25.隊長まーちゃんと!
「隊長! 手合わせ願います!」
「はいっ! よろしくお願いします!」
一礼から始まるレベル上げ。なんとも異様というか、ほのぼのした光景だ。
俺たちは毒の取り扱いクエストを終えてから、毒沼でレベル上げをするようになっていた。
というのも、どうやらこのマップは複数あるようなのだ。
一つはクエスト用の、敵のでないイベント用マップ。
もう一つは、俺もお世話になったキノコのモンスターが襲ってくる通常マップ。
そして今いるのが、イベントで隊長を助けた者のみが入ることのできるマップだ。
それぞれはそれぞれに物語の系譜が違っていて、隊長を助けなかった場合、隊長不在でキノコが暴れ出し、人間を見つけ次第襲ってくるようになる。
つまり、普通のモンスターとして活動するようになるわけだ。
しかしこちらでは、「手合わせ」として相手から声を掛けてくるようになるのだ。
もちろん断れば戦闘は発生しないし、万一負けてしまってもHP一桁台で戦闘が終了し、その後は何のペナルティもなく続けられる。
それは、レベル上げにはもってこいのシステムになるということなのだが、それ以上のメリットがあった。
「トンちゃん、全然人いないね」
「せやな」
「もしかして、ここってレベル上げに向いてないの?」
「いんや。最初の頃は、かなりの人がお世話になる場所やで」
「じゃあ、なんで人がいないの?」
「そりゃ、キャップ助けるなんてことするヤツ、そんなおらんやろからな」
そう、人がいないので、MMO RPG特有の問題、「モンスターが足りなくてレベル上げに支障が出る」という状態を回避できているのだ。
その上、時々上位モンスターの黒いカサの敵まで出てくるのだから、狩場効率は特段上だ。
もちろん、その相手もこちらを戦闘不能にはしてこないし、負けても与えたダメージ分の経験値は入るのだから、まさに至れり尽くせりだ。
俺も初心者の頃こんなマップでレベル上げられていたら、今はもっと強くなれてたんじゃないかと羨ましく思う。
そんな考えなどつゆしらず、まーちゃんはキャップの赤い帽子を整えながら、笑顔で俺に問いかける。
「ねぇねぇ、この帽子似合ってる?」
「んー、微妙」
「微妙って……」
「ちゃうねん、あのキノコが被ってたと思うとやな……」
「それナシでも微妙?」
「んー。ま、まぁ、カワイイと思うけど……」
「えへへ……。嬉しいな」
あー、そんないい笑顔されたら、なに被ってたって可愛いわ!! ……とは、さすがに言わなかった。
まーちゃんがかわいいのは元々だし、それにそういう風にキャラデザしたからであって……。
だから! この話は考えるなって前に結論出したのに!
「ま、まぁ、かわいいのはええから!」
「えへへ……。またかわいいって言ってくれた」
「あー! ナシや! 今のナシ!」
「やだ。ナシはナシだよ?」
「……。はぁ、わかった。かわいいから、まーちゃんはかわいいから」
「やったぁ……」
ぎゅっと抱きしめられ、ぷにぷにされる。
もはや慣れてきたとはいえ、スキンシップが激しい子だ。
ま、まぁ、もちろん? これはVRですし? 全然心動かされることなんてないですけど!?
誰に言い訳してんだろうね、俺は。
「でやな、スキルの習熟度教えてーや」
「習熟度?」
「せや。多分な、実演販売が上がってるはずや」
「えーっと、今は3ってなってるね。
あれ? もしかして私、間違ってスキルポイント入れちゃった?」
「ちゃうちゃう。習熟度はな、使ってれば勝手に上がるんや。
ただ、上限があって、その上限を上げるにはポイントを入れやんなんのよ。
せやから、習熟度の上限は100なんやけど、10区切りごとにスキルポイント入れて、上限突破させやなあかんねん」
「ってことは、10までは勝手に上がるの?」
「そういうことやな」
「ふーん。でもトンちゃん、私、実演販売なんてやってないよ?」
「やってたやん」
「へ? いつ?」
どうやら本人は気付いていなかったようだ。
だが俺は、見ているだけだから気付けていた。
これはおそらく、運営の用意した製造職への救済処置なのだろう。




