03.残り時間は24時間
「おい、またボス討伐のアナウンス出てるじゃん」
「やべぇな。リスポーンしてから何分だ? タイムアタックでもしてんのかよ」
「いやそれよりもさ、このナントカの竜って、上級者もボスの所までたどり着けないって話じゃん?
これマジ情報なのかね? 運営が適当に流してんじゃね?」
「どうだろうな。誰が倒したって名前も出ないし、真相は運営のみが知るってトコだな。
まぁ、かなりの廃人集団がボスをボコってんじゃね?」
「俺たちには関係ない話だなー」
そんなチャットを拾いながら、俺は戦っていた時とは姿を変え、街を歩く。
実際は歩くんじゃなくて、空を飛んでるんだけどな。
建物の窓ガラスに反射する俺の姿は、傷だらけの剣士の姿から、天使のような白い羽の生えた、黒いミニブタに変わっている。
誰も、俺が話にあった「ナントカの竜」を倒した奴だなんて思いもしないだろう。
まー、目立ちたくないしちょうどいい。それにこの姿の方が、時間稼ぎができるからな。
ふよふよと飛びながら、ドロップアイテムの処分と武器防具の手入れを終え、俺は転移魔法で街をあとにした。
行先は俺の家。人の寄り付かない山奥にある、巨大な砦が俺の家だ。
一人暮らしには広すぎるが、コレクターには狭すぎる。
中は、所せましと並べられた収納箱が異様な圧を放つ。
これらの中全てに、武器や防具、レアアイテムが入っていて、この世界のアイテム数の多さを物語る。
まぁ、ほとんどが使い道のない、ガラクタ武器なんだけどな。
「はー、疲れた。次のボスリスポーンまで休憩……」
そう思い、ベッドにダイブしてスリープモードに移行しようとしたその時、ピロンッ♪という音と共に、メッセージのポップアップが上がる。
俺に直接メッセージを送る奴なんて居ないと思いつつも、宙に浮かぶ半透明のメッセージ画面をタッチした。
相手はもちろん、仲の良いパーティーメンバー……、なんてことはない。
俺はソロプレイヤーだからな。そして重度の効率厨。
誰かとやるなんてかったるいし、何より無駄が多い。極めるなら断然ソロだ。
そんな相手にメッセージを送ってくるなんてのは、運営のお知らせくらいなもんだ。
今きたメッセージだって、運営からのものだしな。
「なんや? またバグ修正のメンテか……?」
大抵こういうものは、そういった内容だと決めつけながらも、メンテナンスならボスのリスポーン間隔調整に影響するので、めんどくさいながらも全文目を通す。
ぐいっと宙に浮かぶ画面をこすれば、内容が下からせり上がってくる。
『◆重要なお知らせ◆
現在ご利用キャラクター、トントン様の使用期限が24時間後に迫りました。
つきましては、結婚システムをご利用いただくか、現在のキャラクターを放棄し、新たなキャラクター作成していただく必要がございます。
ご不明な点がございましたら、Q&Aをご覧いただくか、サポートセンターまでお問い合わせください』
使用期限、これがこの世界のルール。そして、俺が最も恐れていた事態。
剣士として最強に至り、そして魔法も極めた俺であっても、このルールからは逃れられないのだ。
「くっそ!! 理不尽すぎるやろ!! なんやねんこのクソシステム!!」
力いっぱい振り下ろした小さくて可愛い黒い手は、半透明のメッセージウィンドウをすり抜け、その下に敷かれたベッドの敷布団へと吸い込まれた。
当然痛くないはずなんだが、ゴンっという音とともに、拳にはビリビリとした痛みが走る。
「いったぁ……。現実の机殴ってしもたわ。
はぁ……。一旦ログアウトしてゆっくり考えよか……」
痛みで少しばかり冷静になったのもあって、俺はスリープではなく、久々にログアウトしたのだった。
「久しぶり。クソみたいな現実」
いつもお決まりの、ログアウト後のセリフを吐きながら。