃんも硬直し、口をパクパクと餌をねだる金魚のように動かすだけだった。
「まっ! それってプロポーズじゃないのさ!」
「え……?」
「っせぇ黙ってろクソネズミ! テメェは殺鼠剤でも食ってろ!!」
「ちょ、まーちゃん!?」
「あっ……」
顔を赤らめて口を押さえるまーちゃんと、二人がなぜ固まったのかに気づいてしまった俺。
その間には重く、そして熱い空気が鎮座した。
顔が熱い。確かに今の発言って、考えてみればただのプロポーズだ。
いやでもそういうのじゃなく、もちろんゲームシステムの話であって……。
でもでも、どうやって説明したらいいものか……。
まーちゃんにゲームとして話すのはご法度だし……。
「と、囃し立てたものの、あれでしょ?
寿命が近いから、結婚したいってことでしょ?」
そんな俺の気持ちを察したのか、ネズセンセは助け舟を出してくれたのだった。