21.じめじめぬめぬめ
「ジメジメ、ヌメヌメ……。気持ち悪い」
「まーちゃん、まだ狩場来ただけやがな」
すでにテンションが下がり切っているまーちゃんだが、見た目だけで実際に湿気やヌメりがあるわけでもない。
なのに大袈裟だなと思いつつ、その演技力というか、なりきりっぷりにはある意味感心だ。
「それで、キノコのお化けを倒せばいいんだよね?」
「せやで。といっても、ただの雑魚や。心配しな」
「よかった……。なんとかなりそうだね」
「まぁ、コボルトより強いんやけどな」
「ひゃいっ!?」
「その上、当然のように毒攻撃もしてくる」
「ひえっ……」
「毒ダメージは、防具で軽減でけへんオマケ付きやで」
「なにそれ、無理じゃない?」
「だからまーちゃんには厳しいかもなって」
「そんなぁ……」
だからといって、俺が何も対策を考えてこなかったわけじゃない。
当然ながら、毒の対策に毒消し薬を大量に買わせたし、それと合わせて回復薬も限界まで積んだ。
あとは、耐久戦法でも勝てるとは思うが……。
「もしワイの仮説が合ってれば……」
「へ? 何?」
「いや、なんでもない。
今回もワイは指示しかできんから、がんばりや!」
「うん……」
なんとも不安そうな顔だ。ちょっと脅かしすぎたかな?
まぁでも、ナメてかかるよりはマシだろう。
ぎゅっと短剣の柄を両手で握りしめ、まーちゃんはおそるおそる毒沼の周囲を歩く。
ガサガサという音にびっくりするも、ただ風がふいただけだった。
俺としては「ビビらせるためだけに風の概念とか入れやがって」と思うところだが、まーちゃんは若干涙目だ。まるで肝試しだな。
そして毒沼を半周した頃、怪しい深紫の花を見つけた。
ふんわりと光っており、明らかにクエストアイテムだとわかる作りだ。
「あっ! これが持っていく毒草だよね!?」
「せやな」
これから起こること、それを知っていても、俺は何も言わない。
ずいぶん昔にこなしたクエストだけど、この花を見て思い出したのだ。
まぁ、ちょっとばかり運営の用意したドッキリを楽しんでもらおう。
「えっと、これの周りを掘って……。根ごと持ってくんだよね?」
「せやな」
スコップを地面に突き刺し、ぐいっと持ち上げる。
その瞬間、周囲にけたたましい叫び声が響いた。
『ギィィィィィィィ!!』
「うわっ!?」
瞬時に持っていたスコップを落とし、耳を塞ぐまーちゃん。
ちなみに俺は、掘るときにはすでにヘッドホンを軽く浮かせていたので、ノーダメージだ。
そう、VRゲームなのだから、耳は塞ぐよりもヘッドホンを離すのが正しい対処法だ。
目の前には耳を塞いでうずくまる、涙目のまーちゃんがいるけど……。
「なにこれぇ……」
「あー、久々やけどキッツいなぁ」
「ちょっと!? トンちゃん知ってたの!?」
「そりゃな。これ、いわゆるマンドラゴラやろ?」
「うぅ……。頭がガンガンする……」
「音量上げすぎや……。あっ、ちゃう!
何事にも警戒心は大事っちゅう、魔導士ギルドの教えってことや」
「そういうのは、もうちょっと被害が少ないものでやってほしいかな……」
「まぁ、ゆっくり喋ってたいんやけどな、そうも言ってられへんで」
「へ?」
「その叫び声、人は殺さんけど、魔物は呼び寄せるからな」
周囲を見回せば、すでに俺たちはキノコのモンスターに囲まれていた。
正確には、俺はセーフモードだから狙われることはない。
つまり、まーちゃんが取り囲まれていたってことだ。
「ひえぇっ!?」
「いたいけな少女に群がるキノコ……。
これはダメな絵面やなぁ……」
「ちょっと!? 何言ってるの!?」
「妄想、空想、暴走中」
「どっ、どうすればいいのっ!?」
「戦えばええやん」
「こんな数とっ!?」
「あ、それな……。まぁ、見てたらわかるわ」
そう言って、俺は放置する事にした。
ま、これはゲーム内イベント。それも初心者が受けるようなものなんだから、袋叩きになるなんてことはないんだよね。




