02.はびこるチートに断罪を
俺の仕事とは、本来はゲームマスターだ。VRMMOの管理、不正の監視。
あとはバグ修正や、クレーム対応なんかも含まれる。
今はまだフルダイブ型、つまり完全に感覚ごとゲームに入り込めるものではないが、十分人気のコンテンツになりつつあるVRゲーム。
そんなゲームの運営管理ってのは、ゲーマーだった俺からすればやりたい仕事だった。
ま、実際に仕事にして面白いかは別。嫌いじゃないけどね。
そして、隣の席に座る女性、生駒愛理が、俺の上司だ。このゲームの、管理責任者でもある。
運営会社である、リトルワールド社の創業から関わっており、元々小さな会社だったのを、今ではそれなりに名の通ったものへと育て上げた人達の一人だ。
けれど、彼女は今でも現場に立っている。
会社の管理より、ゲームの管理の方が楽しいというのが理由らしい。
まーうん、気持ちは分かる。分かるんだけどなぁ……。
彼女の作るゲームシステムは、色々と鬼畜仕様が混ざったり、裏仕様が仕組まれていたりと、なかなかどうして、純粋な気持ちで同意させてくれないのだ。
そんな彼女は、仕事もせず上の空で、いつもデスクに飾ってあった、水色のビーズでできたクマのストラップを触っている。
「愛理さん、体調でも悪いんですか?」
「んー? そういうわけじゃないんだけど……」
「やる気出ない期間ですか」
「まー、うん。そうかもねー」
「そういう時期もありますけど、しないとたまっちゃいますよ? 仕事」
「んー」
なんとも気の抜けた返事だ。
と言いつつも、俺もそういう時期はあるし、仕事効率を常に一定で保てる人なんていないだろう。
もしくは、昨日の来客の件で何かあったか……。
ともかく、ある程度フォローするつもりではある。
いつもは俺がお世話になってるしね。
「ねー、石切君はさ……。ゲーム内転生ってあると思う?」
「現実逃避ですか……」
「かもねー」
「ゲーム内転生なんて、マンガの読みすぎですよ」
「かもねー」
気が抜けてるというか、魂まで抜けてそうな様子だ。
いつもの楽しげに仕事する姿とは、雲泥の差だなぁ。
気分転換になるよう、話を合わせておくべきかな?
「それで、もし万一あったとしたら、どうだって言うんです?」
「ほら、大抵そういうのって、チート能力付くじゃん?」
「パターンですね」
「私たちなら、BANするよね」
「チートなんて、即座にアカウント停止ですよ。
バグ利用だとしても、凍結は確定。キャラは削除ですね」
「私たち、どれほどのゲーム内転生者を消してきたんだろうね」
「ははは! あるわけないので、心配しなくて大丈夫ですって!」
「だといいんだけどねー」
愛理さんは、クマのストラップの腕を、マッサージするかのように、人差し指と親指でぐりぐりと撫でる。
何がどうしてそんなに気がかりなのか、俺には理解しかねる話だ。
「それじゃ、転生者探します?」
「ぷっ……。キミ、面白いこと言うねえ!」
「えー……。愛理さんがふってきた話じゃないですか……」
「まーねー」
「ほら、仕事しましょう。山積みになると面倒になって、余計手が付けにくくなりますよ?」
「あっ! そうだ!」
「はいっ!? 急になんです!?」
「インタビューしよう! チートギリギリの、あのプレイヤーをさ!」
「どうしてそうなるんです!?」
彼女の思いつきは、いつものことなんだけどね。
まさか、そのインタビューが伏字だらけになるとは、その時は思ってもなかったんだよなぁ……。