24.くっ……!殺せ!
「とっ、とりあえずこれ使いっ!!」
「はいっ!!」
ぶん投げたのは、インベントリにあった、対ドラゴン用の剣「どらごんばすたぁ」だった。
ネーミングセンスのふざけ具合がバレるのは一瞬ためらったが、背に腹は変えられない。
ガシャンと音をたて足元に落ちる、禍々しい剣をまーちゃんは握る。
身長と同じくらいの長さ、そして細身な刀身からゆらめく紫の毒々しいオーラ。
まるで骨を寄せ集めたようなデザインの柄をギリッと握りしめ、まーちゃんは飛びかかった。
「すっごいかっこいい剣ですっ!!」(1682)
「はあっ!?」
驚愕する顔のまま固まるキャップ。
その言葉は、止まった時の中で凍りつくように、沼地に静かに響いた。
「たっ! 隊長ーーーーー!!」
叫び駆け寄るモブ、その腕に抱えられたなんとかキャップは、弱々しく辞世の句を述べた。
「これほど強き者と戦えたこと……、嬉しく思う……」
「隊長! 隊長ーー!!」
「おい! 救急班!! 早く運べっ!!」
モブどもはわらわらと寄ってきては、キャップに処置を施そうと右往左往する。
あー、こんなイベントだったんだ……。
俺の時は取るもん取ったら、さっさと帰ったから知らなかったな。
まーちゃんのおかげでイベントを眺められるのだから、なかなか悪くないかもしれない。
そう思いその後の様子を見ていれば、当のまーちゃんは心配そうな表情で、囲まれる隊長へと歩み寄った。
「貴様っ! まだ隊長をいたぶるつもりかっ!?」
「あのっ、これ……」
「なっ……」
差し出されたのは、瓶入りの赤いポーション。それは回復薬だ。
「隊長さんに……」
「…………。かたじけない」
一番最初に隊長に駆け寄ったモブは、深々と頭を下げ、そのポーションを受け取った。
そして隊長の傷口、というか俺に取っては調理中のキノコにしか見えないそれに、薬を掛けた。
そうすれば、小さなHP回復を示す数字が現れる。
「うっ……、うぅ……」
「隊長! 気づかれましたかっ!?」
「わ、私は……」
「喋らないで! 傷口が開きますっ!」
キャップは、言葉の主の後ろに見えるまーちゃんを見て、全てを悟る。
「そうか、助けられたのか……。敵に手を差し伸べるなど……。
しかしだからこそ、お主に相応しい……。受け取るがよい……」
「隊長っ!?」
キャップは、その赤い帽子を外し、まーちゃんへと手渡した。
「あの……。いいんですか?」
「大切にしてくれ……」
「ありがとうございます……」
帽子をなくしたキャップと呼んで良いのかわからない何かは、優しく微笑んだあと、モブのキノコに担がれてどこかへと去っていった。
「って待てーーーーーい!! それ脱げるんかーーーーい!!」
俺のツッコミの声は、静かな沼地に虚しく響いた。
◆ ◇ ◆
「というわけで、この帽子をいただいたんです」
「ほう、あの魔物どもが……。あなたは認められたということですな」
魔導士ギルドの受付をしている老人は、優しく微笑んだ。
どうやら、彼は何か知っているようだ。
「認められた?」
「彼らは、魔物の中でも統率の取れている者たち。
ゆえに我々のギルドは、採集地としているのですよ。
万一のことがあっても、かの者たちならば命までは取らないと……」
「だから試験に使っていたんですか」
「そうです。けれどそれでも魔物と人間、相容れることはありません。
ですが、あなたは認められたのです。彼らと同じ精神を共有する者だと」
「同じ精神?」
「敵対ではなく、共存し合える者だという認識……。とでもいいましょうか……」
「そうなんですか……」
んー、よくわからんが、とりあえずクエストはクリアでいいのか?
そしてなんかよくわからないうちに、まーちゃんはレアアイテムを手に入れたらしい。
あの帽子、俺のコレクションには入ってないんだよなぁ……。
今からでも、なんとか手に入れる方法はないものか……。




